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5.パンドラの箱
1
私が龍崎専務の奥さん役なんて、そんなのあり?
八雲さんはまったく心配ないというけれど。
『同伴するだけだもん。なにか聞かれても専務がうまく返してくれるから大丈夫だよ。ホームパーティだからゲームやったり楽しいよ?』
そりゃまぁ楽しいのかもしれない。
正直うれしいし。
でもね、うれしいからこそ困ってしまうのだ。
胸の奥がチリチリと痛む。気持ちを隠して奥さん役なんて、私、耐えられるのかな?
夕べ親友のユメちゃんに報告をした。
「ユメちゃん聞いてよ、私ね。パーティで専務の奥さんのふりするの」
『ええ! なにそれ爆笑。絶対写真送ってね、見たい。楽しみ』
「うん。送る送る」
『もうさ、小恋。もう告白しちゃったほうがいいんじゃない?』
「え?」
ユメちゃんには、この胸で疼く気持ちが恋かもしれないとは告白していないのに。
『好きなんでしょう? もぉ、わかるよ、ヴァンパイアで実は未婚だったってわかったらさ、好きにならないほうがおかしいって』
さすが親友、ばればれだった。
「でもさぁ、告白なんてしたら、仕事がしづらくならないかなぁ」
『そりゃまぁそうかもしれないけど、うまくいってもフラれても、すっきりするんじゃない? 今のままじゃ、つらいでしょ?』
確かにね。つらいよ。
だけどフラれて専務から離れなきゃいけなくなるのは、もっとつらい……。
うだうだ悩んでいても時計の針は規則正しく進み――。
パーティ当日を迎えてしまった。
私が今いる場所は、どこぞのお洒落なビューティーサロン。
早退して八雲さんに連れてこられて、時間になったら専務が迎えに来るという。
それまで三時間もあるのにとなにをするのかと思えば、ただメイクをするだけじゃなかった。
エステから始まったのである。
横になり、スチームの湯気を浴びながらパックをする。チュンチュンという小鳥の囀りとせせらぎの水音が流れ、パックは温かくて気持ちよくて、瞬殺されてしまったらしい。
爆睡しているうちに、全身マッサージもなども終わり、目を覚ました時にはどこもかしこもテカテカつるつるになっていた。
「肌の色がグッと明るくなりましたね」
「すごい。なんか顔も小さくなったような気がします」
「リンパマッサージをしましたのでね、老廃物が流れてすっきりするんですよ」
「なるほど」
美容師の綺麗なお姉さんは、自分でも簡単にできるマッサージも教えてくれた。
お風呂でクリームをたっぷりと塗って顔のリンパマッサージ。早速今夜からやってみよう。
ヘアメイクの前に、ドレスを見せてもらった。
いつの間に準備したのか、龍崎専務から届けられていたらしい。
体ひとつで行けばいいと言われていた理由はこれだったのか。
色はブルーグレイ。形はシンプルなだけに体の線がわかって少し恥ずかしいけれど、大人っぽくて、ビーズとレースが光にあたるとキラキラ輝き、とっても綺麗だ。
「ではこのドレスなあわせて、大人っぽく変身しましょうか。全く別人にして差し上げますので安心してくださいね」
誰だかわからないように変装するという話が通じているらしい。
ふふっと微笑むメイクアップアーチストは楽しそうだ。
「はい。よろしくお願いします」
毛先がカールした長いウィッグをつけた。
自分の瞳よりも薄い茶のカラーコンタクトを入れているのですでに変身が始まっている。
二重の目じりにテープを貼って切れ長な目もとに変わった。
プロの技にすごいぞと見惚れているうちに不安だった気持ちは薄れ、わくわくと胸が躍ってくる。
美しい眉のライン。カラコンに加えてつけまつげのおかげもあってか、大きく目もとが変化した。
すごい。思わず唸ってしまう。
普段の私は前髪をおろして、肩までの髪をハーフアップにしているから、今のように額を見せるのも初めてだ。
これならば誰も私だと思わないだろう。もはや森村小恋は跡形もない。
鏡に映るのは専務の妻だ。
どうせなら今夜は思い切り妻を楽しもうと心に誓う。
八雲さんはまったく心配ないというけれど。
『同伴するだけだもん。なにか聞かれても専務がうまく返してくれるから大丈夫だよ。ホームパーティだからゲームやったり楽しいよ?』
そりゃまぁ楽しいのかもしれない。
正直うれしいし。
でもね、うれしいからこそ困ってしまうのだ。
胸の奥がチリチリと痛む。気持ちを隠して奥さん役なんて、私、耐えられるのかな?
夕べ親友のユメちゃんに報告をした。
「ユメちゃん聞いてよ、私ね。パーティで専務の奥さんのふりするの」
『ええ! なにそれ爆笑。絶対写真送ってね、見たい。楽しみ』
「うん。送る送る」
『もうさ、小恋。もう告白しちゃったほうがいいんじゃない?』
「え?」
ユメちゃんには、この胸で疼く気持ちが恋かもしれないとは告白していないのに。
『好きなんでしょう? もぉ、わかるよ、ヴァンパイアで実は未婚だったってわかったらさ、好きにならないほうがおかしいって』
さすが親友、ばればれだった。
「でもさぁ、告白なんてしたら、仕事がしづらくならないかなぁ」
『そりゃまぁそうかもしれないけど、うまくいってもフラれても、すっきりするんじゃない? 今のままじゃ、つらいでしょ?』
確かにね。つらいよ。
だけどフラれて専務から離れなきゃいけなくなるのは、もっとつらい……。
うだうだ悩んでいても時計の針は規則正しく進み――。
パーティ当日を迎えてしまった。
私が今いる場所は、どこぞのお洒落なビューティーサロン。
早退して八雲さんに連れてこられて、時間になったら専務が迎えに来るという。
それまで三時間もあるのにとなにをするのかと思えば、ただメイクをするだけじゃなかった。
エステから始まったのである。
横になり、スチームの湯気を浴びながらパックをする。チュンチュンという小鳥の囀りとせせらぎの水音が流れ、パックは温かくて気持ちよくて、瞬殺されてしまったらしい。
爆睡しているうちに、全身マッサージもなども終わり、目を覚ました時にはどこもかしこもテカテカつるつるになっていた。
「肌の色がグッと明るくなりましたね」
「すごい。なんか顔も小さくなったような気がします」
「リンパマッサージをしましたのでね、老廃物が流れてすっきりするんですよ」
「なるほど」
美容師の綺麗なお姉さんは、自分でも簡単にできるマッサージも教えてくれた。
お風呂でクリームをたっぷりと塗って顔のリンパマッサージ。早速今夜からやってみよう。
ヘアメイクの前に、ドレスを見せてもらった。
いつの間に準備したのか、龍崎専務から届けられていたらしい。
体ひとつで行けばいいと言われていた理由はこれだったのか。
色はブルーグレイ。形はシンプルなだけに体の線がわかって少し恥ずかしいけれど、大人っぽくて、ビーズとレースが光にあたるとキラキラ輝き、とっても綺麗だ。
「ではこのドレスなあわせて、大人っぽく変身しましょうか。全く別人にして差し上げますので安心してくださいね」
誰だかわからないように変装するという話が通じているらしい。
ふふっと微笑むメイクアップアーチストは楽しそうだ。
「はい。よろしくお願いします」
毛先がカールした長いウィッグをつけた。
自分の瞳よりも薄い茶のカラーコンタクトを入れているのですでに変身が始まっている。
二重の目じりにテープを貼って切れ長な目もとに変わった。
プロの技にすごいぞと見惚れているうちに不安だった気持ちは薄れ、わくわくと胸が躍ってくる。
美しい眉のライン。カラコンに加えてつけまつげのおかげもあってか、大きく目もとが変化した。
すごい。思わず唸ってしまう。
普段の私は前髪をおろして、肩までの髪をハーフアップにしているから、今のように額を見せるのも初めてだ。
これならば誰も私だと思わないだろう。もはや森村小恋は跡形もない。
鏡に映るのは専務の妻だ。
どうせなら今夜は思い切り妻を楽しもうと心に誓う。
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