44 / 81
6・止められない
7
「現場で事故があったとか」
「そうなんだ。軽症だからよかったものの、競艇に夢中になって足を踏み外すとかありえねぇだろ。ったく」
「ああ、現場って、競艇場の現場だったんですね」
ため息をつきながら、専務がうなずいた。
競艇場のスタンド席の改修工事がある。どうやら事故はその現場だったらしい。
「ひとりが落ちて、雪崩のように数人がな。まあ怪我自体は軽いし一般客を巻き込んではいないから良かったが」
現場にはたくさんの下請け業者が絡む。なにかあったときに責任を取るのは親会社の龍崎組だ。現場監督の対応で済まなければ、駆けつけるのはいつも龍崎専務になる。
「で、スケジュールどうなってる?」
「あ、はい。東雲さんから変更の指示がありました」
いつの間にか普通に仕事モードになっていて。
気がつけば失礼しますと、自分の席に戻っていた。
ん、待てよ。
キスしたよね。おはようのキス?
ちょっと、どういうことですか!
いやいや、忙しかったとはいえ、メールくらい送ってくれたってよかったのでは?
いまごろキスされるよりも、すぐにメールをくれたほうがよっぽどうれしいですよ?
もぉ、本当になにを考えているんだか。
誘惑しないでくださいよ、ここはオフィスなんですから。
でも次の日は、キスはなかった。
いや、なくて当然なんだけれど。
あのキスは土曜の朝の分だったの? もう二度とないの?
結局なにも聞けず、もちろん甘い雰囲気もおとずれないまま、一週間が慌ただしく過ぎた。
「では、お先に失礼します」
「はい。お疲れ」
専務室の扉を閉じてため息をつく。
いよいよ明日からゴールデンウィークに突入する。
一週間も会えないというのに龍崎専務ときたらさっぱりしたもので、休み中はどうするのなどいうひと言もなかった。
ちなみに専務のスケジュールは初日を除いて空白だ。それがわかっているだけに、悲しいやら切ないやら。
「あ、小恋ちゃんお疲れ」
「八雲さん、残業ですか?」
「ちゃんと休むためにも今日だけはね」
「がんばってくださいね。お先に失礼しまーす」
八雲さんは恋人と旅行に行くらしい。
うらやましいにもほどがある。
お休み中の家政婦の仕事は、初日の夜にだけ行く手筈になっていて、料理は冷凍保存がきくものをと頼まれている。
もちろんその時間、専務は仕事でいない。
せっかくの休みに会えない……。
そりゃ私たちは恋人同士ではないし、私は文句を言える立場ではないけれど。ちょっと寂しくないですか?
「そうなんだ。軽症だからよかったものの、競艇に夢中になって足を踏み外すとかありえねぇだろ。ったく」
「ああ、現場って、競艇場の現場だったんですね」
ため息をつきながら、専務がうなずいた。
競艇場のスタンド席の改修工事がある。どうやら事故はその現場だったらしい。
「ひとりが落ちて、雪崩のように数人がな。まあ怪我自体は軽いし一般客を巻き込んではいないから良かったが」
現場にはたくさんの下請け業者が絡む。なにかあったときに責任を取るのは親会社の龍崎組だ。現場監督の対応で済まなければ、駆けつけるのはいつも龍崎専務になる。
「で、スケジュールどうなってる?」
「あ、はい。東雲さんから変更の指示がありました」
いつの間にか普通に仕事モードになっていて。
気がつけば失礼しますと、自分の席に戻っていた。
ん、待てよ。
キスしたよね。おはようのキス?
ちょっと、どういうことですか!
いやいや、忙しかったとはいえ、メールくらい送ってくれたってよかったのでは?
いまごろキスされるよりも、すぐにメールをくれたほうがよっぽどうれしいですよ?
もぉ、本当になにを考えているんだか。
誘惑しないでくださいよ、ここはオフィスなんですから。
でも次の日は、キスはなかった。
いや、なくて当然なんだけれど。
あのキスは土曜の朝の分だったの? もう二度とないの?
結局なにも聞けず、もちろん甘い雰囲気もおとずれないまま、一週間が慌ただしく過ぎた。
「では、お先に失礼します」
「はい。お疲れ」
専務室の扉を閉じてため息をつく。
いよいよ明日からゴールデンウィークに突入する。
一週間も会えないというのに龍崎専務ときたらさっぱりしたもので、休み中はどうするのなどいうひと言もなかった。
ちなみに専務のスケジュールは初日を除いて空白だ。それがわかっているだけに、悲しいやら切ないやら。
「あ、小恋ちゃんお疲れ」
「八雲さん、残業ですか?」
「ちゃんと休むためにも今日だけはね」
「がんばってくださいね。お先に失礼しまーす」
八雲さんは恋人と旅行に行くらしい。
うらやましいにもほどがある。
お休み中の家政婦の仕事は、初日の夜にだけ行く手筈になっていて、料理は冷凍保存がきくものをと頼まれている。
もちろんその時間、専務は仕事でいない。
せっかくの休みに会えない……。
そりゃ私たちは恋人同士ではないし、私は文句を言える立場ではないけれど。ちょっと寂しくないですか?
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。