龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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6・止められない

 男友達、か。

 私と龍崎専務は、付き合っているわけじゃない。

『今夜だけ、私を本当の妻にして』とお願いして、専務はその願いを叶えてくれただけだ。

 アキラ叔父さんと実彩子ちゃんとは違う。アキラ叔父さんは実彩子ちゃんが好きでナンパしたけれど、私たちはそうじゃない。

 思えば昨夜のことは、ハロウィンの続きなのかもしれない。
 これでもう満足しただろう?
 あのメモに、そう言われているような気がした。

 私は大人の女性として、一夜限りの恋を手に入れたんだ。
 これ以上望むのはルール違反だろう。


「会って、みようかな」

 言った途端に寂しさを感じ、肩の力が抜けた。

「よっし。どれどれ、じゃあ早速」


 新しい出会いが、龍崎専務の背中に張り付いていた私の心を、引き剥がしてくれるかな。

 執着しちゃだめ。想い出に変えなきゃ。
 それが、彼に似合う大人の女なんだもの。

 私はそう言い聞かせた。

 そのまま実彩子ちゃんのところに泊まったけれど、予想を裏付けるように、龍崎専務からはなんの音沙汰もなかった。

 次の日曜日も何事もなく、本当に、本当にあれきり。

 バスタブの中でこっそり泣いた。

 いろんなことを考えた。

 頭の中がぐちゃぐちゃになるほど考えて、あきらめた。

 私はちゃんと世界一好きな人に抱いてもらえたんだ。一生分くらいのキスをして、思い切り甘えて、気を失うほど体は愛してもらえたんだから。

 それでいいじゃない?



 明くる朝。泣いてむくんだ顔を蒸しタオルで直して、パンパンと頬を叩き気合いを入れた。

「さあ、今日もがんばって仕事しよう」

 楽しいゴールデンウィークが待っているぞ!

 何事もなかった顔をして、いつものように朝のコーヒーを落としスケジュールに漏れがないかを確認する。深呼吸をしながら手順をイメージしていると、東雲さんが入ってきた。

「おはようございます」

「専務のスケジュール、変更してください」

「はい?」

 どうやら週末に、とある現場で事故があったらしい。

 軽症者しかいないというが、龍崎専務は週末その対応にあたっていたという。

「こちらについては延期。この会議については営業と相談してください」

「はい。わかりました」

 メモにあった仕事は、この件だったの?
 仕事は本当だったんだ……。

 私、勝手に想像して納得してバカみたい。

 トレイにコーヒーを載せて専務室の扉の前に立ち、大きく深呼吸。

「失礼します」

 いったいどんな顔をしていいのか。不安に揺れる心に目眩がしそうになりながら、扉を開ける。

 落ち着いてと言い聞かせながら進む一歩は、結構きつい。ほんの数歩の距離を進だけなのに、とてつもなく時間がかかっているような気がする。

 龍崎専務と目を合わせるのは怖くて、まっすくデスクを見つめて進みコーヒーを置く。

「おはようございます」

 って、え!?

 専務はなぜか隣に立っていた。

 ふいに私の顎をすくい、チュッとキスをする。

「おはようのキス。土曜の朝、あのまま出掛けちゃって、してあげられなかったからな」

 固まる私を見てクスッと笑った専務は、私を残してデスクに移動する。
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