1 / 1
踏切の女
しおりを挟む
あれは私が大学2年生の頃、友人数名でご飯を食べた後、帰り道で起きた話である。
その日は会話が弾み、解散したのは深夜1時を回った頃であった。私は帰る方向が同じであった金杉という友人と二人で自転車で帰ることとなった。その日は9月も後半に差しかかり、夜は肌寒い気候となっていた。人通りのない夜道を2人で自転車を漕いでいる最中に金杉が言った。
「一緒に帰る人がいてよかったわ。この時間に一人であそこを通るのは怖すぎる。」
「そうだな。2人ならあそこを通っても怖くないか。」
「あそこ」とは、私たちの家の近くにある踏切のことを指しており、その踏切は地元では有名な自殺の名所となっていた。幸いにも自殺を実際に目撃することはなかったのだが、私が地元を離れるまでの18年間で数多くの人身事故が発生している。また私たちの家は現在地から見ると線路を越えた先に位置しており、その踏切を通る道が家までの最短ルートであった他、夜も遅くまた疲れもあったため一刻も早く眠りたかった私たちはその踏切を通ることにしたのだった。
線路沿いの道を踏切方向に進んでいき、踏切が目視できる位置まで来たその時、線路を挟んで反対側に一人うつむき加減で佇む女性が目に入った。私は瞬時に見てはいけないものを見てしまったと直感的に思い目線を逸らした。その後、見間違いかもしれないという楽観的な考えからもう一度反対側の踏切に目をやると、さっきまで下を向いていた女性がこちら側を凝視していた。
うわ、気持ち悪いと思っていると、並走していた金杉が私に
「ねえ!なんか女の人があそこに立ってない?」と言った。見えているのは私だけじゃないのがわかった途端、少しの安堵感が芽生えたのものの以前として恐怖心が私の内側を支配していた。
「よかった!金杉にも見えてたのか。どうする?このまま踏切を通る?」
「ここから引き返すとなるとかなり遠回りになるし、あそこに立っているだけなら大丈夫でしょ」
「確かに、じゃあこのまま進もう。」
踏切まで300mくらいあったため、その道中は横目で女の動向を探りながら自転車を漕いだ。どんどん近づくにつれ、女の服装や髪型などが鮮明に見えてくる。
女は白いワンピースを着ており、髪は黒の長髪で靴は履いておらず、裸足であることが遠くからみてわかった。前述した通り、季節は秋に差しかかっており長袖を着ている私たちですら肌寒く感じるこの夜に、薄手のワンピースを着ている姿、そして裸足であることが異様であった。踏切までのこり50mをきったころ、ずっと横目で捉えていた女がこちら側に向けてゆっくりと、ゆっくりと踏切を歩いて来た。
「おい金杉!なんかあいつこっち歩いてきてるぞ!」
「やばいやばいやばい、このままだとすれ違っちゃうよね?」
「あぁ、Uターンして後ろを向くのも怖いからこのまま突っ切ろう」
ゆっくりと近づいてくる女の姿に焦る私たちは、正常な判断ができず、一刻も早くこの踏切から立ち去りたかったため、自転車を目一杯漕ぎ女の横を通り過ぎることに決めた。
私たちは全速力で自転車を漕ぎ、踏切へと近づく。依然として女はこちらを見ながらゆっくりと歩みを進めている。
「なんなんだよあいつ」と今にも泣きだしそうになりながら金杉が言う。
踏切に差しかかり全速力で女の横を通り過ぎる。女は歩みを進めつつ顔だけを動かし私たちから目を離さなかった。
その後、女の横を通り過ぎ、20mほど進んだ。
「もうここまでくれば大丈夫だろ」私が金杉にいい
「そうだな」と安堵の笑みを浮かべたながら金杉が後ろを振り返った。
あーー!
と金杉が叫び声あげながら自転車を全速力でまた漕ぎ始めた。
「おい!待てよ!」と私も後ろを振り返る。
そこには、踏切の真ん中でこちらに正対しながら立ち止まり、満面の笑みを浮かべている女の姿があった。
その日は会話が弾み、解散したのは深夜1時を回った頃であった。私は帰る方向が同じであった金杉という友人と二人で自転車で帰ることとなった。その日は9月も後半に差しかかり、夜は肌寒い気候となっていた。人通りのない夜道を2人で自転車を漕いでいる最中に金杉が言った。
「一緒に帰る人がいてよかったわ。この時間に一人であそこを通るのは怖すぎる。」
「そうだな。2人ならあそこを通っても怖くないか。」
「あそこ」とは、私たちの家の近くにある踏切のことを指しており、その踏切は地元では有名な自殺の名所となっていた。幸いにも自殺を実際に目撃することはなかったのだが、私が地元を離れるまでの18年間で数多くの人身事故が発生している。また私たちの家は現在地から見ると線路を越えた先に位置しており、その踏切を通る道が家までの最短ルートであった他、夜も遅くまた疲れもあったため一刻も早く眠りたかった私たちはその踏切を通ることにしたのだった。
線路沿いの道を踏切方向に進んでいき、踏切が目視できる位置まで来たその時、線路を挟んで反対側に一人うつむき加減で佇む女性が目に入った。私は瞬時に見てはいけないものを見てしまったと直感的に思い目線を逸らした。その後、見間違いかもしれないという楽観的な考えからもう一度反対側の踏切に目をやると、さっきまで下を向いていた女性がこちら側を凝視していた。
うわ、気持ち悪いと思っていると、並走していた金杉が私に
「ねえ!なんか女の人があそこに立ってない?」と言った。見えているのは私だけじゃないのがわかった途端、少しの安堵感が芽生えたのものの以前として恐怖心が私の内側を支配していた。
「よかった!金杉にも見えてたのか。どうする?このまま踏切を通る?」
「ここから引き返すとなるとかなり遠回りになるし、あそこに立っているだけなら大丈夫でしょ」
「確かに、じゃあこのまま進もう。」
踏切まで300mくらいあったため、その道中は横目で女の動向を探りながら自転車を漕いだ。どんどん近づくにつれ、女の服装や髪型などが鮮明に見えてくる。
女は白いワンピースを着ており、髪は黒の長髪で靴は履いておらず、裸足であることが遠くからみてわかった。前述した通り、季節は秋に差しかかっており長袖を着ている私たちですら肌寒く感じるこの夜に、薄手のワンピースを着ている姿、そして裸足であることが異様であった。踏切までのこり50mをきったころ、ずっと横目で捉えていた女がこちら側に向けてゆっくりと、ゆっくりと踏切を歩いて来た。
「おい金杉!なんかあいつこっち歩いてきてるぞ!」
「やばいやばいやばい、このままだとすれ違っちゃうよね?」
「あぁ、Uターンして後ろを向くのも怖いからこのまま突っ切ろう」
ゆっくりと近づいてくる女の姿に焦る私たちは、正常な判断ができず、一刻も早くこの踏切から立ち去りたかったため、自転車を目一杯漕ぎ女の横を通り過ぎることに決めた。
私たちは全速力で自転車を漕ぎ、踏切へと近づく。依然として女はこちらを見ながらゆっくりと歩みを進めている。
「なんなんだよあいつ」と今にも泣きだしそうになりながら金杉が言う。
踏切に差しかかり全速力で女の横を通り過ぎる。女は歩みを進めつつ顔だけを動かし私たちから目を離さなかった。
その後、女の横を通り過ぎ、20mほど進んだ。
「もうここまでくれば大丈夫だろ」私が金杉にいい
「そうだな」と安堵の笑みを浮かべたながら金杉が後ろを振り返った。
あーー!
と金杉が叫び声あげながら自転車を全速力でまた漕ぎ始めた。
「おい!待てよ!」と私も後ろを振り返る。
そこには、踏切の真ん中でこちらに正対しながら立ち止まり、満面の笑みを浮かべている女の姿があった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる