音よ届け

古明地 蓮

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いつも幸せは最後に訪れて

無限の楽しみ方

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それからも、連続で二コマ分司会役と雑用を務めた。
何故か、諒一が来て以降は、あんまり緊張しなくなって、かなり司会役が楽になった気がした。
この格好を知人に見られるのは相当恥ずかしかったけど、最大の親友に見られてしまってからは、もう特にどうでもよくなったのかもしれない。
と思うと、なんとなく諒一に感謝しなくてはいけないような気がして、ちょっと癪に障った。
なんせ、諒一が来たときは、結構僕に迷惑かけてきたし、正直客としての質はあんまりよくなかった気がした。
まあ、諒一自身はちゃんと話も聞いてくれたし、そんなに悪いところはなかったのかもしれないけど。

ということで、そんなに苦労することもなく、残りの二コマ分の司会役を務めた。
司会役は、ほとんど台本を覚えるだけで済む話だし、あとはお客さんの顔色を窺いつつ話を進めていけばいいから、結構楽だった。
たまに入ってくるカップルたちが、僕の神経を何度も逆なでしてきたけど、それ以外はあんまり妨害はなかった。
あくまで司会役としての話だけど。

雑用の話を含めると結構他色々あった。
序盤は、水上さんには、ずっと異常なしの紙を渡していたんだけど、途中から以上ありに変わった。
これも、原因を言ってしまえば、諒一たちのグループだったり、カップルたちが主な原因なんだけど、靴をぶつけてビニールの壁に穴をあけるっていうことが多発した。
もちろんその修復をするのは、僕たち雑用係な訳で、次のお客さんが入ってくるまでに全部綺麗にしなくてはいけないから、かなり忙しかった。
だから、カップルたちが来るたびに、イチャイチャされてイライラしたし、それでビニールの壁に穴をあけられて直す未来が見えて、がっくしした。

本当は、ビニールの壁は最後に直せば問題ないはずだったんだ。
まあ、暗いところだから、そうそう目に付くはずもないし、壊されるはずもないと、ある意味たかをくくっていたのかもしれない。
現実は全くと言っていいほど甘くはなくて、ビニールの壁が壊れることがそんなに大変なことになるとは考えもしなかった。

一回目に諒一たちに穴開けられた時、結構大きな音がして、やらかしたなって感じたけど、大丈夫だろうと思っていた。
そしたら、諒一たちを見送った後、次のお客さんが、ビニールの壁の穴につまずいてしまったんだ。
それに驚いて、ビニールを見てみると、綺麗に靴がはまるようにビニールが伸びて、穴が開いているから靴を乗せたらびりってやぶれてしまう。
実際にそのお客さんは、かなりの量の壁を削り取って帰って行ったのを心得ている。
だから、あの時は本当にびっくりしたし、それ以降こまめにチェックしながら、教室内を綺麗に保てた。
そのために、各お客さんが出ていくたびに点検しなくちゃいけないし、見つけるたびに水上さんと補強作業をしなきゃいけない。
まあ、大体音でわかるから、発見するのは大変じゃなかったけど、なお図のはそれなりに大変だった。

そうして、今ようやくすべての作業が終わったので、あとは次のコマの人たちにバトンタッチした。
その時に、どんなことが起こりやすいとかの、僕が仕事しているうちにわかったことは全部伝えた。
その方が、これから作業する人たちのためになると思って伝えたんだけど、正直よかったのかどうかはわからない。
まあ、壁の補修があるって心構えしておけば、もしも壁が少し壊れても動揺しなくて済むだろうし、いいことだととらえておくことにした。

やっとあの狭苦しくて、暗くておどろおどろしい教室から抜け出すことができた。
すごく悪いように言ってしまったけど、僕自身はそこまでホラー的なものに強い方だと思っている。
それでも、ずっとあそこから出られないのは閉塞感が強くて、気持ち悪かった。
だから、久しぶりに廊下に出た時の、この開放感がすごい。
大空を飛んでいるような気分がするぐらいだ。

今ちょうど三コマ目が終わったところだから、お昼まであと五コマ分ある。
それまで何をして楽しもうか、まだ特に決めていなかったから、今廊下で行く当てもなくさまよっている。
できれば同学年のものを見に行って、色々楽しめたらいいなぁと思っているんだけど、どうしようかな。
同じ階から動くことなく、放浪人のようにしていると」、一人の人の格好が目に留まった。
あれは、今すぐ言ったほうがいいと思って、何にも考えずにその教室に入っていった。

教室に入ると、予想通りの人物が、さっきの格好で立っていた。
僕らのバンドのリーダーである諒一が、漁師みたいな恰好をしながら廊下を歩いていたんだ。
あのごわごわした羽織のような何かが、体育会系に見える諒一の体に、すごくよく似合っていた。
本当に軽音部なんだろうかって思ってしまうぐらい、筋力もあるし、さっぱりとした体つきをしている。

そんな諒一が、店番としてやっていたのは縁日だった。
まあ、高校の文化祭だとよくある催しものだし、誰でも楽しめる手ごろなものだ。
たまに奇をてらったような、変な屋台が出ることもあるけど、諒一のクラスはいたって平凡なものだった。
輪ゴム銃による射的と、スーパーボールすくい、輪投げとルーレットダーツを主にやっているみたいだ。
どれもかなり手が込んでいて、高校生が作ったとは思えないほどの完成度だった。
諒一はその中で、射的の管理をやっているみたいだった。

僕は、諒一が射的の管理をやっていると予想して、諒一に声をかけた。

「諒一、射的一回やらせてくれない?」

と聞くと、諒一はどこからか間の箱を持ち出して

「一回七発百円ね」

と、先に代金を請求してきた。
僕が、仕方ないと思って、お金を取り出そうとすると

「まあ、バンドメンバーだからただでやらせてあげるよ」

と言って、輪ゴム銃と輪ゴムを七本手に渡してくれた。
それをもって、床に弾いてあった線まで下がると、輪ゴムを銃にかけた。
輪ゴム銃は、意外と作りこまれていて、割り箸を追って輪ゴムをはめる有名なタイプだった。
引き金を引くと輪ゴムが発射される仕組みだから、本物の銃に似ていてうまく扱えるとかっこよく見える。
まあ、僕は銃なんて触ったこともないので、手の上でくるくる回すみたいなことは一切できないから、関係ないんだけど。

的の前に立ってから、諒一たちの射的が普通の射的じゃないことに気が付いた。
普通の射的みたいに景品に当てて落とすタイプではないらしい。
三段タワー上になっている紙コップを落とす形式らしくて、落ちた紙コップ数に応じて景品がもらえるらしい。
まあ、紙コップじゃないと、輪ゴムでうまく落ちてくれないんだろう。

いざセットを終えて、的の前に立つと、ちょっとだけ手が震えた。
それが、今日薬を飲んでいないせいなのか、せっかくの輪ゴムを外したくない気持ちなのかはわからない。
でも、震える手でコントロールするのはかなり難しいと思って、なかなか打つタイミングを逃してしまった。
後ろに人がいないのを確認すると、いったん銃を下ろして手を休めた。

もう一度銃を持ち上げて、紙コップの一番下の段を狙う。
こういうのは、案外うまく作ってあるもんだから、どうせ一番下の真ん中を打っても、それだけが落ちるんだろう。
だから、その左側とそれを同時に落とす作戦で行くって決めた。
さっと照準を合わせると、手が震え始める前に、引き金を引いた。

パァン

けいかいなわごむのおとがして 、輪ゴムは紙コップまで飛んでいった。
一番下の左と真ん中の紙コップの中間に当てると、その両方が動いて、全部の紙コップがばらばらと崩れた。
最後には、すべての紙コップが落ちたから、これで僕の完全勝利だ。
諒一から何か景品をもらおうと思って、諒一のもとにかけてゆくと、諒一は裏から何かを出して、僕に手渡し手いった。

「紙コップ全倒し商品です
 どうぞお受け取りください」

なんて無駄にかしこまった言い方をして、渡してきたのは大きなかわいらしいくまのぬいぐるみだった。
触ると、すべすべしていて、中野渡がもこもこしていて、抱きしめがいがあって気持ちいい。
すごい幼児退行している気分がして、それを諒一に見られているのが、恥ずかしくてたまらなかった。
まあ、予想通り諒一は隣でくすくす笑っていた。

こんな大きな景品をもらってしまったら、なんか不用意に動けなくなってしまいそうで、僕が困っていると、諒一が僕に言ってきた。

「これ昼休みの時にでも渡すから、預かっておくよ」

というと、僕のぬいぐるみを預かってくれた。
このままじゃどの見世物にも参加できない状態だったし、とはいえどこにもしまえなかったから本当に助かった。
まあさすがは僕らのバンドのリーダーってだけはあるなって感じがする。

それから、諒一がぬいぐるみを片付け終えて戻ってくると、僕に耳を近づけていった。

「残りのもので勝負しようぜ」

どんなに気が利いても、どんなに漁師の格好が似合っても諒一は諒一なんだなぁ。
まあ、僕も僕らしく

「いいよ
 ダーツと輪投げね」

と応じた。
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