ヒーローをめざした少年

古明地 蓮

文字の大きさ
上 下
3 / 3

ヒーローになれたのだろうか

しおりを挟む
やっぱり授業中はなんにもしてこないので、少しつまらなかった。
せっかくいじめてくるなら、正々堂々来て欲しいよなぁ
ロッカーに入れて置いた教科書とかがボロボロだったので、またもに授業も受けられなくて、すごい暇だった。
昼休みになったが、この教室を離れる気にはならなかった。
下手に出ていくと、またなにかされかねない。
荷物を全て持って屋上に行く訳にも行かないので、少し待たせてしまうのかもしれないが、放課後に行くことにした。
いじめ組は、今すぐにでも僕がこの教室から出ていかないかと睨んでくる。
全く、つまらない連中だなぁ
午前中と同じように、午後の授業も終わってしまった。
教科書がないと、先生の言っていることが理解できない
ワークとかは残っていたので、課題だけは何とか出せそうだった。
どうせなら全員が帰ったことを確認してからこの教室を去ろうと思っていた。
のだが、なかなかそうもいかせてくれないらしい
いじめ組の連中が、ものすごい視線で帰れと訴えてくる。
だから、荷物をひとつ残らずリュックに詰めて、教室を出た。
が、少しした後に踵を返し、教室に戻った。
予想通り、僕の机の周りに集っているヤツらがいた。

「なんで戻ってくんだよ!!
   帰れ帰れ!!」

いじめ組の親玉だろう
昨日ボコしたやつだった。

「うるせぇよ」

速攻で顔面を蹴り飛ばした。
すると、他の連中は昨日の二の舞にならないようにか、かかってこなかった。

「クソが」

と吐き捨てながら、親玉の机を蹴り飛ばして、親玉の顔にぶつけた。
もう親玉が立ち上がれなさそうなのを確認してから、教室をあとにした。
屋上に行くと、あの少女がいた。

「どうかしたの?」

と声をかけると、

「実はあなたに言いたいことがあったんです
   それよりも、大丈夫でしたか?」

「そんなにかしこまんなくていいよ
   まあ色々とされたけど、大丈夫だよ」

「すみませんでした」

「もういいって
   君を助けたのは僕の勝手だし、君だって僕のせいでいじめられたんだろ?」

「えぇ、まあ」

「なら、ちゃんとケジメをつけておいただけだよ
   それで、僕に言いたいことって?」

少し彼女はモジモジしながら

「私と付き合ってくれませんか?」

初めて告白されたため、ものすごい動揺していた。
でも、僕の返答は決まっていた。

「もちろん」

「やった~」

と、心の底から彼女は喜んでいた。

「一つ質問があるんだけど」

「なんですか?」

「なんで僕と付き合おうと思ったの?」

「最初は一目惚れでした
   入学式の日に、顔を見た瞬間に惚れてしまったのです
   ですが、さらに惚れてしまったのは、あなたが助けてくれたからです」

「そうだったんだ」

だから、あの日、僕に話しかけてきたんだ。
それに、係や委員会も僕と同じところに入ったのか。

「これからよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

そして、僕にとって、バラ色の時期がやってくるのだった。

家の風呂に入って考える。
なぜ僕が彼女の告白を受け入れたのか
それは、僕という存在が、彼女の心を傷つけてしまったからだ。
あの時に、僕がこの高校に入っていなかったら、僕に一目惚れしてくることもなかったはずだ。
そして、あんなふうにいじめられることもなかっただろう。
だから、彼女のいじめの原因には、僕がいるのだ。
だから、彼女と付き合うことで、彼女の心が癒えるのならば、そうしたかった。
そもそもとして、僕がヒーローをめざしたのには、とある過去がある。
僕の父は、俳優だった。
ルックスが良く、饒舌だったのだ。
僕の父は、正義のヒーローを演じていたことがある。
街に現れた怪人を、バイクで現れて、叩きのめすのだ。
それがとにかくかっこよかった。
小学校の頃は、それが僕の自慢だった。
しかし、僕の家で事件が起きた。
父のギャンブルの依存がわかったのだ。
収入の半分以上をギャンブルにつぎ込んでいたのだ。
しかも、それはとある傷害事件で知った。
父が自分の金を使い込んで、なくなってしまったから、チンピラを殴り飛ばして金を奪ったのだ。
それで、僕の父は逮捕され、家から居なくなってしまった。
それからというもの、僕にとって、父がいちばん恥ずかしいものとなった。
そして、テレビの世界と現実は違うものだと知った
だかろ、僕は現実ではヒーローになろうと思ったのだ。
でも、中学の頃にはヒーローには程遠かった。
何をしたらヒーローになれるのか
それがどうしても分からなかった
でも、今ならわかる気がする
それは、きっと人の心を救うことだ
正しき人の心を救う存在がヒーローなんだと思う
だから、僕は彼女の心を救ってあげたい
そのためにも、ずっと彼女の近くに寄り添ってあげたい

「ふぅ」

父のこととかを思うと、今でも泣いてしまった
まだ、あの時のことは忘れられないみたいだ

それからの日々は、僕の人生の中で1番楽しかった時期だろう。
確かにいじめは続いていた。
でも、何となくいじめ組のしてきそうなことを考えておけばあまりめんどくさくなかった。
毎日全ての荷物を持って帰る。
ただそれだけでも、受けるいじめは格段に減っていった。
まあ、それだけ直接は僕には逆らえなかったからだろうけど。
学校の空き時間には、彼女と別ルートで屋上に行く。
そして、彼女と雑談を交わしていた。
そんな、一見辛そうにも見えるが、案外楽しい毎日だった。
それに、休日は彼女と遊べたし、最高の日々だったと言っても過言じゃないだろう。
買い物に行ったりゲームをしたりと、色んな遊びをして楽しんだ。
そんなある日のこと

とある休日の日のこと
僕らはいつものように遊びに出ていた

「何して遊ぼっか?」

「ゲーセンに行って、クレーンゲームでもしようよ」

「お金あげるから景品取ってよ」

「任せて」

なんて、いつも通りの休日だった。
そして、僕らがゲーセンに歩を進めようとした瞬間

トラックが横から突っ込んできていた
しかも、猛スピードで

どうすればいい
何とかして、彼女だけでも救わなくちゃ
乱暴って言われるかな
それでもいっか

彼女を全力で突き飛ばした。
彼女が押されて、向こうの歩道に倒れているのを目視した瞬間
僕の体はトラックに押しつぶされた
死を確信した
呼吸もできない
体は動かない
もう自分のことはどうだっていいや
彼女さえ救えたのなら


ねぇ
僕の人生を見ている人がいたら教えてほしい
僕は彼女にとってのヒーローになれたのかな
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...