ヤクザの組長は随分と暇らしい

海野 月

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第14話

 中井と律花がバーに行き、二時間ほど経っただろうか。連絡があり、ビルの前で車を停めて待っていると中井が律花を抱きかかえ、エレベーターを降りてきた。

 手を貸そうかとも思ったが中井の表情を見るなり動きを止め、後部座席の扉を開けて二人の到着を待つ。

「もっと飲める~!」

「あぁ、そうやなぁ」

 中井の腕の中で不満そうな声を上げた律花が中井の胸を軽く小突く。

 おいおい…。

 ヒヤリとして中井を見るが、彼女のことがよほどお気に入りなのだろう。長い付き合いだが一度も見たこともない表情を律花に見せ、そのまま後部座席に乗り込んだ。

 律花はこの車がもうタクシーではないことなど何も気にしていないようで、シートに身体を預けてからはぐずる気も失せたのか、眠気が勝ってきたのか、目を閉じてこくりこくりと頭を揺らしている。

「…べろんべろんじゃないっすか」

「はは、飲ませ過ぎたわ」

 グラグラ頭を揺らしている律花の肩を中井がそっと押すと、窓ガラスに寄りかかり律花の動きが止まる。

「どこに向かいましょうか」

 勝手に行き先を決める権限などはなく、ルームミラーを見ながら声を掛けると中井は悪い顔で笑った。

「家主がまともな判断でけへんときに家に上がりこむなんてこと、俺には出来んからなぁ~」

「……」

 このまま深い眠りにつこうとしている律花を一人でエントランスから部屋に帰らせるのは確かに心配だろうが…。

「玄関まで送っていって、鍵開けて部屋に入れちまえばあとは平気でしょう」

「そのまま玄関で寝てもうて風邪ひいたら可哀想やろ。…宇佐美は冷たいなぁ」

 目を閉じている律花に手を伸ばし、中井は赤い頬に指をすべらせる。

「どないしようかなぁ」

 普段の律花だったら即座に払いのける指が頬を滑り、首筋を撫でる。くすぐったかったのか目を開けた律花が首を傾け、アルコールのせいで潤んだ瞳で中井を見つめた。

「…すけべ」

 男を挑発するような声色に車内の男二人が一瞬動揺し、空気が変わる。

「律花ちゃん、キスしてもええ?」

「だめ」

 ぷいっと顔を背け、触れていた中井の手を払いのける。今いる場所が車の中だということは理解しているのかどうなのか、目を閉じ再び寝る姿勢に入った。

「えぇ~ちょぉ、律花ちゃ~ん」

 なおも中井はしつこく律花に絡むが、当の本人から寝息が聞こえてくると諦めて律花から視線を逸らし、考えるように一瞬天井を見た後、口を開いた。

「おっしゃ。…律花ちゃんの家に向かう途中、どっかにホテルあったやろ。そこ向かってくれ」

「へい」

 車を発車させ、とりあえず律花の家の方向へ向かう。
 
「…親父が強姦で捕まるなんざごめんですよ」

 もちろん本気で手を出すとは思っていないが随分と熱を上げている中井に釘を刺す意味も込めて小さく声を掛けると、盛大にため息を吐かれる。

「酔っ払い相手に盛るかい。…味見はしたいとこやけど、覚えとらん、って言われるの寂しいからなぁ。ちょぉっと意地悪するだけや」

 頭の中で地図を広げながらある程度場所に目星をつけ、車を走らせていると後ろから手が伸びてきた。

「宇佐美、これ」

 何かを差し出され、運転をしながら後ろ手で受け取る。手に乗せられたのは女が好みそうなふわふわのウサギのキーホルダーだった。

 片手で軽く力を入れて握ると硬い感触があたる。

「…何か入ってますね。GPSですか」

「当たりや。一回腹割いてマスターにもっかい縫ってもらった。律花ちゃんの他の持ち物も調べたけど、とりあえずそれ以外はなにもなさそうや」

 胸元に入れていたスマホが震える。中井がキーホルダーの中に入っていたGPSの画像を送ったんだろう。

「出所調べさせます」

「あぁ、っちゅうてもそれ渡してきた奴の目星はついとる。…裏取りと、こっからは一芝居、付き合ってもらお思って」

 後ろから手が伸び、その手にキーホルダーを置く。カチャ…と小さく聞こえた音は中井がキーホルダーを元付いていた場所に戻した音だろう。

「…だからホテルですか」

「びっくりするやろうなぁ。…忙しくなるで」

 律花に向ける甘い笑みとは全く違う。ギラリと怪しく光る瞳は、宇佐美に向けられたものではなかったが、背中に冷たいものが走った。
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