35 / 81
5.パンドラの箱
6
やがて車が止まり、ドアが開く音がした。
マンションに着いたのだ。
今度は専務が開けてくれるのを待たずに、自分から外へ出た。
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
十時を過ぎたマンションのロビーは人影もない。
「それじゃ、おやすみなさい。失礼します」
専務は高層階専用のエレベーター。私は低層階用のエレベーター。ボタンを押すと扉はすぐに開く。足早に箱の中に入り階数ボタンを押した。
もう限界だった。閉じてゆく扉が涙腺を緩めていくように、堪えていた涙があふれ出す。もう涙を我慢しなくていい。
両手で顔を覆い嗚咽に耐えていると、エレベーターが動いていないと気づいた。
うまくボタンを押せていなかったのかと顔をあげると。
え?
龍崎専務が扉に手を掛けている。
「今日はまだ終わってないぞ」
「……専務?」
「妻になるんだろ?」
手を引かれて高層階用のエレベーターに乗り、専務の部屋に入るまで、涙が頬を濡らしたのも忘れて、私はただバカみたいに専務を見上げていた。
玄関に入って扉が閉じて、いきなり唇を重ねられた時。
一度は止まったはずの涙がまたあふれた。
「泣くなよ」
「だって」
「泣いたって、もう止めてあげないぞ」
抱き上げられときもまだ、なにがなんだかわからなかった。
ただ夢中でしがみついて、私がいつも整えているベッドに下ろされて、髪を撫でられて。
熱い眼差しで見つめられて。
「専務……好きです」
だから抱いて、私を抱いて。
何度も何度もキスをしながら、ずっと心で叫んでいた。好きです。どうしようもないほど。
気持ちはそうでも私の体は怯えたままで。
怖くなると、専務は優しいキスをしてくれた。
「怖いか?」
首を左右に振ると「震えているくせに」とクスッと笑う。
じゃあこうしようと唇を重ねたまま、指を這わせる専務に思わず目を剝いた。
「なんだ」
「あ、な、なんでもないです。なんかちょっと恥ずかしくて」
だって、どんな顔をしているか見られちゃう。
クスッと笑った専務は、あらためて私の顎に手をかけて、キスをするのかと思いきや、耳に息を吹きかけられた。
「ひゃ」
思わずブルブルと震えてしまう。
龍崎専務はといえば、私の反応なんて無視なのか、今度は耳たぶを舐めてきた。
「あ、あっ、せ、専務」
いいようのない快感が、体を走り抜けた。
い、今のは、なに。
「暁大だ」
え?
「専務とか呼ばれると、セクハラしているみたいだろ?」
「あ――。暁大さん」
「それでいい」
満足そうに目を細めた専務は、今後は唇にキスをする。
でも、今までのキスとは違っていた。歯をなぞるように動いた舌が咥内へと入ってくる。
舌を絡め取られて、吸われて、声が漏れる。
「ん、……っ、あ」
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。