あの七夕の日を忘れない 〜もしも天の川が崩れたら〜

古明地 蓮

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そして天の川は空をかける

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彼の声が聞こえなくなってから数分後
私が彼の亡骸を病院に届けようと、立ち上がった時だった。
世界の何かが変わったとだけ、察知した。
でも、最初何が変わったのか、何が起きているのかはわからなかった。
しかし、空を見上げた瞬間、ありえないことが起こっていることに気が付いた。

天の川が崩れ始めたのだ。
織姫と彦星の間にかかる川が、音もなく、でも確かに崩れだした。
それは、あまりにも幻想的なことで、さっきまでの悲しみも、頭から消え失せていた。

いや、天の川が崩れただけじゃない。
空に見たことない色の虹がかかった。
それは、まるで星の色だけで作られているようだった。

今度は、私はその虹に目を奪われてしまった。
それは、果てしない先まで続いていて、その先端を目で追い続けていた。
だから、私は一番気が付くべきことに気が付けなかったんだ。

それは、私にとって、天の川よりも、星の色の虹よりも大切なこと
かすかな期待を寄せていたけど、起こりえないとも思ってしまっていたこと

「う~ん」

私の足元で、かすかなうめき声とも、寝起きのような声にも聞こえる音が響いた。
はじめ、私は自分の耳、いや頭を疑った。
かつて、何度も私に夢を見せてきた頭が、作り上げた彼の声かもしれない。

だから、私は無視しようと思った。
でも、初めてのことが起きた。

「よいしょ」

と言って、彼が私の足首をつかんだのだ。
それは、私にとって初めてのことだった。
私が見せられてきた夢は、私自身に触れられることはなかった。
だから、私の期待は格段に膨らんだ。

「蓮?」

すると、彼はいつもの寝起きの悪さで、

「どうかした光~?」

と、あくびで間延びした声で私を呼んだ。
私はすぐさま、しゃがんで彼に抱き着いた。

「おかえり 蓮!!」

すると、彼も何かを察したように、優しく微笑んで

「ただいま」

と言って、私の頭をなで始めた。
その手のぬくもりが暖かくて、どんどん涙が押し寄せるのを推進させた。
彼のその優しさとぬくもりは、もう味わえないと思っていたから、忘れられないように体にしみこませた。
そして、私はこれ以上ないほどの喜びに浸っていた。

でも奇跡は終わっていなかった。
今度こそ、絶対にないと思っていたことが起きた。

「ただいま お姉ちゃん」

と、病院の方から、耳になじんで離れないあの声が響いた。
私は、彼の体を多少突き飛ばすように、自分の体から引き離した。
ちょっと悪いことをした気がしたけど、それ以上に重要なことだ。

彼のぬくもりを離れて、体中に冷たさがしみ込んだ。
でも、その冷たさをかき消すように、立ち上がって声の元へ走り出した。

「彼方!!」

と言って、私は彼方を抱き上げた。
彼方の病状が悪くなってから、抱き上げることは出来なかったから、1年ぶりぐらいだ。
私は彼方のことを抱きしめて、彼方の髪に涙を零した。

彼方の体も、病気のせいで痩せていて、すごい軽かった。
それが、抱き上げた時に、胸が締め付けられる気持ちにさせた。
でも、彼方が帰ってきたことが嬉しすぎて、ずーっと抱きしめた。
なんだか、お姉ちゃん失格かな。

「おかえり 彼方」

と言って、彼方の髪を撫でてから、彼方と離れた。
いつの間にか、蓮が私たちの近くに立っていた。

「これで3人揃ったね」 

と、優しく言った。
その時、私は彼方たちに聞きたいことを聞いてみた。

「2人とも、短冊に何を願ったの?」

もしかしたらだけど、この奇跡は短冊が産んだものかもしれない。
だから気になったんだけど、2人とも頬を赤くして、

「それは言えないかな」

の一点張りだった。
まあ、いつか2人とも教えてくれるかな。

そして、私は空を見上げて、崩れ落ちた天の川と、星色の虹を目に焼き付けた。
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