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いつも幸せは最後に訪れて
別れの始まり
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それから、数分してもう一度チャイムが鳴った。
そうして、八コマ目が始まってしまったらしい。
僕らはさっきと同じ場所でずっと演奏をしているんだけど
「なんか浮き足立っちゃうよね」
と僕がこぼした。
もうすぐ本番だというから、緊張しちゃって真面目に練習ができない。
そわそわしちゃうから、音もはねている感じがして、ドラムのビートが安定していない。
僕が言った意味をすぐに理解したのか、山縣が返してくれた。
「まあ、あと数分なんだから仕方ないよ
もう少ししたら本番なんだし、いったん全身を落ち着けたほうがいいかもね」
と、軽くアドバイスしてくれた。
言われるがままに、手の緊張をほぐして、少しゆったりとした姿勢でたたくように心がける。
それだけでも、充分音が無駄に跳ねることはなくなって、かなり安定するようになってきた。
なんか、僕がドラムをたたいているのに、僕以外の人の方がドラムについて理解が深いような気がするときがある。
水上さんもそうだし、諒一もそうだけど、僕が考えもしない様なアドバイスをさっとしてくれる。
そして、そのおかげで僕のドラムは成り立っているといっても過言じゃないぐらいだ。
演奏をするときは落ち着くようになったけど、それでも僕はそわそわしてしまった。
ちょっとのブレイクの間に、すぐに時計をチラチラ見て、あとどれくらい練習できるのかを考えてしまった。
そうしているうちに、ふっと一つのことが思いつかれた。
それは、今の僕のそわそわしながら時計を見ることについてだ。
もしかして、このこういってすごい理にかなっているようで、矛盾してるのかもしれない。
僕自身は、少しでも長く練習していたいと思っているから、あんまり早くに終わってほしくはない。
それだというのに、時計を見ているとその時間分タイムロスしてしまうというんだ。
ということは、時計を気にすることによって、無駄に時間を消費しているから、その分だけ終わりが近づくということだ。
そう考えていくと、この行為ってすごい矛盾しているんだって感じた。
だから、もう時計は見ないように決めた。
無駄な時間を消費しないために。
そんな考えは露も知らないであろう三人とまた練習を再開した。
僕らの演奏が観客にどうみられるんだろうか。
この演奏を聴いて、観客は喜んでくれるんだろうか。
いや、そもそもこの演奏は誰のためにしているんだったっけか。
いつの間にか忘れてしまっているんだって気が付いた。
ドラムを淡々と叩きながら、この演奏を届けたい人のことを考えた。
本当は、お父さんかお母さんに届けられたら一番いいと思う。
でも、もう彼らに届けるすべは、僕は持ち合わせていないんだ。
だから、別の誰かを探さなければいけないんだけど、その誰かが見当たらなかった。
漠然とした観客たちって考えてしまうと、具体性がなさ過ぎてどうしたらいいのかわからないから、それだけは避けたかった。
自分の身近にいる人たちを一人づつ考えて、誰のための演奏か決めようとした。
とはいっても、観客として一番に聞かせたい人なんて思い浮かばなかった。
自分にとって大切な人なんていなかったんだろうか。
いや、そんなはずはないと思いたい。
だって、こんなにも自分を削ってまで、命を懸けてまでやってきたのは、誰のためかもわからないなんて。
いそこまで考えて混んでから、ふっと笑った。
本当に自分が何にも見えていなかったことに気が付いたんだ。
自分が演奏を聞かせようと思っていた人たちは、命を削ってまで思いを届けたかった人なんて、ここにいるじゃないか。
このバンドのメンバーがそうなんだ。
この三人のために、自分は身を削ってきたんじゃないか。
当たり前のことに気が付かないなんて、しかも完全に目の前にいるんだから、灯台下暗しだ。
そう気が付いたら、それからは練習は気軽だった。
気楽というよりかは、落ち着けるべき場所に心が落ち着いたっていう感じだ。
だから、どういう風にやりたいのかっていう、漠然としていたものがしっかりと固まっていた。
それは、この三人に最後の思い出を作ることと、音楽をつたえること。
そして、自分の最期の目標は、叶うかわからないけど、水上さんに託すつもりなんだ。
彼女に教えてあげたいことがまだ残っているんだ。
やっと僕が練習に身を入れられるようになったとき、諒一が声をかけた。
「そろそろ行こうか
ステージの近くにはいないといけないだろうからさ」
と、僕らに催促した。
僕は、時計を指してから、ステージの方を指して、最後に自分のドラムのセットを持ち上げるふりをしてみた。
多分これで、荷物をステージに運ぶっていう風に伝わったと思う。
二人だけで、何度も試行錯誤しながら、意思の伝達を楽にするようにすり合わせてきたんだから、と信頼している。
そうと決まれば、僕は自分のドラムセットをいくらか持った。
そして、さすがに手が足りないから、もてない分は諒一と山縣に持ってもらって、すべて担いでいる状態になった。
自分たちが練習していた場所に、何にも残っていないことを確認すると、ステージに向かって歩き始めた。
そこまで遠くはない距離だけど、これだけの荷物とかを持っていると、さすがに疲れそうだ。
部室等の方は、僕ら以外に人はほとんどいない。
他のバンドがちょこちょこいるぐらいだから、閑散としている。
でも、部室等を離れれば、ものすごい人だかりがどこにでもできている状態だった。
ここから見える窓の向こうは、教室の外側にも人が埋まっていて、本当に大盛況という感じだ。
ステージの方にも、人が集まっていて、ここからジャステージの上が見えないぐらいになっている。
それを見ただけで、緊張してしまいそうな勢いだった。
部室等を出ると、やっぱり空気の味が一味も二味も違った。
部室等の中は、人が少ないおかげで空気が澄んでいて綺麗だった。
だから、音がよく通るし、音の色が伝わりやすい感じがした。
それに対して、外気は全然音が伝わらない感じがして、嫌な感じがした。
僕らの音もかき消されてしまうんじゃないかって、心配になった。
音が届かないんじゃ、僕らの演奏も誰にも届かないものになってしまうかもしれない。
でも、そんなもの、僕らが作りたいものなんかじゃない。
このむさくるしい感じの空間に、どうやって僕らの音を満たそうか。
まだステージにもついていないのに、僕は悩んでいた。
ガタガタとドラムを引きずらないように持っていても、足がついてしまって音を立てながらドラムを運び終えた。
そして、ステージの裏側にスタンバイすると、急に緊張し始めてしまった。
なんだか、この上で演奏するのが急に怖くなってしまったんだ。
いろんな人に見られながら演奏したら、どうか失敗してしまいそうで、どうしようもなかった。
すると、それを見越したように、諒一が色々教えてくれた。
「秦野緊張してるだろ
そういう時は、手にぐっと力を込めて握ってから、一気に落ち着けるといいよ
まあ、ステージに上ってからやると効果的だから、今はやらないほうがいいけど」
と、緊張の緩和方法を教えくれた。
あんまり僕とかが知らないような雑学とかを知っていてくれるから、こういう時に本当に助かる。
諒一のその言葉のおかげで、あとで緊張がほぐれるっていう風に考えられると、自然と緊張が和らいだ。
なんか、だまされているような、暗示を翔けられているような、変な感じだ。
僕が一人で、手をぐーぱーしていると、とうとうそれが来てしまった。
「最後まで聞いてくれてありがとう!!
またいつか機会があったら聞いてください」
と言って、前のバンドが退場を始めたんだ。
その様子を感知した僕らは、急いで荷物をもってステージの上に上がる準備をした。
前のバンドに対する拍手が終わったら、すぐに入らなきゃいけないから、そのタイミングがシビアなんだ。
前の雰囲気を壊さないように、自分たちの雰囲気を作るためには、この間の取り方が大切なんだ。
「行くよ」
と、小さな声で諒一が言った。
それに合わせて、僕は水上さんにサインを送った。
そして、僕と山縣が諒一の後に着くように、その後ろに水上さんが来るようにして、ステージに上った。
急いでドラムの位置のセットや、マイクの用意などを済ませて、椅子に座った。
そこから見える景色は、圧巻のものですぐに目を覆いたくなるぐらいだった。
どこまで追いかけても果てがないと感じてしまうぐらい人がいて、その人たちを上から見ているという、怖い状況だった。
僕は、一人で手を固く握りしめた。
あんまり力を入れすぎても痛くなってしまうから、ほどほどの力を入れた。
そして、ふっと力を抜くと、自然に体がほぐれる感じがした。
確かに、諒一の言ったとおりに、緊張がほとんど消えてなくなってしまった。
僕がようやく安心していると、諒一がマイクを握りしめて、ステージの前に立っていた。
そうして、八コマ目が始まってしまったらしい。
僕らはさっきと同じ場所でずっと演奏をしているんだけど
「なんか浮き足立っちゃうよね」
と僕がこぼした。
もうすぐ本番だというから、緊張しちゃって真面目に練習ができない。
そわそわしちゃうから、音もはねている感じがして、ドラムのビートが安定していない。
僕が言った意味をすぐに理解したのか、山縣が返してくれた。
「まあ、あと数分なんだから仕方ないよ
もう少ししたら本番なんだし、いったん全身を落ち着けたほうがいいかもね」
と、軽くアドバイスしてくれた。
言われるがままに、手の緊張をほぐして、少しゆったりとした姿勢でたたくように心がける。
それだけでも、充分音が無駄に跳ねることはなくなって、かなり安定するようになってきた。
なんか、僕がドラムをたたいているのに、僕以外の人の方がドラムについて理解が深いような気がするときがある。
水上さんもそうだし、諒一もそうだけど、僕が考えもしない様なアドバイスをさっとしてくれる。
そして、そのおかげで僕のドラムは成り立っているといっても過言じゃないぐらいだ。
演奏をするときは落ち着くようになったけど、それでも僕はそわそわしてしまった。
ちょっとのブレイクの間に、すぐに時計をチラチラ見て、あとどれくらい練習できるのかを考えてしまった。
そうしているうちに、ふっと一つのことが思いつかれた。
それは、今の僕のそわそわしながら時計を見ることについてだ。
もしかして、このこういってすごい理にかなっているようで、矛盾してるのかもしれない。
僕自身は、少しでも長く練習していたいと思っているから、あんまり早くに終わってほしくはない。
それだというのに、時計を見ているとその時間分タイムロスしてしまうというんだ。
ということは、時計を気にすることによって、無駄に時間を消費しているから、その分だけ終わりが近づくということだ。
そう考えていくと、この行為ってすごい矛盾しているんだって感じた。
だから、もう時計は見ないように決めた。
無駄な時間を消費しないために。
そんな考えは露も知らないであろう三人とまた練習を再開した。
僕らの演奏が観客にどうみられるんだろうか。
この演奏を聴いて、観客は喜んでくれるんだろうか。
いや、そもそもこの演奏は誰のためにしているんだったっけか。
いつの間にか忘れてしまっているんだって気が付いた。
ドラムを淡々と叩きながら、この演奏を届けたい人のことを考えた。
本当は、お父さんかお母さんに届けられたら一番いいと思う。
でも、もう彼らに届けるすべは、僕は持ち合わせていないんだ。
だから、別の誰かを探さなければいけないんだけど、その誰かが見当たらなかった。
漠然とした観客たちって考えてしまうと、具体性がなさ過ぎてどうしたらいいのかわからないから、それだけは避けたかった。
自分の身近にいる人たちを一人づつ考えて、誰のための演奏か決めようとした。
とはいっても、観客として一番に聞かせたい人なんて思い浮かばなかった。
自分にとって大切な人なんていなかったんだろうか。
いや、そんなはずはないと思いたい。
だって、こんなにも自分を削ってまで、命を懸けてまでやってきたのは、誰のためかもわからないなんて。
いそこまで考えて混んでから、ふっと笑った。
本当に自分が何にも見えていなかったことに気が付いたんだ。
自分が演奏を聞かせようと思っていた人たちは、命を削ってまで思いを届けたかった人なんて、ここにいるじゃないか。
このバンドのメンバーがそうなんだ。
この三人のために、自分は身を削ってきたんじゃないか。
当たり前のことに気が付かないなんて、しかも完全に目の前にいるんだから、灯台下暗しだ。
そう気が付いたら、それからは練習は気軽だった。
気楽というよりかは、落ち着けるべき場所に心が落ち着いたっていう感じだ。
だから、どういう風にやりたいのかっていう、漠然としていたものがしっかりと固まっていた。
それは、この三人に最後の思い出を作ることと、音楽をつたえること。
そして、自分の最期の目標は、叶うかわからないけど、水上さんに託すつもりなんだ。
彼女に教えてあげたいことがまだ残っているんだ。
やっと僕が練習に身を入れられるようになったとき、諒一が声をかけた。
「そろそろ行こうか
ステージの近くにはいないといけないだろうからさ」
と、僕らに催促した。
僕は、時計を指してから、ステージの方を指して、最後に自分のドラムのセットを持ち上げるふりをしてみた。
多分これで、荷物をステージに運ぶっていう風に伝わったと思う。
二人だけで、何度も試行錯誤しながら、意思の伝達を楽にするようにすり合わせてきたんだから、と信頼している。
そうと決まれば、僕は自分のドラムセットをいくらか持った。
そして、さすがに手が足りないから、もてない分は諒一と山縣に持ってもらって、すべて担いでいる状態になった。
自分たちが練習していた場所に、何にも残っていないことを確認すると、ステージに向かって歩き始めた。
そこまで遠くはない距離だけど、これだけの荷物とかを持っていると、さすがに疲れそうだ。
部室等の方は、僕ら以外に人はほとんどいない。
他のバンドがちょこちょこいるぐらいだから、閑散としている。
でも、部室等を離れれば、ものすごい人だかりがどこにでもできている状態だった。
ここから見える窓の向こうは、教室の外側にも人が埋まっていて、本当に大盛況という感じだ。
ステージの方にも、人が集まっていて、ここからジャステージの上が見えないぐらいになっている。
それを見ただけで、緊張してしまいそうな勢いだった。
部室等を出ると、やっぱり空気の味が一味も二味も違った。
部室等の中は、人が少ないおかげで空気が澄んでいて綺麗だった。
だから、音がよく通るし、音の色が伝わりやすい感じがした。
それに対して、外気は全然音が伝わらない感じがして、嫌な感じがした。
僕らの音もかき消されてしまうんじゃないかって、心配になった。
音が届かないんじゃ、僕らの演奏も誰にも届かないものになってしまうかもしれない。
でも、そんなもの、僕らが作りたいものなんかじゃない。
このむさくるしい感じの空間に、どうやって僕らの音を満たそうか。
まだステージにもついていないのに、僕は悩んでいた。
ガタガタとドラムを引きずらないように持っていても、足がついてしまって音を立てながらドラムを運び終えた。
そして、ステージの裏側にスタンバイすると、急に緊張し始めてしまった。
なんだか、この上で演奏するのが急に怖くなってしまったんだ。
いろんな人に見られながら演奏したら、どうか失敗してしまいそうで、どうしようもなかった。
すると、それを見越したように、諒一が色々教えてくれた。
「秦野緊張してるだろ
そういう時は、手にぐっと力を込めて握ってから、一気に落ち着けるといいよ
まあ、ステージに上ってからやると効果的だから、今はやらないほうがいいけど」
と、緊張の緩和方法を教えくれた。
あんまり僕とかが知らないような雑学とかを知っていてくれるから、こういう時に本当に助かる。
諒一のその言葉のおかげで、あとで緊張がほぐれるっていう風に考えられると、自然と緊張が和らいだ。
なんか、だまされているような、暗示を翔けられているような、変な感じだ。
僕が一人で、手をぐーぱーしていると、とうとうそれが来てしまった。
「最後まで聞いてくれてありがとう!!
またいつか機会があったら聞いてください」
と言って、前のバンドが退場を始めたんだ。
その様子を感知した僕らは、急いで荷物をもってステージの上に上がる準備をした。
前のバンドに対する拍手が終わったら、すぐに入らなきゃいけないから、そのタイミングがシビアなんだ。
前の雰囲気を壊さないように、自分たちの雰囲気を作るためには、この間の取り方が大切なんだ。
「行くよ」
と、小さな声で諒一が言った。
それに合わせて、僕は水上さんにサインを送った。
そして、僕と山縣が諒一の後に着くように、その後ろに水上さんが来るようにして、ステージに上った。
急いでドラムの位置のセットや、マイクの用意などを済ませて、椅子に座った。
そこから見える景色は、圧巻のものですぐに目を覆いたくなるぐらいだった。
どこまで追いかけても果てがないと感じてしまうぐらい人がいて、その人たちを上から見ているという、怖い状況だった。
僕は、一人で手を固く握りしめた。
あんまり力を入れすぎても痛くなってしまうから、ほどほどの力を入れた。
そして、ふっと力を抜くと、自然に体がほぐれる感じがした。
確かに、諒一の言ったとおりに、緊張がほとんど消えてなくなってしまった。
僕がようやく安心していると、諒一がマイクを握りしめて、ステージの前に立っていた。
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