46 / 81
6・止められない
9
龍崎専務はスーツを着ていて、同じようにスーツを着ている男性ふたりと話をしている。
慌てて高村さんの陰に隠れようとしたけれど時すでに遅し。
振り返った専務と目が合った。
でもそれはほんの一瞬で、専務はそのまま高村さんをちらりと見て、一緒にいる男性たちとの会話に戻っていく。
距離はここから一〇メートルくらい。
エレベーターに乗るには専務のうしろを通らなければならない。このまままっすぐ歩くと、さらに接近して一メートルくらいになるだろう。
龍崎専務のスケジュールでは取引先と会う場所はその会社だったはず。このホテルへは、食事がてら移動してきたのだろうか。
私の心はすっかり、龍崎専務の後ろ姿に捕らわれて、体は裳ぬけの殻のようになった。
なにも知らない高村さんは話を続けている。
「ここのデザートビュッフェすっごく美味しいらしいですよ」
「そうですか。それは楽しみです」
口だけは義務的に動くけれど。
――泣きたい。
私と龍崎専務は一夜だけの関係。
専務の心を動かせなかった。
あの後の、なにもない一週間でわかったいたじゃない。
私が男の人と会っていても。専務は不愉快に思うどころか、むしろホッとしているのかも……。
今日は家政婦の仕事の日だ。
夕方には専務の部屋に行き、連休中困らないよう作り置きの用意を頼まれている。
専務の帰りは夜七時の予定。それまでに済ませてしまえば、顔を合わせたりもしない。
そんなことを考えながら、龍崎専務のすぐ後ろを通り過ぎた。
専務の香りが感じられるほど近く。
私はすべての神経を視界の隅に集中していたけれど、通り過ぎるまで、龍崎専務は一度も振り返らなかった。
慌てて高村さんの陰に隠れようとしたけれど時すでに遅し。
振り返った専務と目が合った。
でもそれはほんの一瞬で、専務はそのまま高村さんをちらりと見て、一緒にいる男性たちとの会話に戻っていく。
距離はここから一〇メートルくらい。
エレベーターに乗るには専務のうしろを通らなければならない。このまままっすぐ歩くと、さらに接近して一メートルくらいになるだろう。
龍崎専務のスケジュールでは取引先と会う場所はその会社だったはず。このホテルへは、食事がてら移動してきたのだろうか。
私の心はすっかり、龍崎専務の後ろ姿に捕らわれて、体は裳ぬけの殻のようになった。
なにも知らない高村さんは話を続けている。
「ここのデザートビュッフェすっごく美味しいらしいですよ」
「そうですか。それは楽しみです」
口だけは義務的に動くけれど。
――泣きたい。
私と龍崎専務は一夜だけの関係。
専務の心を動かせなかった。
あの後の、なにもない一週間でわかったいたじゃない。
私が男の人と会っていても。専務は不愉快に思うどころか、むしろホッとしているのかも……。
今日は家政婦の仕事の日だ。
夕方には専務の部屋に行き、連休中困らないよう作り置きの用意を頼まれている。
専務の帰りは夜七時の予定。それまでに済ませてしまえば、顔を合わせたりもしない。
そんなことを考えながら、龍崎専務のすぐ後ろを通り過ぎた。
専務の香りが感じられるほど近く。
私はすべての神経を視界の隅に集中していたけれど、通り過ぎるまで、龍崎専務は一度も振り返らなかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。