龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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4.バレたついでの極妻もどき

9

「おはようございます」

 龍崎専務よりも先に現れた東雲さんは、朝の挨拶もそこそこに話し始めた。

「夕べは大変だったようですね。お疲れ様でした」

 私が専務のベッドで朝まで眠りこけたとは知らないのかな。

「あ、はい。でも、なにもできず……」

 東雲さんの視線にさらされると、なにもかも見透かされそうで視線が泳いでしまいそうになる。今は後ろめたさがあるだけになおさらだ。

 無性に謝りたくなったところで、東雲さんが、スッと名刺を差し出した。

「こちら、専務の主治医です。次になにかあった時は私に連絡か、もしくは直接主治医に連絡してください。往診もしてくれますから」

 主治医?

「はい。わかりました」

 名刺には個人病院らしい病院の名前が書いてあった。手書きで携帯電話の番号も書き添えてある。

「他の病院はいっさいダメです。おわかりですね?」

 ハッとして東雲さんを見上げると、冷ややかな視線で見下ろされた。

「は、はい。重々承知ですっ」

 龍崎専務の背中には龍がいる。

 東雲さんが言っているのは、多分そのことだ。

 昨夜は気が動転して忘れていたけれど、龍の紋々は気安く他人に見せられない。
 迂闊に救急車を呼ばなくてよかったと、ひそかに胸をなでおろした。

 専務の龍は、ちょっとやそっとのタトゥーとは違って、どこからどうみてもガチ極道の入れ墨だ。ファッションでは済まされない。

 なぜ入れ墨の存在を隠しているのか。改めて聞いてはない。

 けれども、いらぬ誤解を招かないためにも進んで見せる必要はないと、私も思う。

 今後なにかあった時、最初に〝背中の秘密〟を気にかけなければと心に強く誓う。私は秘書なのだから、上司を守らなきゃ。

「あと専務のスケジュールですが、後で少し見直しましょう。上司の健康管理も秘書の仕事です。気になることがあれば、早めに私に報告してください」

「はい。わかりました」

 龍崎専務は面倒見がいい。小言を言いながらも、気軽に相談に乗ってくれるものだから社内会議にもよく呼ばれる。でも、よく精査して選ばなければ、専務は本当にまた倒れてしまう。

 私には判断がつかないとは言っていられない。東雲さんにしっかりとついて見極める目を持てるようがんばらなきゃ。

 厳しい上司を見送り、緊張感で背筋を伸びたところで、ひょっこりと龍崎専務が顔を出した。

「おはよう」



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