勇者ライフ!

わかばひいらぎ

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魔王討伐編

その5 魔王討伐

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   魔王は、二人の魔道士が殺されたところを投影魔法で見ていた。過去の者を復活させてみせたあの二人が為す術なく殺されるとは思ってもみなかった。

 しかし、魔王はついさっき本来の力を取り戻していた。本人もよく分かっていないが、杖をひたすら右足の親指と人差し指の間でトントンすると力が溜まるらしい。

 魔王は席を立ち、激を飛ばすように大声で叫んだ。

「勇者よ、もう一度儂を止めることができるか!」
「うわああああ止まってえぇぇ!」
「へ?」


「あーあ、派手に事故ったな」
「ふぇぇ……ごめんなさい……」
「し、死ぬかと思った……」

   ブレーキの壊れた車は暴走し、大きめな岩をジャンプ台として魔王城に突っ込み、車は既に動けないほど変形している。

「まぁでも、ここが魔王城だろ?どっかに魔王いんじゃね」
「自分の家に車突っ込んでるとか可哀想」
「ん?待て、あれは?」

   奥の方をよく見ると、紫色のマントの様なものが見える。明らかに誰か倒れていた。

「まさか!」

   フーリが駆け寄り、顔を見たあと首元の脈を測った。

「こいつ魔王!死因は多分轢かれたから!」
「嘘だろ……こんな事って」

   まさかの倒し方にクライブは膝から崩れ落ちた。

「まぁそう気を落とすなって、殺せたわけだし給料は貰えると思うよ?」
「金の心配をしてたわけじゃねぇよ」

   ふと、魔王の死体の方を見ると、マルセルが魔王をジロジロ見ている。

「マルセル、何してんだ?」
「この死体を粉々にしようかなーって。また復活されても困るし」

   そして、マルセルは躊躇することなく爆破魔法で死体を粉々してみせた。塵となった魔王は風魔法により集められ、よく分からない液体の入った瓶に入れられた。

「よし!魔王討伐完了!」

   こうして、人類の恐怖の象徴であった魔王は交通事故という最期を迎えた。


「んで?どうやって帰るんだ」

   壊れた車を指さしながらクライブが言った。

「そうか、車壊れたんだった。確か歩きで一週間だっけ?うわ最悪」
「最悪なのはこっちだ。俺活躍する場面なかったじゃん……」
「なぁマルセル、修復魔法とかないの?」
「ん?修復魔法はないけど移動魔法ならあるよ」
「移動?」
「うん。簡単に言えばテレポート?みたいな」
「お前そんなことできたのか!凄いな」
「えへへ、もっと頭撫でて」
「いや出来るなら最初からそれで行こうぜ……」
「何言ってるのクライブ。魔王城に行くとなったら、行くまでの経過が大事なんだから」
「車で来た奴が言うか?それ?」
「まあ帰れるんだし、とりまこれで帰ろうぜ」
「わかった。じゃあ準備するね」

   そう言うとマルセルは小さな魔法陣を三つ描いた。

「この上に乗って。それだけでいいよ」

   三人全員が魔法陣の上に乗ると、マルセルがなにかブツブツ言い出す。小さな声で「愛に飢えている」的な事言ってるが、多分これが詠唱なんだろう。気づけば、魔法陣からなにやら緑色のオーラが出てきた。

「おお……すごい」

   クライブも感動から思わず声が出たらしい。

「あ、そうそう。ひとつ言い忘れてた」
「ん?なんだ?」
「この魔法の精度クソ悪いから変なところに飛んだら頑張って帰ってきてね」
「は?嘘だろおい!って出れねえ!」
   体が徐々に薄くなり、意識が遠くなるような感覚だ。
「うわああああ」


「うっ……」

   目を開けると、目の前にクライブとマルセルがぼやけて見える。どうやら三人とも離れずに済んだようだ。下はどう見てもフローリングなので、無事に国に帰れたらしい。

「ここどこだ?」

   ゆっくりとなら立ち上がるが、目がぼやけて景色がよく見えない。どうやらテレポートには大きな体力消耗が付き物なようだ。

「うわっ!」

   突然クライブの声がした。

「どうした?」
「何者かに肩を掴まれている!もしかしたら魔王の手下に捕まったのかもしれん」
「あんた、何言ってるの?」
「ひっ、喋った!」

   低い、普通の男性の声だ。だんだんと目のピントが合ってくる。もう一度目を瞑って眉間を押し、目を休ませる。そして、もう一度目を開けると……。

    目の前にはガタイのいい男性か女性かよく分からない人がクライブの肩をがっちり固定している。その見た目はダークドラゴンより恐ろしい。ダークドラゴン見たことないけど。

「ギャー!出たー!」
「出たじゃないわよ。むしろそれはこっちのセリフ。あんた達どこから入ってきたの?」
「え?いや……アハハ……」

   ジリジリと、バレないように後ろへ少しづつ下がる。

(マルセル、おいマルセル、聞こえるか?)
(ん?なに?)
(逃げるぞ)
(クライブは?)
(あいつは……囮だ)

「なにヒソヒソ話してるの?」
「ひっ、あのここって……?」
「ここはオカマバー『first kiss』よ」
「実は僕達、その灰色髪の奴に無理矢理連れてこられたんですよ~じゃあもう帰りますね」
「おい!今俺を売っただろ!てめぇ!」
「あらそうだったのね。じゃあ君、とりあえず奥まで行きましょう。カウンターは満席なの」
「行かん。俺は行かんぞ!金なんて持ってないからな」
「安心してクライブ。僕がカードで前払いしておいたから」
「流石大商人の息子、太っ腹だな!」
「ふざけんじゃねぇ!この際そんな気遣いいらねぇよ!」
「それじゃあお邪魔しました~」
「いやああああ!」

   こうして、人類は安寧を維持することに成功した。ちなみにクライブはオカマバーをきっちり堪能し、ついでに常連になった。
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