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7.優しさの意味
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「じゃ、龍崎さん。また後程」
「ありがとうございました」
客を見送って、俺と八雲もそのままホテルを出た。次は現場二カ所。今日も一日が長い。
「さっき、小恋ちゃんでしたよね。デートかな」
「さあな」
「俺てっきり小恋ちゃんは専務に夢中だと思ったんだけどなぁ」
がっかりしたように八雲はため息をつく。
小恋がエレベーターに乗った頃、その場を離れていた八雲が戻った。
歩いてくる途中、気づいたのだろう。
「女心はわかんないっすねー。いいんですか? 取られて」
「うるせぇな。俺と小恋はそんなんじゃねぇ。あいつは見合いをするそうだ」
「え、マジで」
「アキラさんの紹介でな」
「そっかー、じゃ仕方ないっすね。さっきの男が見合い相手なのかな」
そうかもしれないし違うかもしれないし。んなこたぁ俺だって知らねぇよ。
アキラさんと会ってから数日後、アキラさんから連絡があった。
『小恋が見合いをする。決めたのは小恋だ。わかってるとは思うが邪魔はするなよ』
『はい。わかっています』
そう言った手前、手も足も出せない。
なにも知らない八雲は、お似合いのカップルだったなぁと、減らず口をたたきながらスマートホンで文字を打っている。
「また彼女か。お前もマメだな」
「え? 全然マメじゃないっすよ。これでも怒られてんですから」
「なにをそんなに送ることがあるんだよ。週の半分は会ってんだろ?」
頼んでもいないのに八雲はスマートホンの画面を見せてきた。
画面には他愛ないやり取りが並ぶ。
今夜は焼肉食いに行こう。ゴールデンウイークの旅行の相談。今日はこれを食べたという彼女のランチの写真。
「面倒くせ」
「その面倒くせぇことをしてあげないと、女は納得しないんですってば」
「はっ。ご苦労なこった」
「そんなんだから、恋人ができないんですよ」
「あ?」
ぶつくさ言う八雲の声を遮るように、ちょうど俺のスマホが鳴った。
表示されたのは懐かしい名前。
「はい」
『龍崎か。久しぶりだな、どうだ。専務稼業は順調か』
「ええ。まぁなんとか」
相手は、極道『白竜会』の若頭、渡利。俺より十は年上の男。
用件は組員の息子の就職についてだった。
『真っ当な子なんだ。大学まではなんとかなったんだがな。いざ就職となると弾かれちまう』
「いま、どうしてるんですか?」
『居酒屋でバイトしながら、めげずに就職活動してるそうだ』
「わかりました。一回会ってみますよ」
『悪いな』
時々こんな電話がある。極道とはいえ人の親であったり兄弟がいたり。普通に生きようとしても極道の二文字が大きな足枷になる。
極道一家。その履歴だけであっけなく人生を詰む。おそろしいほど簡単に。
「ありがとうございました」
客を見送って、俺と八雲もそのままホテルを出た。次は現場二カ所。今日も一日が長い。
「さっき、小恋ちゃんでしたよね。デートかな」
「さあな」
「俺てっきり小恋ちゃんは専務に夢中だと思ったんだけどなぁ」
がっかりしたように八雲はため息をつく。
小恋がエレベーターに乗った頃、その場を離れていた八雲が戻った。
歩いてくる途中、気づいたのだろう。
「女心はわかんないっすねー。いいんですか? 取られて」
「うるせぇな。俺と小恋はそんなんじゃねぇ。あいつは見合いをするそうだ」
「え、マジで」
「アキラさんの紹介でな」
「そっかー、じゃ仕方ないっすね。さっきの男が見合い相手なのかな」
そうかもしれないし違うかもしれないし。んなこたぁ俺だって知らねぇよ。
アキラさんと会ってから数日後、アキラさんから連絡があった。
『小恋が見合いをする。決めたのは小恋だ。わかってるとは思うが邪魔はするなよ』
『はい。わかっています』
そう言った手前、手も足も出せない。
なにも知らない八雲は、お似合いのカップルだったなぁと、減らず口をたたきながらスマートホンで文字を打っている。
「また彼女か。お前もマメだな」
「え? 全然マメじゃないっすよ。これでも怒られてんですから」
「なにをそんなに送ることがあるんだよ。週の半分は会ってんだろ?」
頼んでもいないのに八雲はスマートホンの画面を見せてきた。
画面には他愛ないやり取りが並ぶ。
今夜は焼肉食いに行こう。ゴールデンウイークの旅行の相談。今日はこれを食べたという彼女のランチの写真。
「面倒くせ」
「その面倒くせぇことをしてあげないと、女は納得しないんですってば」
「はっ。ご苦労なこった」
「そんなんだから、恋人ができないんですよ」
「あ?」
ぶつくさ言う八雲の声を遮るように、ちょうど俺のスマホが鳴った。
表示されたのは懐かしい名前。
「はい」
『龍崎か。久しぶりだな、どうだ。専務稼業は順調か』
「ええ。まぁなんとか」
相手は、極道『白竜会』の若頭、渡利。俺より十は年上の男。
用件は組員の息子の就職についてだった。
『真っ当な子なんだ。大学まではなんとかなったんだがな。いざ就職となると弾かれちまう』
「いま、どうしてるんですか?」
『居酒屋でバイトしながら、めげずに就職活動してるそうだ』
「わかりました。一回会ってみますよ」
『悪いな』
時々こんな電話がある。極道とはいえ人の親であったり兄弟がいたり。普通に生きようとしても極道の二文字が大きな足枷になる。
極道一家。その履歴だけであっけなく人生を詰む。おそろしいほど簡単に。
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