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それは星に照らされる夜の事
最後の日
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それは、唐突な出来事だった。
つい昨日まで、彼女のお見舞いに行って、楽しく会話したばかりだというのに。
僕がふと携帯を机の上に置いて、トイレに行っている間に、着信が入った。
その番号は見たこともない番号だった。
でも、僕にはその電話のかけ主がすぐにわかった。
今の僕のところに電話をかけてくるような人は、一人しか思い当たらないし。
だから、僕は机の上にあった、決心したあの日に書いた手紙をポケットに詰め込んで、扉を押し開けて駆け抜けた。
空は、満天の星に、静かに光る月が浮かんでいた。
その下を、ちっぽけな神様が走り抜けていった。
急いで彼女の元へたどり着くと、昨日とあまり変わらない様子の彼女が、いつものように座っていた。
だから、僕は一瞬心にかすかな希望の火を宿した。
それは、彼女からの願いを実行する日が今日ではないという
けど、その炎はあっけなく吹き消された。
「さすがはあなたね
私が予想していたよりも、ずっと早く来てくれるんだから
じゃあ、お願いね」
と言って、彼女は自身の体の上にかぶさっていた布団たちをどかした。
はじめ、僕は少し戸惑ったけど、結局彼女に腰をかがめて背を向けた。
彼女は、僕の首に手をまわして、足を絡めて全体重をかけてきた。
彼女の重さは、僕にとって耐えがたいものだった。
それは、彼女の本来の重さではない。
彼女の背負っているものすべての重さが、今僕の背中の上にあることが耐えがたいのだ。
でも、それは僕が歩を進めない理由にはならなかった。
僕は、彼女が耳元で出してくれる指示通りに進むことで、何事もなく病院から出ることができた。
病院から出る瞬間、彼女の重さが増した気がした。
でも、彼女は病院から抜け出せた解放感で、軽い気分だった。
僕にとっては、病院から患者を運び出すことが、罪でしかなくて、その罪がさらに乗っかってきたのだ。
僕の足は、極度の圧力に耐えかねていたようだったけど、それでも僕は進んだ。
その先にある山を登って、彼女を助けるために。
病院からいつもの山への道のりは、彼女を運んだ時に一回通っただけだけど、道はしっかりと頭に刻み込まれていた。
あの時も、耳元で彼女が指示を飛ばしてくれたけど、今日の声は飛ばすというには弱かった。
その声からも、彼女が限界に近いということを、知覚はしていた。
山について、いつもの登山ルートをゆっくりと進んだ。
いつもの僕らだったら、きっとこの時間が倍速で進むぐらいに話していただろう。
でも、今日の僕らは静かだった。
それは、彼女がつらそうにしていたから、僕が話しかけるに話しかけられない状態だったから。
いつもの登山の時間も、ただでさえ彼女を背負っている分時間がかかるのに、話し声もないから、ものすごい時間がかかった。
それは、体感的にはいつもの5倍ぐらいの時間だったと思う。
そのぐらいの時間をかけて、ようやく僕らが話していた場所までたどり着いた。
ようやくついて、僕がこれからどうしようかと思っていると、彼女が
「そこの岩に降ろして」
と、弱弱しい声で言った。
僕は、最大限慎重に彼女のことを岩の上に降ろした。
僕も彼女の横に座ると、二人並んで山の先を見つめた。
僕は、彼女に何か話しかけようと思ったけど、言葉が出なかった。
彼女の方を見ると、彼女は本当に満足した表情で、蒼穹と緑と碧を見ていた。
そして、一通り見終えたのか、僕の方を向いて
「ごめんね」
と、謝ってきた。
僕が、なんて返したらいいのかを戸惑っているうちに、次の言葉が紡がれた。
「私みたいな、病人のために時間を使わせちゃってさ
本当なら、家族にでも頼めばいいんだろうけど、家族は頼りたくなかったしね
だから、たまたまここにいたあなたに頼んじゃったのだけれど」
なんだ、そういうことか
そんなことなら、とっくに僕の腹は決まっていた。
「全然謝らなくていいよ
これは、僕の偽善でもあったわけだからね
だから、どちらも自分のために相手を利用していたようなものだからね」
そう
この僕の行動は、自分の自己満足なんだ。
絶対に忘れてはいけないのだ
これがエゴであることを
「そう
ならよかった
それにしても、蒼穹はきれいだね」
と、脈絡もない分をつなげながら、彼女は空を指さした。
その先にある蒼の無限のはかなさを考えていると、何かが肩にぶつかった。
いや、寄りかかられたとでもいうべきだろうか。
そこには、先ほどまでつら層ながらも話していた彼女が、目をつむって眠っていた。
僕はその姿を見ても、悲しくはならなかった。
なぜなら、僕にはやるべきことがあるから。
彼女のやせ細った手をやさしく握り
死神の力で、命を与えた。
命としか言い表せないエネルギーが、彼女の体に入り込んだ。
だんだんと彼女の体が輝きを取り戻して、彼女のことを生き返らせることに成功した。
脈もしっかりあるから、問題ないと僕は確信して
「ふぅ」
とため息をついた。
その瞬間だった。
「いき、てる?」
と、彼女がこぼした。
彼女は、自身の体を見つめながら、困惑した様子だった。
僕はそんな彼女の肩に手を置いて
「ほら、何も問題なかったでしょう」
といった。
すると、彼女は頭をフル回転させて、現状を理解した。
すべてを理解した瞬間彼女は僕のことを殴った
「あなたねぇ
私にはやらないでって言ったでしょ
まぁ、成功したみたいだからいいけど」
と言いながら、僕の体を見た。
僕も、自分の体を軽く見て
「成功したんだし、終わり良ければ総て良しだよ」
といった。
それから、僕はポケットにしまい込んでいた手紙を取り出して、彼女に手渡して
「僕の伝えられなかったことはすべてここに書いてあります
帰ったら読んでほしいですね
今読まれると恥ずかしいですし、もう夜も更けてきましたから、帰ったらどうですか」
と、告げた。
彼女は名残惜しそうに、月を見上げてから
「それもそうね
それじゃあ、先に帰らせてもらうわ
またね」
と言って、山を下りて行った
僕は、そんな彼女の背中に
「さようなら」
と投げかけた。
それから、僕はもう一度空を見上げて、寝転んだ。
つい昨日まで、彼女のお見舞いに行って、楽しく会話したばかりだというのに。
僕がふと携帯を机の上に置いて、トイレに行っている間に、着信が入った。
その番号は見たこともない番号だった。
でも、僕にはその電話のかけ主がすぐにわかった。
今の僕のところに電話をかけてくるような人は、一人しか思い当たらないし。
だから、僕は机の上にあった、決心したあの日に書いた手紙をポケットに詰め込んで、扉を押し開けて駆け抜けた。
空は、満天の星に、静かに光る月が浮かんでいた。
その下を、ちっぽけな神様が走り抜けていった。
急いで彼女の元へたどり着くと、昨日とあまり変わらない様子の彼女が、いつものように座っていた。
だから、僕は一瞬心にかすかな希望の火を宿した。
それは、彼女からの願いを実行する日が今日ではないという
けど、その炎はあっけなく吹き消された。
「さすがはあなたね
私が予想していたよりも、ずっと早く来てくれるんだから
じゃあ、お願いね」
と言って、彼女は自身の体の上にかぶさっていた布団たちをどかした。
はじめ、僕は少し戸惑ったけど、結局彼女に腰をかがめて背を向けた。
彼女は、僕の首に手をまわして、足を絡めて全体重をかけてきた。
彼女の重さは、僕にとって耐えがたいものだった。
それは、彼女の本来の重さではない。
彼女の背負っているものすべての重さが、今僕の背中の上にあることが耐えがたいのだ。
でも、それは僕が歩を進めない理由にはならなかった。
僕は、彼女が耳元で出してくれる指示通りに進むことで、何事もなく病院から出ることができた。
病院から出る瞬間、彼女の重さが増した気がした。
でも、彼女は病院から抜け出せた解放感で、軽い気分だった。
僕にとっては、病院から患者を運び出すことが、罪でしかなくて、その罪がさらに乗っかってきたのだ。
僕の足は、極度の圧力に耐えかねていたようだったけど、それでも僕は進んだ。
その先にある山を登って、彼女を助けるために。
病院からいつもの山への道のりは、彼女を運んだ時に一回通っただけだけど、道はしっかりと頭に刻み込まれていた。
あの時も、耳元で彼女が指示を飛ばしてくれたけど、今日の声は飛ばすというには弱かった。
その声からも、彼女が限界に近いということを、知覚はしていた。
山について、いつもの登山ルートをゆっくりと進んだ。
いつもの僕らだったら、きっとこの時間が倍速で進むぐらいに話していただろう。
でも、今日の僕らは静かだった。
それは、彼女がつらそうにしていたから、僕が話しかけるに話しかけられない状態だったから。
いつもの登山の時間も、ただでさえ彼女を背負っている分時間がかかるのに、話し声もないから、ものすごい時間がかかった。
それは、体感的にはいつもの5倍ぐらいの時間だったと思う。
そのぐらいの時間をかけて、ようやく僕らが話していた場所までたどり着いた。
ようやくついて、僕がこれからどうしようかと思っていると、彼女が
「そこの岩に降ろして」
と、弱弱しい声で言った。
僕は、最大限慎重に彼女のことを岩の上に降ろした。
僕も彼女の横に座ると、二人並んで山の先を見つめた。
僕は、彼女に何か話しかけようと思ったけど、言葉が出なかった。
彼女の方を見ると、彼女は本当に満足した表情で、蒼穹と緑と碧を見ていた。
そして、一通り見終えたのか、僕の方を向いて
「ごめんね」
と、謝ってきた。
僕が、なんて返したらいいのかを戸惑っているうちに、次の言葉が紡がれた。
「私みたいな、病人のために時間を使わせちゃってさ
本当なら、家族にでも頼めばいいんだろうけど、家族は頼りたくなかったしね
だから、たまたまここにいたあなたに頼んじゃったのだけれど」
なんだ、そういうことか
そんなことなら、とっくに僕の腹は決まっていた。
「全然謝らなくていいよ
これは、僕の偽善でもあったわけだからね
だから、どちらも自分のために相手を利用していたようなものだからね」
そう
この僕の行動は、自分の自己満足なんだ。
絶対に忘れてはいけないのだ
これがエゴであることを
「そう
ならよかった
それにしても、蒼穹はきれいだね」
と、脈絡もない分をつなげながら、彼女は空を指さした。
その先にある蒼の無限のはかなさを考えていると、何かが肩にぶつかった。
いや、寄りかかられたとでもいうべきだろうか。
そこには、先ほどまでつら層ながらも話していた彼女が、目をつむって眠っていた。
僕はその姿を見ても、悲しくはならなかった。
なぜなら、僕にはやるべきことがあるから。
彼女のやせ細った手をやさしく握り
死神の力で、命を与えた。
命としか言い表せないエネルギーが、彼女の体に入り込んだ。
だんだんと彼女の体が輝きを取り戻して、彼女のことを生き返らせることに成功した。
脈もしっかりあるから、問題ないと僕は確信して
「ふぅ」
とため息をついた。
その瞬間だった。
「いき、てる?」
と、彼女がこぼした。
彼女は、自身の体を見つめながら、困惑した様子だった。
僕はそんな彼女の肩に手を置いて
「ほら、何も問題なかったでしょう」
といった。
すると、彼女は頭をフル回転させて、現状を理解した。
すべてを理解した瞬間彼女は僕のことを殴った
「あなたねぇ
私にはやらないでって言ったでしょ
まぁ、成功したみたいだからいいけど」
と言いながら、僕の体を見た。
僕も、自分の体を軽く見て
「成功したんだし、終わり良ければ総て良しだよ」
といった。
それから、僕はポケットにしまい込んでいた手紙を取り出して、彼女に手渡して
「僕の伝えられなかったことはすべてここに書いてあります
帰ったら読んでほしいですね
今読まれると恥ずかしいですし、もう夜も更けてきましたから、帰ったらどうですか」
と、告げた。
彼女は名残惜しそうに、月を見上げてから
「それもそうね
それじゃあ、先に帰らせてもらうわ
またね」
と言って、山を下りて行った
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と投げかけた。
それから、僕はもう一度空を見上げて、寝転んだ。
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