龍崎専務が誘惑する

白亜凛

文字の大きさ
26 / 81
4.バレたついでの極妻もどき

「どうしよう専務、熱が高いです」

 解熱剤と水を渡しながら、ショックで体が震えた。

 救急車を呼んだほうがいいのか東雲さんに連絡したほうがいいのか。本当に風邪かどうかもわからないのに。

「東雲さんに電話しましょうか」

「いいよ、大丈夫だ、一晩寝れば下がるから」

 息が荒いのに、専務はフッと笑顔を見せる。

「こら、泣くな。しょうがないなぁ」

 かわいそうで、いたたまれなくて、いつの間にか涙が滲んでいたらしい。

 彼が布団から手を出して、指先で涙を拭ってくれた。

「だって、専務……」

「平気だから。帰っていいぞ」

「はい。やることが終わったら帰りますから、気にしないで寝てくださいね」

 かわいそうな専務。いつから体調が悪かったのか、相当無理をしたに違いない。

 瞼を閉じると、そのまま落ちるように寝てしまった。

 そのまま私は専務の荒い息が少し落ち着くのを見届けて、キッチンに戻った。

 調理中だった料理は、消化の良さそうなものに変更する。

 鶏の南蛮漬けの予定だった鶏肉は蒸し鶏にして、出汁はそのままお粥に。ゆで卵で煮卵の作り置きをする。

 ある程度仕上がったところで手を止め、専務の様子を確認して、急いでコンビニに行ってヨーグルトやスポーツドリンクなどを買ってきた。

 家政婦としての仕事はすべて終わった。

 あとは冷蔵庫で冷やしたタオルと取り換えながら、専務の様子を見守るだけ。

 時計を見れば、十時過ぎを回っていた。

 呼吸は落ち着いてきているけれども、なにかあったらと思うと心配で離れられない。

 ねぇ専務。こんな時に呼ぶ人はいないの?

 前に電話で赤ちゃんの話をしていた相手は、どんな人なんですか。その人に連絡しないの? 私、帰らなきゃだめ? ここにいてもいい?

 ごめんなさい、専務。

 私が一番近くにいるのに、こんなになるまで気づかなくて。

 もっとスケジュール管理をできていたら、こうはならなかった。膝枕をしたあの頃にはすでに分刻みだったのに。

 東雲さんに、ひと言でいいから相談していれば未然に防げたかもしれない。

 ほんと情けない。秘書として失格だ。

 込み上げる涙に耐え、身を乗り出してベッドの上に上半身を横たえた。

 フカフカの羽毛布団だ。
 ベッドはとっても大きくて、私がこうしていても専務の邪魔にならない。

 だから、ちょっとだけ。もう少し。

 そう思ううち瞼は重たくなって、私はすっかり眠りについていた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。