龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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3.飼うならかわいい猫がいい

「なにか?」

 私を振り向く東雲さんの視線は冷ややかだ。

 東雲さんは、私が龍崎さんの家政婦をしていたと知っているのだろうか。疑問に思っても、とても聞けそうな雰囲気ではない。

「あ、い、いえ。大役だと思ったもので……」

「どんな仕事も同じです」

「は、はい。すみません。そうですね」

 うっ。き、厳しい。

「秘書が待機する部屋はいくつかに別れています」

 淡々と続く東雲さんの説明によれば、このフロアには役員室と秘書室、そして応接室がある。

 秘書室と書かれたプレートがある広い部屋には、担当役員が決まっていない秘書の席があるらしい。他の秘書はそれぞれ役員室の隣にある秘書用の小部屋に席がある。

 秘書用の小部屋は上半分がガラスになっていて、廊下から中の様子がよく見える。すでに席についている人もいて、彼らは男女を問わず見目麗しく頭も良さそうに見えた。見えるだけではなくて、きっと優秀なんだろう。

 東雲さんの紹介で、その都度簡単な挨拶をした。

「龍崎専務の秘書をしてもらうことになった森村さんです」

「森村小恋です。よろしくお願いします」

 皆朝から忙しそうだ。

 一秒の時間も惜しいのだろう。挨拶が終わるとすぐにパソコンや書類に目を落とす。予想はしていたけれど、田舎の農協とは随分雰囲気が違う。気さくなおばちゃんもいなければ、朝から欠伸をしているおじちゃんもいない。

 ユメちゃんのような友だちができるかなぁ。

 気合いを入れてきたのに、本当に私ここでやっていけるのかと早くも不安になってきて、まだ始まったばかりじゃないのと、自分を叱咤した。

 ここでがんばれなきゃ、田舎に戻るしかなくなるかもしれない。

 農協を辞めてしまったから、求人の少ない田舎で就職先が見つかるかどうか危ういし、正社員につけなければ、また母にお見合いを迫られてしまうだろう。

 それだけは嫌だ。人生にあきらめての結婚なんて、自分にも相手にも不幸だもの。

「ここが森村さんの席になります」

「はい」

 私の席は専務室隣の秘書用の小部屋にあった。
 部屋の中にある扉は、専務室と繋がっている。
 専務室には廊下からと、両方から出入りできる仕組みになっているらしい。

 机は向かい合わせにふたつあって、そのうちの一つが私の席。もうひとつの席は誰用と決まっているわけではなく、東雲さんや他の秘書がその時々で使うという。

「本日龍崎専務は大阪の本社に出張していて、戻りは明日になります。紹介はそれからで」

「はい。わかりました」
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