音よ届け

いつも幸せは最後に訪れて

遂に始まった日

次の日。
僕はいつもより一時間速いアラームに、眠い瞼ごとたたき起こされた。
手探り次第に、一つ目のアラームを消したものの、いまだにアラームは鳴り響いている。
次のアラームは、布団から手を伸ばしても届かないところにあると、手が教えてくれた。
仕方なく、僕は布団から出て、そのアラームまで歩いて、アラームを止めた。

今日は大事な日だから、寝坊しないように二つアラームをかけておいて正解だった。
やっと起き上がったけど、まだまだ瞼が勝手に閉じようとして、また夢の国に行きそうになった。
そのたびに、自分の体のどこかをつねって、強引に目を覚ました。
自分の寝覚めの悪さが、身に沁みてその悪さを思い知らされた。
いつもより長く寝てるはずだけど、それでも僕の体には足りないみたいだった。

やっとの思いでリビングにたどり着くと、冷蔵庫から残り一枚のパンとハムを出した。
自分でもよく計算したと思うけど、今日この日にすべての食材が使い終わるようにできている。
だから、ジャムも牛乳も今日の朝の分で全部使いきれそうだ。
取り敢えずパンをトースターに入れて、その他色々の準備をしてから、顔を洗いに行った。

洗面所について、朝の冷たい水を手にかけた。
僕は冷たいものは結構好きな方だったけど、朝の水はやっぱり好きになれない。
でも、こうやって顔にかけた時の、肌に沁みる感じが嫌いかと言われれば意外に好きと答えそうだった。
やっと瞼が完全に開いて、世界がくっきりと見えるようになった。

丁度顔を洗って洗面所を出るころに、トースターが焼き上がりを告げた。
リビングに戻って、トーストをお皿の上にのせて、両親の前に座った。
自分が食べる前に、両親にお供えしてから、いただくのがいつもの流れなので、特別な今日でもちゃんと守った。
一日で一番神妙な心持になる、心を落ち着かせる大事な場面だと思って、毎日この時間を大切にしている。

いつになく細くなってしまった食事は、今日も変わらない。
トーストも前よりもさらに薄くなってしまって、誰かに見られでもしたら大変だっただろう。
それでも、この食事を見たことがあるのは、僕自身と両親だけだから、ばれてないはずだ。
泊りがけの練習とかがあったら気付かれていただろうし、本当によく隠し通したなぁと思う。

たった数分で食事を食べ終えると、もう一度お仏壇に合掌した。
それから、食器を洗ったり、トースターをしまったりと、片づけを始めた。
まわりが豪華に装飾されているから、いつもみたいに乱雑に片づけができてなくて、気分的に不便だった。
この飾りを汚してしまったら、これまでの計画がすべて水の泡になってしまうので、念入りにやった。

片づけが住むと、いつもの癖で薬を飲もうとした。
でも、いつものところに薬の袋がないのを見て、はたと思い出した。
人生で唯一かもしれない、薬を飲まなくていい日なんだから、今日は薬を忘れて過ごせるんだった。
あの薬がないって思うだけで、体がいつもより軽くなった気がする。
いつものようなだるさがないし、頑張れば空を飛べそうな気がする。

時計を見ると、もういい加減時間が迫ってきていたので、急いで制服に着替えて、投稿の準備をした。
今日は、いつもよりも荷物が少ないから、いらない荷物はすべて本棚とかにしまった。
教科書とかをもって言ったりしたら、ただひたすらに重くなってしまうだけだ。
それを、文化祭後の疲れとともに持ち帰ってくるのは、考えるだけでも辛そうだから、さけることにした。

リュックの中身がいつも以上に軽くなっていて、またかrだがかりなぁって感じた。
それから、ふとリュックのファスナーの一番上を見ると、ちゃんとメープルのバチがしまってあった。
前もって行ってしまったときは、かなり恥ずかしかったけど、今日こそ意義のある持ち込みだから、先端を見られても堂々と歩ける。
って言いたいけど、理解してない人に見られたら、ただ恥ずかしいだけなのは変わらないかもしれなった。

さてと、そろそろ学校に行きますか。
今日もちゃんと戸締りをして、ガス電気水道全部が整っていることを確認してから、家を出た。
どれか一つでもやらかしたら、あとで大惨事だからと思って、丁寧に点検した。
もう大丈夫だとわかっているからこそ、いつもよりも強く玄関の戸を開けた。

玄関の戸から外に出て、玄関の戸を閉める前に一言

「今までありがとう
　さよなら」

って、もう言えないかもしれないお別れの言葉を言った。
いや、絶対にもう一度帰ってこれるはずなんだけれど、その時に言えるとは限らない。
だから、今言えるチャンスにと思って、家にお別れをした。
別れをかみしめながら、無情にもカギは閉められて、その鍵もリュックにしまわれたので、もう家には入れない。
そう考えると、なかなかに悲しいことなのが身に染みてきた。
歩きながら泣くなんてみっともないことできないけど、大切なことだと自分に言い聞かせて、前へと一歩踏み出した。

一歩一歩が、昨日よりも軽く踏み出せたからか、今日は何となくこことを弾ませられるような情景だ。
でも、それに対して、自分だけ悲しそうな表情をしているから、なんだか浮き出てしまっている。
一人だけ浮かびだされていて、回りに強引に合わせられそうな雰囲気が漂っていた。
心と体が引きはがされて、浮かぶ体の中で、心だけが沈んでいくから、自分でもどうしたらいいのかわからなかった。

電車に乗ると、いつもより早い電車だけれども、うちの学校の生徒がたくさんいた。
ほかの乗客はそんなにいないから、通勤ラッシュ前の静けさが漂っていた。
まあ、今日はみんな朝から作業があったり、役割の再確認をしたりと、早く来て一切の損がないから、みんな早く来るはずだ。
うちのクラスでも、いつもより三十分は最低でも早く来て、仕事の確認と、仕事の割り振られている時間帯を確認することが、言われている。
しかも、まだ作業が途中らしいので、それを終わらせなければいけないっていう連絡が、朝来ていた。

なかなかスムーズには事は進まないのが常だけれども、少しでも順調に進めるために、誰かが犠牲になる。
いつもなら絶対に僕はその役をやっていなかっただろう。
なにせ、僕にとっては、クラスの文化祭の出し物はどうでもよかったし、どうせ誰かがやってくれると思っていたから。
でも、今の僕には、そんな考えはみじんも存在しなかった。
ある意味自分をないがしろにしてでも、クラスやバンドのためにやりたいと思えるように変わっていたんだ。
いつ変わったのか、もうわからないけど、自分の根底にあったものが軽々しく覆されたんだと思う。

窓の外をぼんやりと眺めていると、太陽光がありえない角度から乱反射していた。
そんなことが何で起きているんだろうって考えたら、窓が微妙に濡れていた。
昨日の夜に雨が多少ふったせいで、まばゆい太陽の光が変に反射しているんだ。

ふと電車のアナウンスが耳に入ってきた。
曰く、もうすぐ僕の学校の最寄り駅に着くから、僕は降りなければいけないらしい。
電車から降りたらどんな光景が僕を待っているんだろうか。
なんて、いつもと変わるはずもないのに、変わってしまうかもしれないと思ってしまう。
それは、文化祭という日のせいなのか、それとも変則的な土曜登校のせいなのか、はたまた別なのか。
いずれにしても、一瞬にしてその可能性は立たれてしまったんだけれども。

電車を降りた先に待っていたのは、いつもと一切変わらない通学路だった。
ただ一つ変わるとすれば、まだ太陽が地平線から出てすぐっだから、目に直接光が入ってくるみたいで、まぶしかったぐらい。
荷物も体も軽いはずなのに、なんでか僕のリュックはすごく重く感じられるようになっていた。
もしかしたら、リュクの中に責任とか心が入り込んでしまったからなのかもしれない。
重いけど捨てられない、なかなか難しい存在なんだ、このリュックは。

まあでも、歩き続ければ、いつかつくのが学校なんだ。
今日も何とか、学校にはついた。
いつもの学校とは、一味も二味も違う雰囲気を出している、祭りの前の作業場状態の学校に。