2度目の出愛

まなこば

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No.2夢果の過去

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 「おいしい…。」

  この一言を聞き、洋隆は嬉しさと安堵の気持ちで笑みがこぼれた。
  しかし洋隆がふと彼女を見ると、彼女は声を殺して泣いていた。

 「おいしい、おいしい、おいしい…。」
 
  彼女は何度もそう言い、泣きながら阿津島ラーメンを食べていた。
  そしてそれを見た洋隆は裏口から出て表に回り、店ののれんをそっと外してまた店の中に戻った。

  洋隆が店の中に戻っても彼女はまだ泣いていた。

 「声に出して泣いても大丈夫ですよ。店はもう閉めましたので。良かったら僕に話していただけませんか?話すと楽になると思うし。」

  洋隆はこんな時女性にどう接したら良いか分からなかった。けれど洋隆は自分なりの接し方で彼女の力になろうとした。

 「す、すみません。ありがとうございます。」

  彼女は水を一口飲み、口を開いた。

 「私、相沢夢果って言います。近くのレストランで働いています。」

  夢果は泣き止み、やっと落ち着いたという感じだった。

 「僕は塚田洋隆。今日、この店をオープンしました。」
 「通りで…恥締めてみるお店だって。それにラーメン阿津島って書いてあったから、もしかして阿津島ラーメンが食べられるかもと思って来店したんです。」

  洋隆は、驚きのあまり目を丸くした。
  なぜなら阿津島ラーメンを知っているのは阿津島出身の地元の人くらいだからだ。
  まして、東京で阿津島ラーメンを売っているお店は、洋隆の知っている限りこの店だけのはずだった。

 「はい。生まれも育ちも阿津島です。」
 「ほんどでっかぁ⁉自分も生粋の阿津島人じょってん、ほんどびっくらこいたでー‼」
 「ふふっ」
 
  ようやく夢果の顔から笑みがこぼれた。

 「私、久しぶりに阿津島弁聞きました。懐かしい。実は、私の両親は私が産まれてすぐに離婚しました。そして私は2歳半まで母に育てられました。

  洋隆は夢果の話を聞いている途中、1つ疑問に思った。

 「二歳半まで?」
 「ええ。私が二歳半の時、母は亡くなりました。事故でした。」

  洋隆は余計なことを聞いてしまったとすごく後悔した。

 「すみません。余計なことを…。」

  夢果はいいえという風に首を横に振った。
  そして話をつづけた。

 「その後私は、母方の祖母に育ててもらいました。私は高校まで阿津島で祖母と一緒に暮らしていて、こっちの専門学校に通うために私は祖母を残して島を出ました。」

  そして夢果の表情が再びくもり出してきた。

 「専門学校在学中は夏休みと春休みに祖母のいる阿津島に帰省していました。けれど、就職後はなかなか帰省できず、電話もかけられずにいました。そんな中、昨日阿津島の知人から電話が来て、おばあちゃんが、おばあちゃんが…亡くなったって。」

  予想もしていなかった一言に洋隆は言葉を失った。

 「私とおばあちゃん、阿津島ラーメンが大好きで、島で暮らしていたころよく食べていたんです。
 「それでうちの店に。」
 「はい。私にとって阿津島ラーメンはおばあちゃんとの思いでそのものなんです。」
 「そうでしたか…。」
 「でも、話したら少し楽になりました。本当に、ありがとうございました。お会計お願いします。」
 「お代は結構です。」
 「えっ?」
 「夢果さんはうちの店、開店一番客ですから。」
 「うれしい。ありがとうございます。じゃあ今度私の働いているお店にも来てください。この通り沿いで、駅の近くのル・バンカって言うお店です。」
 「わかりました。近いうちに伺います!うちの店にもまたいらしてください。いつでもお待ちしています。」
 「はい。また。ごちそうさまでした。」

  そう言うと夢果は嬉しそうに店を出た。
  こうして洋隆の開店初日は幕を閉じたのだった。
 
                 次へつづく。
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