龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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4.バレたついでの極妻もどき

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「おはようございます。大丈夫ですか?」

「ああ。もう大丈夫だ」

 表情もすっきりとして、体調は良さそうだ。

「そうですか、よかったです。朝ごはんは食べられましたか?」

「ああ、中華粥を食べたよ。美味かった、ありがとうな」

「いえ」

 よかった。食べられたなら心配ない。

「コーヒーどうしましょう? カップスープもありますし、お茶もありますが」

 専務は少し悩むように視線を上に向けると「今日は、お茶がいいか」と言う。

「わかりました。今持っていきますね」

 にっこり微笑んで、専務室に戻っていく龍崎専務に、心の中で『無理しないでくださいね』とささやいた。

 いつでも呼んでくださいね。すぐに駆けつけますから。

 毎日家事をしに行ってもいいんですよと心から訴えたい。言えるものなら――。

『俺に係わるな。近づくな。わかったな』

 わかっています。

 近づき過ぎたら嫌われてしまうんですよね。

 でも、専務が優しい微笑みを私に向けるから、つい忘れそうになるんです。

 いっそ優しくなんかしないで、ずっと怖いままでいいのに。

 そうしてくれれば、私だって……。


 ああ、どうしよう。好きな気持ちがあふれて止まらない。




 そんな揺れる心を持て余す、午後。

 三時のお茶の時間に、東雲さんと八雲さんが専務室に来ていた。

「どうぞ」

 三人が囲むテーブルの上にコーヒーを置くと、八雲さんが「小恋ちゃんはどうですか?」と言った。

「へっ?」

 なんのことかわからずに固まると、東雲さんがじろじろと私の全身に視線を這わせ、龍崎専務もまじまじと私を見る。

「えっと……、なんでしょう?」

「小恋ちゃん、専務の奥さん役やってみない?」

「はっ? 専務の、奥さん、役?」

「S工業の須田社長の還暦祝いのパーティがあってさ、パーティは女性同伴って言うんだよ。須田社長、自分の末娘を専務とくっつけようとしててさ、本当に専務が結婚しているか疑ってるわけ」

「な、なに言ってるんですか? 私、須田社長と会ったことありますよ? バレますって」

 長い脚を邪魔そうに組んで、ソファにのけぞるように座っている龍崎専務は、ニヤニヤと口元を歪める。

「大丈夫じゃねぇか? カツラ被ってホクロでも付けときゃ、なぁ?」

 ちょ、それってハロウィンの変装のこと言ってる?

「ええ。女性は化けますからね」

 えっ、東雲さんまで。

「よし、決まりだな。パーティは明後日の金曜だ。よ・ろ・し・く」
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