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能力者の日常
楽しみは失せる
しおりを挟むここは、かつて倭国と呼称されていた小国
だったところだ。
今では、蒼漸の管理下の場所になっている。
そんな場所の、古くからある小さい神社の近くに少年は住んでいる。
いつも神社の巫女さんの子供と楽しく遊んでいる。
「今日も暇だね~
あとでなんかする?」
これが少年である。
「今掃き掃除してるから、終わったら街に行こっか
暁音も来る?」
これが、少年と仲のいい巫女さんの子供である。
暁音とは
「今日はいいや
お姉ちゃんとお兄ちゃんで行ってきなよ」
巫女さんの子供の、妹である。
「別に僕はお兄ちゃんじゃないんだけどね
それじゃ、今日は暁月と、2人でいこうか」
暁月とは、暁音の姉である。
「夜神と一緒に行くのはちょっと」
夜神が、この少年の名である。
名前から察する通り、この神社とも関係が深い。
「それは酷くない?」
「嘘だよ
もうちょっとで掃き終わるから、待ってて」
と言われ、少年は近くの木に寄りかかりぼーっとした。
気迫もなく、のんびりとしているが、この少年は能力者の一人である。
いや、少年だけではない。
少年の近くにいる人は、ほとんど能力者である。
暁月も能力者の一人である。
しかし、軍にバレないように、なるべくは使わないでいる。
昔までの軍は、民衆のために頑張っていた。
しかし、いまは微妙なところだ。
軍は、能力者かどうかを判断する力があるらしい。
能力者だとわかると、その能力について聞かれる。
能力の強さも分かるらしいので、嘘は通用しない。
強い能力だった場合は、軍へ入隊させられる。
もしも、軍への入隊を断ると、施設送りにされる。
施設とは、牢屋と同じようなものだ。
ずっとひとつの部屋に入れられ、支給されるご飯を食べて生きていく。
ただ、施設に入れられたもので、前と同じように帰ってきたものはいない。
中で何をされているのかはよく知られていない。
こんなことを軍がやってもいいのかと思う。
しかし、これで能力者による事件が減るなら、民衆はいいらしい。
だが、能力者からしたら、こんなものに入れられたら人生終わってしまう。
だから、こんな風に各地でバレないように過ごしているのだ。
「闇神~掃除終わったよ」
「わかった
それじゃ行こっか」
と言って繁華街に向かって歩き出した。
繁華街は夜になっても人通りが多く、込み合っていた。
「暁月 ちょっと買い物してくるからここで待っててくれる?
なるべく遅くならないようにするからさ」
「わかった」
暁月を街中に残して買い物に向かう。
五分ほどかけて買い物を終わらせて、暁月のいた場所に向かうと
「お?
お前がこの女の連れだな
こいつは俺が貰ったから」
なんか、頭の悪そうな男が、暁月の頭を抑えていた。
僕が戦うための構えをとると、
「お!
やんのか
だが、無能力者が、能力者の俺様に勝てるわけねーだろ
かかって来やがれ雑魚」
と、ほざいた。
「いいよ、やってやる」
と、僕が言うと、直ぐに相手は殴りかかってきた。
「くらいやがれ!!」
と言って、ぶつけてきた拳を躱して、取り敢えず顔面を殴った。
しかし、
「おいおい
そんなヤワなパンチじゃ、痒くなるぜ」
と言って、顔をかき始めた。
面倒くさくなってきた僕は、指を鳴らして、相手の位置を再度確認して
全力で殴り飛ばした。
相手はものすごい勢いで壁にぶつかり倒れ込んだ。
壁も、男の体に合わせて軽く凹んでいた。
「ちょっとやりすぎた、かな?」
と、独り言のように呟くと
「これはやりすぎでしょ」
と、暁月に怒られた。
「夜神だったら、相手の手の皮を剥がすとかで済ませればよかったじゃん
あんなに叩きつけなくてもさ」
「なんかウザかったし、パンチについて言ってきたから、カットなっちゃってさ」
と、僕らが何気なく話していると
何やら、変な服を着た人達が現れた。
「そこの君
君がこの男をやったの?」
と、変な服の筆頭が言ってきた。
変な服と言っているが、れっきとした軍服である。
つまり、こいつらは郡の連中だ。
僕が、この男と戦っている間に、誰かが呼んだのだろう。
めんどくさいことされたな
なんて、考えていると
「ちょっと、聞いてる?
連行するよ?」
と言って、リーダー格のやつが手を掴もうとしてきた。
しかし、そいつは僕の手を掴めない。
「え、あなた能力を使ってるの?
しかも、私よりも強い能力」
と、問われている間に
「行こっか」
と言って、暁月と逃げ出した。
「あ、待って」
と言う静止の声を無視して、近くの公園に駆け込んだ。
何とか追っ手を逃れただろう。
「まさかこんな目に遭うなんてね」
「夜神がとっとと倒しときゃ良かったんだよ」
「あ、そろそろだから、ちょっとトイレに」
「あーなるほどね
行ってらっしゃい」
と、暁月が言ったので、僕はトイレに入った。
そして、トイレから出てきた僕
いや、私は暁月の元へかけていった。
「あんたのその姿、いつ見ても可愛いよね」
「うるさいなぁ」
「も~
その仕草一つ一つが可愛く見えるんだから
一生その姿でいてくれてもいいんだよ?」
「やだよ
色々不便だし」
そう。
この能力を使ったあと、僕は女体化かつ、幼児退行してしまうのだ。
「まあ、その格好の夜神を繁華街に連れ回す訳にも行かないし、帰ろうか」
と言った時だった。
「あ、この時間帯にこんなとこにいちゃダメだよ
女の子二人とも」
さっきの軍の人だった。
「あ、わかりました
もう帰るので」
と、暁月が軽く流そうとすると
「あれ、もしかしてさっき逃げた女の子?
でも、肝心の能力者は知らない?」
と、軍の人が突っかかってきた。
「知らないですよ」
「そう
ならいいんだけど
にしても偶然かな、運命かな
まあ、とにかく暗くならないうちに帰るんだよ」
と言って軍の人が帰ろうとした途端
「ん~?
なんか、君にさっきの能力者の面影があるんだよねぇ」
と言って、私の顔をジロジロと覗き込んだ。
「や、やめてください」
「悪いけど、君は借りてくね
そっちの子はもう帰っていいよ」
と言って、私の腕を掴んで車に乗せた。
そして、そのまま車は走り出してしまった。
これは、間違いなく私はやらかした感じかな?
本当なら、あの手に捕まりたくはなかった。
でも、今は逃げることが出来ない。
なんて言っても、この姿だと能力が使えないんだ。
本当に不便で、1回能力を使うと、20分後にはこの姿になってしまう。
そして、この姿のまま半日程過ごさなくてはならない。
そのまま、車は7分ほど走って、さっき男を倒した所のすぐ近くで止まった。
「それじゃ、降りて」
と言って、軍の人に腕を掴まれながら車をおり、そのまま建物に入ってしまった。
そして、建物の3階の、校長室のような部屋に入れられた。
今、この部屋には私と、あの軍人しかいない。
「それじゃ、君のことについて聞いていくけど、君は能力者?」
最初から核心を突く話だ。
まあ、とにかく答えなければいけない。
「無能力者ですよ」
もしも、相手が精神系の能力者なら、瞬時に終わっていたかもしれない。
しかし、そんなことは起きなかった。
「ふーん
んまあ、口ではなんとでも言えるからね
取り敢えず検査は受けてもらうよ」
「け、検査って何するんですか?」
「簡単に言えば、あなたの髪の毛を1本頂戴して、能力者か調べるの
だから、1本貰うね」
と言って、髪の毛が掴まれそうになったので、1歩後ずさりした。
「お願いだから逃げないでね
逃げたら強制的にやることになるから」
と言って、私の腕をきつく掴みながら髪の毛を、ご丁寧に1本だけ抜き取った。
「それじゃあ検査してくるから」
と言って、あの人は部屋をあとにした。
「はぁ~
とうとう施設行きかな」
私は、今は能力を使えないけど、れっきとした能力者なのだ。
だから、検査には引っかかるはずだ。
そしたら、あの地獄のような施設に入れられてしまう。
なんて、将来のことで落胆していると
「結果でたよ
あなたは無能力者で正しいみたいね」
と、嘘をついてるとは思えない顔で言ってきた。
取り敢えずその場の流れで
「ですよね」
と、私は返した。
「君が無能力者でよかったんだけどさ
実は、この近くで君に似た能力者がいるらしいんだよね」
「私に似ているんですか
それで、その人はなにかしたんですか?」
「おや、特に何かした訳では無いよ
ただ、能力者で、ある程度強い人は施設に送らなきゃならないからね」
「たとえ善人でもですか?」
「ん~?
まあ、別に私の考えでやってる訳じゃないけどね
お姉様曰く、1人の能力者を捕まえなかったせいで、何人もが不幸になる可能性がある
だから、見つけ次第能力者は捕まえた方がいい
って言ってるからね」
「能力者の人生を壊してまでやることですかね?」
「突っかかってくるね、君
能力者1人の不幸と、何人もの一般人の不幸なら、能力者の不幸を取るって言ってるからね
私としても、その部分は賛成かな」
「そう、ですか
お姉さんってことは、あなたは?」
「かの最強能力者の蒼漸の妹、碧梦だよ」
「碧梦さんですね
蒼漸さんに妹がいたなんて知りませんでした」
「意外と知られてないんだよね、私
って、こんな雑談してるぐらいなら、帰った方がいいね
送ってあげようか?」
「いや、多分大丈夫です」
「うーん
こんな夜遅くなってるし、さっきの公園まで送ってあげるよ」
「じゃあ、お願いします」
と言うと、碧梦さんは、部屋を出て、乗ってきた車の方に向かって歩き出した。
そのすぐ後ろを、私はピッタリと着けていった。
車の扉を開けて、今度は私を助手席に乗せてくれた。
「今日はごめんね」
と、碧梦が唐突に謝ってきた。
「いや、まあいいですよ
こうやって送って貰ってますし」
「連れ出したんだから当然だよ
それじゃ、気をつけて帰ってね」
と言って、ドアを開けてくれたので、
「ご苦労さまでした」
と言って、車から降りた。
車がそのまま走り去ったのを見て、もう大丈夫だと確認した。
しかし
歩いて帰るのがめんどくさい
正直言って、この体だと家までかなりかかる。
そんな、面倒くささを抱えて、うつむき加減に歩いていると、メシアが登場した。
「夜神、なんともなく出てこれたんだ。
ほら、連れてってあげる」
と、後ろから暁月の声がした。
そして、私が何かを答える前に、体に手を回され、抱き抱えられた。
そして、暁月の能力によって、浮遊した。
「ごめんね、公園に置いてかれちゃってさ」
「別にいいよ
可愛いあんたを置いて行ったらどうなるか分からないからね
それより、よく帰ってこれたね」
「この体だと能力者として感知されないみたい」
「へぇ~
まあ、確かにその体だと能力は使えないけどさ
まあ、これを知ってれば、軍には捕まらなさそうだね」
「確かにそうか
捕まりそうになったら、このすがたになればいいんだもんな」
「ほら、着いたよ」
と言って、私を家の近くに置いてくれた。
「ありがと
これで安心して寝れるよ」
「まあ、夜神のその姿を暁音に見せたいけどね」
「あの子には隠しておくよ」
「なんか、あんたって暁音と距離をとるよね
私の妹なんだから、もうちょっと仲良くして欲しいんだけど」
「あの子は何を考えてるかわかんないしさ」
「まあ、わかったよ
じゃあ、こんな遅くだから早く寝なさいね」
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
と言って、暁月は去っていった。
さっきの怒り方、お母さんかよ
っと、さっきの暁月の言動にツッコミを入れたあと、自分の言葉に少し泣いた。
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