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6・止められない
3
***
メモくらい残せばよかったかな。
脱兎のごとく部屋を飛び出してしまったけれど、龍崎専務は私がいると思っているのかも。
かといって今更戻れないけれど。
「はぁ……」
昨夜、何回キスしたっけ。
あっという間に夢中になって、なにも見えなくなってしまった。
龍崎専務はどうしてあんなにキスが上手なの。
あれって普通なのかな。比べる対象がないからよくわからないけど、経験豊富なんだろうな。
痛みとか。唇に、肌に、こころに残る甘い余韻に浸っていると、ブブブとスマートホンが揺れた。
心臓が飛び出しそうなくらいハッとしながら慌てて手に取った画面には、実彩子ちゃんという文字。
「はーい」
『小恋、なにしてる? 暇ならおいでよ、アキラがこれから出張で今晩いないの、泊まりに来ない?』
渡りに船だ。悶々とこのままひとりで部屋にいるのはつらい。
「行く!」と即答した。
電話が専務からじゃなくて、ちょっとガッカリしたのも嘘じゃない。
でもそれ以上に実彩子ちゃんの電話はうれしかった。
田舎から出てきた私には、休日に会うような友達がいない。職場でも親しく話ができる同僚はできたけれど、プライベートでも会うほどの付き合いではないし。
そんな中、特にこんな時には明るくてサバサバした性格の叔母の存在がありがたかった。
早速叔母のマンションに行った。
ランチがてら出かけて、目に留まった映画を見たいねって話しになって、それからショッピングをして夕ご飯を食べて。最後はバーにいくという、フルコースのデートのように遊ぶうち、専務からの連絡を待つ気持ちが薄れて、スマートホンが気にならなくなっていた。
実彩子ちゃんに言えない関係だという現実が、ブレーキングをかけたのかもしれない。
「どう? 仕事はうまくいってる?」
「うん。一日がアッという間だけど、とっても楽しい」
「龍崎さんはどう?」
ドキッと心臓が跳ねる。
落ち着いて、普通に話さなきゃ。
実彩子ちゃんにはハロウィンの出会いを話していないし、昨夜泊まったなんて絶対に言えないけれど、実彩子ちゃんには彼との縁を作ってもらった恩がある。
今こうしているのも実彩子ちゃんのおかげなのだから、報告できる話をちゃんと伝えなきゃいけない。
「専務は、すっごく忙しそう。昨夜ね、妻役を頼まれて取引先の社長宅のホームパーティに行ってきたんだ」
「ああ、そういえば、そんな話アキラから聞いたかも。龍崎さん既婚者のふりをしているのよね」
フフッと実彩子ちゃんが笑う。
「それでどうだったの? うまくやれた?」
「うん。最初は心配だったけど、楽しかったよ。プロのメイクアップアーチストさんにばっちり化粧してもらって別人みたいになって。演奏聞いたりゲームしたり」
「へえ、どんな感じのパーティだった? 詳しく教えて。ちょっと参考にしたい」
実彩子ちゃんは時々、アキラさんの仕事関係の人を招いて振る舞わなくちゃいけないらしい。パーティの内容に興味があるようだった。
夕べのようなパーティを主催する側だなんて、セレブなんだなぁと感心してしまう。
しかも、もと極妻だったとは。
専務にコーヒーをぶちまけて、背中の入れ墨を見た話の流れから、アキラ叔父さんがもと極道の若頭で、同じように入れ墨を背負っていると知った。
専務からアキラ叔父さんにその話が伝わり、実彩子ちゃんにも伝わっていた。
だから今はもう、実彩子ちゃんと私は秘密の共有者だ。
田舎の親族にも両親にも内緒。
過去の話とはいえ保守的な田舎なので、理屈は通らない。余計な波風を立てないためにも言う必要はないし。
私が秘密を知ったと聞いて、実彩子ちゃんは話てくれた。
メモくらい残せばよかったかな。
脱兎のごとく部屋を飛び出してしまったけれど、龍崎専務は私がいると思っているのかも。
かといって今更戻れないけれど。
「はぁ……」
昨夜、何回キスしたっけ。
あっという間に夢中になって、なにも見えなくなってしまった。
龍崎専務はどうしてあんなにキスが上手なの。
あれって普通なのかな。比べる対象がないからよくわからないけど、経験豊富なんだろうな。
痛みとか。唇に、肌に、こころに残る甘い余韻に浸っていると、ブブブとスマートホンが揺れた。
心臓が飛び出しそうなくらいハッとしながら慌てて手に取った画面には、実彩子ちゃんという文字。
「はーい」
『小恋、なにしてる? 暇ならおいでよ、アキラがこれから出張で今晩いないの、泊まりに来ない?』
渡りに船だ。悶々とこのままひとりで部屋にいるのはつらい。
「行く!」と即答した。
電話が専務からじゃなくて、ちょっとガッカリしたのも嘘じゃない。
でもそれ以上に実彩子ちゃんの電話はうれしかった。
田舎から出てきた私には、休日に会うような友達がいない。職場でも親しく話ができる同僚はできたけれど、プライベートでも会うほどの付き合いではないし。
そんな中、特にこんな時には明るくてサバサバした性格の叔母の存在がありがたかった。
早速叔母のマンションに行った。
ランチがてら出かけて、目に留まった映画を見たいねって話しになって、それからショッピングをして夕ご飯を食べて。最後はバーにいくという、フルコースのデートのように遊ぶうち、専務からの連絡を待つ気持ちが薄れて、スマートホンが気にならなくなっていた。
実彩子ちゃんに言えない関係だという現実が、ブレーキングをかけたのかもしれない。
「どう? 仕事はうまくいってる?」
「うん。一日がアッという間だけど、とっても楽しい」
「龍崎さんはどう?」
ドキッと心臓が跳ねる。
落ち着いて、普通に話さなきゃ。
実彩子ちゃんにはハロウィンの出会いを話していないし、昨夜泊まったなんて絶対に言えないけれど、実彩子ちゃんには彼との縁を作ってもらった恩がある。
今こうしているのも実彩子ちゃんのおかげなのだから、報告できる話をちゃんと伝えなきゃいけない。
「専務は、すっごく忙しそう。昨夜ね、妻役を頼まれて取引先の社長宅のホームパーティに行ってきたんだ」
「ああ、そういえば、そんな話アキラから聞いたかも。龍崎さん既婚者のふりをしているのよね」
フフッと実彩子ちゃんが笑う。
「それでどうだったの? うまくやれた?」
「うん。最初は心配だったけど、楽しかったよ。プロのメイクアップアーチストさんにばっちり化粧してもらって別人みたいになって。演奏聞いたりゲームしたり」
「へえ、どんな感じのパーティだった? 詳しく教えて。ちょっと参考にしたい」
実彩子ちゃんは時々、アキラさんの仕事関係の人を招いて振る舞わなくちゃいけないらしい。パーティの内容に興味があるようだった。
夕べのようなパーティを主催する側だなんて、セレブなんだなぁと感心してしまう。
しかも、もと極妻だったとは。
専務にコーヒーをぶちまけて、背中の入れ墨を見た話の流れから、アキラ叔父さんがもと極道の若頭で、同じように入れ墨を背負っていると知った。
専務からアキラ叔父さんにその話が伝わり、実彩子ちゃんにも伝わっていた。
だから今はもう、実彩子ちゃんと私は秘密の共有者だ。
田舎の親族にも両親にも内緒。
過去の話とはいえ保守的な田舎なので、理屈は通らない。余計な波風を立てないためにも言う必要はないし。
私が秘密を知ったと聞いて、実彩子ちゃんは話てくれた。
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