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1章:勇者誕生
2話:祠と剣とイケメンと
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そこから先は、あっという間だった。
名前も知らないお母さんにされるがまま、布団を剥がされて、食卓に並んだ温かいスープをご馳走になる。
彼女は息つく暇もなく、今日の『儀式』について早口でまくし立てる。
「エイミー、成人の儀式はね、村に住む者にとって何よりも大切なんだよ。朝のうちに祠へ行って、聖剣に触れてくる。ただそれだけさ」
「あ、はい……」
(エイミー……?)
その呼び方が少し気になった。
私には馴染みのある名前。
元カレと一緒にRPGを遊ぶ時は、決まってこの名前をつけていた。
私の英美(えいみ)という名前になぞって付けられた主人公名前こそが『エイミー』だった。
(……なるほど、自然と受け入れられるわけだ)
返事をしながらも、心の中は混乱の渦は大きくなるばかり。
見覚えのないダイニングには、温かみのある木製の壁に年季の入ったテーブル。
見覚えが無いのに謎の実家感。
そして、言葉の端々から間違いなく私への母親らしい愛情が感じられるこの女性。
(初めて会ったはずなのに……)
彼女が言うには、この村では毎年、祠の前に村長とその年に17歳になる少年少女たちが集められ、いつか現れる『勇者』を選定するのが目的らしい。
(剣を抜いて、勇者に選ばれる……まさにRPGの超序盤イベントそのものじゃん)
頭の中で必死に突っ込みを入れてみてもお母さんは気に留める事なく早口で喋り、リビングを動き回っている。
「さあ、着替えはこれでいいね。ほら、顔を洗って!女の子は身だしなみが大事なんだから!」
「は、はい……」
自分が長年この家の娘であるかのように扱われて、流されるがままに身支度を整えていく。
ふと鏡に映った姿に、私は思わず息を呑んだ。
そこにいたのは、確かに、私自身。"英美の顔"のまま。
だけど、少し若返っている気がする。
化粧っ気も全くない、高校生の頃の私みたいだ。
格好は『平民の初期装備』みたいな麻で作られた地味なワンピースと紐で編み込んで作られたサンダル。
「……よかった、私で……」
全くの別人に転生したわけじゃないことに、思わず小さく呟く。
これで『赤の他人に転生しました』ってなると、さらに悩みが増えていただろうな。
とりあえず、私は現状を受け入れる事にした。
「さ、エイミー!早く儀式を済ませておいで。晩御飯はあんたの好きなハンバーグだよ」
お母さんはにっこり笑ってフライパンを持ち直し、私を玄関まで送り出してくれた。
(なんで、ずっとフライパン持ってたんだろ?……お母さんっぽさの演出?)
見知らぬ実家を後にすると、不思議と足取りは軽かった。
初めて見るはずの景色なのに、どこか懐かしくて、なぜか迷うことなく祠の方へと歩ける。
けれど、全部がゲームで見たものとは違っていた。
背景も、人々の表情も、空気の匂いも、すべてが『生きている』と感じる。
すれ違う人達は、私に明るく声をかけてくれる。
エイミーが17年生きて来た歴史を感じさせる。
(私は……死んで、きっと、RPGの世界に転生したんだよね?)
私が死んだ後、あの部屋はどうなったんだろうか?
流石に救急車呼んだりしてくれたよね?
あのクズ男は今頃どんな気持ちなんだろう。
悲しいのか、私がいなくなって良かったのか。
仕事は激務だったけど、出来る事がどんどん増えていく感じが楽しかった。
新人ながらも期待されたり、小さな事でも頼られて、やりがいを感じていた。
仕事が順調に進む中、反比例する様に彼との関係が悪化していった。
お互い就職してからというもの、彼は私に文句を言う事が多くなった。
夜遅くなるのは仕事の効率が悪いからとか、職場の先輩に色目使ってるとか、自分の職場にはもっと可愛い子がいるとか。
文句を言う癖に、自分の職場に近いからと私の家に住み着いていた。
(挙げ句の果てに女連れ込んでるのかよ……)
きっと、私には明るい未来があったはず。
そう思うと、胸の奥がざわつき、涙が溢れそうになる。
これからどうなるのか不安が押し寄せる。
なぜか、あのお母さんが恋しい。
あの無駄に大きいけど温かい声が耳に残っていた。
赴くままに数分歩き、森の中へ入るとひらけた場所へとたどり着いた。
そこには、お母さんから聞いていた通りの光景が広がっている。
仰々しくタイマツが飾られ祠。
何年もの年月が作り出した草が巻きついている台座。
その上に大きな岩と、さらにその上に突き刺さった一本の剣が鎮座している。
人だかりの中心には、背は極端に低いが顎ひげが異常に長い、アンバランスなおじいさんが立っていた。
(……あれ、絶対に『村長だ!)
手には年季の入った杖に、周りの人たちよりも装飾が多めについた羽織をまとっている。
他の住人との格の違いを感じさせる。絶対に村長。
私がそう考えながら、自然と村長の周りにいる人たちへ視線が向く。
7・8人の若い男性が村長を囲むように談笑している。
その中の一人を見た瞬間、私は完全に固まった。
(……え、なに、あの人)
光が差しているわけじゃない。
けれど、彼の周囲だけ淡く輝いて見える。
それは、まるで乙女ゲームの攻略対象キャラの様な、キラキラのエフェクトがかかっているみたい。
すっと通った鼻筋、彫刻のように整った顔立ち。
ほんのり色づいた唇はほどよく厚みがあって、妙に色気がある。
すらりと伸びた手足、姿勢の良さ。
人間離れした美形。
私は、思わず心臓が跳ねる。
その彼が、私と目を合わせた瞬間。
にこりと微笑み、片手をひょいと上げて見せた。
(うそ、今、私に……?)
間違いなく、私を見て微笑んだ。
神様、ありがとうーー。
死後の世界で、報われる事が出来ました。
あんなクズ男の代わりに、こんなイケメンに出会わせてくれるなんて。
私は、自然と頬が緩み、無意識にそのイケメンのもとへ駆け寄っていた。
名前も知らないお母さんにされるがまま、布団を剥がされて、食卓に並んだ温かいスープをご馳走になる。
彼女は息つく暇もなく、今日の『儀式』について早口でまくし立てる。
「エイミー、成人の儀式はね、村に住む者にとって何よりも大切なんだよ。朝のうちに祠へ行って、聖剣に触れてくる。ただそれだけさ」
「あ、はい……」
(エイミー……?)
その呼び方が少し気になった。
私には馴染みのある名前。
元カレと一緒にRPGを遊ぶ時は、決まってこの名前をつけていた。
私の英美(えいみ)という名前になぞって付けられた主人公名前こそが『エイミー』だった。
(……なるほど、自然と受け入れられるわけだ)
返事をしながらも、心の中は混乱の渦は大きくなるばかり。
見覚えのないダイニングには、温かみのある木製の壁に年季の入ったテーブル。
見覚えが無いのに謎の実家感。
そして、言葉の端々から間違いなく私への母親らしい愛情が感じられるこの女性。
(初めて会ったはずなのに……)
彼女が言うには、この村では毎年、祠の前に村長とその年に17歳になる少年少女たちが集められ、いつか現れる『勇者』を選定するのが目的らしい。
(剣を抜いて、勇者に選ばれる……まさにRPGの超序盤イベントそのものじゃん)
頭の中で必死に突っ込みを入れてみてもお母さんは気に留める事なく早口で喋り、リビングを動き回っている。
「さあ、着替えはこれでいいね。ほら、顔を洗って!女の子は身だしなみが大事なんだから!」
「は、はい……」
自分が長年この家の娘であるかのように扱われて、流されるがままに身支度を整えていく。
ふと鏡に映った姿に、私は思わず息を呑んだ。
そこにいたのは、確かに、私自身。"英美の顔"のまま。
だけど、少し若返っている気がする。
化粧っ気も全くない、高校生の頃の私みたいだ。
格好は『平民の初期装備』みたいな麻で作られた地味なワンピースと紐で編み込んで作られたサンダル。
「……よかった、私で……」
全くの別人に転生したわけじゃないことに、思わず小さく呟く。
これで『赤の他人に転生しました』ってなると、さらに悩みが増えていただろうな。
とりあえず、私は現状を受け入れる事にした。
「さ、エイミー!早く儀式を済ませておいで。晩御飯はあんたの好きなハンバーグだよ」
お母さんはにっこり笑ってフライパンを持ち直し、私を玄関まで送り出してくれた。
(なんで、ずっとフライパン持ってたんだろ?……お母さんっぽさの演出?)
見知らぬ実家を後にすると、不思議と足取りは軽かった。
初めて見るはずの景色なのに、どこか懐かしくて、なぜか迷うことなく祠の方へと歩ける。
けれど、全部がゲームで見たものとは違っていた。
背景も、人々の表情も、空気の匂いも、すべてが『生きている』と感じる。
すれ違う人達は、私に明るく声をかけてくれる。
エイミーが17年生きて来た歴史を感じさせる。
(私は……死んで、きっと、RPGの世界に転生したんだよね?)
私が死んだ後、あの部屋はどうなったんだろうか?
流石に救急車呼んだりしてくれたよね?
あのクズ男は今頃どんな気持ちなんだろう。
悲しいのか、私がいなくなって良かったのか。
仕事は激務だったけど、出来る事がどんどん増えていく感じが楽しかった。
新人ながらも期待されたり、小さな事でも頼られて、やりがいを感じていた。
仕事が順調に進む中、反比例する様に彼との関係が悪化していった。
お互い就職してからというもの、彼は私に文句を言う事が多くなった。
夜遅くなるのは仕事の効率が悪いからとか、職場の先輩に色目使ってるとか、自分の職場にはもっと可愛い子がいるとか。
文句を言う癖に、自分の職場に近いからと私の家に住み着いていた。
(挙げ句の果てに女連れ込んでるのかよ……)
きっと、私には明るい未来があったはず。
そう思うと、胸の奥がざわつき、涙が溢れそうになる。
これからどうなるのか不安が押し寄せる。
なぜか、あのお母さんが恋しい。
あの無駄に大きいけど温かい声が耳に残っていた。
赴くままに数分歩き、森の中へ入るとひらけた場所へとたどり着いた。
そこには、お母さんから聞いていた通りの光景が広がっている。
仰々しくタイマツが飾られ祠。
何年もの年月が作り出した草が巻きついている台座。
その上に大きな岩と、さらにその上に突き刺さった一本の剣が鎮座している。
人だかりの中心には、背は極端に低いが顎ひげが異常に長い、アンバランスなおじいさんが立っていた。
(……あれ、絶対に『村長だ!)
手には年季の入った杖に、周りの人たちよりも装飾が多めについた羽織をまとっている。
他の住人との格の違いを感じさせる。絶対に村長。
私がそう考えながら、自然と村長の周りにいる人たちへ視線が向く。
7・8人の若い男性が村長を囲むように談笑している。
その中の一人を見た瞬間、私は完全に固まった。
(……え、なに、あの人)
光が差しているわけじゃない。
けれど、彼の周囲だけ淡く輝いて見える。
それは、まるで乙女ゲームの攻略対象キャラの様な、キラキラのエフェクトがかかっているみたい。
すっと通った鼻筋、彫刻のように整った顔立ち。
ほんのり色づいた唇はほどよく厚みがあって、妙に色気がある。
すらりと伸びた手足、姿勢の良さ。
人間離れした美形。
私は、思わず心臓が跳ねる。
その彼が、私と目を合わせた瞬間。
にこりと微笑み、片手をひょいと上げて見せた。
(うそ、今、私に……?)
間違いなく、私を見て微笑んだ。
神様、ありがとうーー。
死後の世界で、報われる事が出来ました。
あんなクズ男の代わりに、こんなイケメンに出会わせてくれるなんて。
私は、自然と頬が緩み、無意識にそのイケメンのもとへ駆け寄っていた。
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