怖い話

つきがいも

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踏切の女

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 あれは私が大学2年生の頃、友人数名でご飯を食べた後、帰り道で起きた話である。


 その日は会話が弾み、解散したのは深夜1時を回った頃であった。私は帰る方向が同じであった金杉という友人と二人で自転車で帰ることとなった。その日は9月も後半に差しかかり、夜は肌寒い気候となっていた。人通りのない夜道を2人で自転車を漕いでいる最中に金杉が言った。
「一緒に帰る人がいてよかったわ。この時間に一人であそこを通るのは怖すぎる。」
「そうだな。2人ならあそこを通っても怖くないか。」


「あそこ」とは、私たちの家の近くにある踏切のことを指しており、その踏切は地元では有名な自殺の名所となっていた。幸いにも自殺を実際に目撃することはなかったのだが、私が地元を離れるまでの18年間で数多くの人身事故が発生している。また私たちの家は現在地から見ると線路を越えた先に位置しており、その踏切を通る道が家までの最短ルートであった他、夜も遅くまた疲れもあったため一刻も早く眠りたかった私たちはその踏切を通ることにしたのだった。


線路沿いの道を踏切方向に進んでいき、踏切が目視できる位置まで来たその時、線路を挟んで反対側に一人うつむき加減で佇む女性が目に入った。私は瞬時に見てはいけないものを見てしまったと直感的に思い目線を逸らした。その後、見間違いかもしれないという楽観的な考えからもう一度反対側の踏切に目をやると、さっきまで下を向いていた女性がこちら側を凝視していた。
うわ、気持ち悪いと思っていると、並走していた金杉が私に
「ねえ!なんか女の人があそこに立ってない?」と言った。見えているのは私だけじゃないのがわかった途端、少しの安堵感が芽生えたのものの以前として恐怖心が私の内側を支配していた。
「よかった!金杉にも見えてたのか。どうする?このまま踏切を通る?」
「ここから引き返すとなるとかなり遠回りになるし、あそこに立っているだけなら大丈夫でしょ」
「確かに、じゃあこのまま進もう。」


踏切まで300mくらいあったため、その道中は横目で女の動向を探りながら自転車を漕いだ。どんどん近づくにつれ、女の服装や髪型などが鮮明に見えてくる。
女は白いワンピースを着ており、髪は黒の長髪で靴は履いておらず、裸足であることが遠くからみてわかった。前述した通り、季節は秋に差しかかっており長袖を着ている私たちですら肌寒く感じるこの夜に、薄手のワンピースを着ている姿、そして裸足であることが異様であった。踏切までのこり50mをきったころ、ずっと横目で捉えていた女がこちら側に向けてゆっくりと、ゆっくりと踏切を歩いて来た。


「おい金杉!なんかあいつこっち歩いてきてるぞ!」
「やばいやばいやばい、このままだとすれ違っちゃうよね?」
「あぁ、Uターンして後ろを向くのも怖いからこのまま突っ切ろう」

 ゆっくりと近づいてくる女の姿に焦る私たちは、正常な判断ができず、一刻も早くこの踏切から立ち去りたかったため、自転車を目一杯漕ぎ女の横を通り過ぎることに決めた。
私たちは全速力で自転車を漕ぎ、踏切へと近づく。依然として女はこちらを見ながらゆっくりと歩みを進めている。


「なんなんだよあいつ」と今にも泣きだしそうになりながら金杉が言う。
踏切に差しかかり全速力で女の横を通り過ぎる。女は歩みを進めつつ顔だけを動かし私たちから目を離さなかった。


その後、女の横を通り過ぎ、20mほど進んだ。
「もうここまでくれば大丈夫だろ」私が金杉にいい
「そうだな」と安堵の笑みを浮かべたながら金杉が後ろを振り返った。


あーー!
と金杉が叫び声あげながら自転車を全速力でまた漕ぎ始めた。

「おい!待てよ!」と私も後ろを振り返る。
そこには、踏切の真ん中でこちらに正対しながら立ち止まり、満面の笑みを浮かべている女の姿があった。


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