龍崎専務が誘惑する

白亜凛

文字の大きさ
上 下
47 / 81
7.優しさの意味

しおりを挟む
「じゃ、龍崎さん。また後程」

「ありがとうございました」

 客を見送って、俺と八雲もそのままホテルを出た。次は現場二カ所。今日も一日が長い。

「さっき、小恋ちゃんでしたよね。デートかな」

「さあな」

「俺てっきり小恋ちゃんは専務に夢中だと思ったんだけどなぁ」

 がっかりしたように八雲はため息をつく。

 小恋がエレベーターに乗った頃、その場を離れていた八雲が戻った。

 歩いてくる途中、気づいたのだろう。

「女心はわかんないっすねー。いいんですか? 取られて」

「うるせぇな。俺と小恋はそんなんじゃねぇ。あいつは見合いをするそうだ」

「え、マジで」

「アキラさんの紹介でな」

「そっかー、じゃ仕方ないっすね。さっきの男が見合い相手なのかな」

 そうかもしれないし違うかもしれないし。んなこたぁ俺だって知らねぇよ。

 アキラさんと会ってから数日後、アキラさんから連絡があった。

『小恋が見合いをする。決めたのは小恋だ。わかってるとは思うが邪魔はするなよ』

『はい。わかっています』

 そう言った手前、手も足も出せない。

 なにも知らない八雲は、お似合いのカップルだったなぁと、減らず口をたたきながらスマートホンで文字を打っている。

「また彼女か。お前もマメだな」

「え? 全然マメじゃないっすよ。これでも怒られてんですから」

「なにをそんなに送ることがあるんだよ。週の半分は会ってんだろ?」

 頼んでもいないのに八雲はスマートホンの画面を見せてきた。

 画面には他愛ないやり取りが並ぶ。

 今夜は焼肉食いに行こう。ゴールデンウイークの旅行の相談。今日はこれを食べたという彼女のランチの写真。

「面倒くせ」

「その面倒くせぇことをしてあげないと、女は納得しないんですってば」

「はっ。ご苦労なこった」

「そんなんだから、恋人ができないんですよ」

「あ?」

 ぶつくさ言う八雲の声を遮るように、ちょうど俺のスマホが鳴った。

 表示されたのは懐かしい名前。

「はい」

『龍崎か。久しぶりだな、どうだ。専務稼業は順調か』

「ええ。まぁなんとか」

 相手は、極道『白竜会』の若頭、渡利。俺より十は年上の男。

 用件は組員の息子の就職についてだった。

『真っ当な子なんだ。大学まではなんとかなったんだがな。いざ就職となると弾かれちまう』

「いま、どうしてるんですか?」

『居酒屋でバイトしながら、めげずに就職活動してるそうだ』

「わかりました。一回会ってみますよ」

『悪いな』

 時々こんな電話がある。極道とはいえ人の親であったり兄弟がいたり。普通に生きようとしても極道の二文字が大きな足枷になる。

 極道一家。その履歴だけであっけなく人生を詰む。おそろしいほど簡単に。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

その火遊び危険につき~ガチで惚れたら火傷した模様~

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:28

貞操観念が逆転した世界で、冒険者の少年が犯されるだけのお話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,065pt お気に入り:28

悪役令嬢が死んだ後

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,208pt お気に入り:6,140

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:171,153pt お気に入り:7,831

刃に縋りて弾丸を喰む

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:16

魔王

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:54

処理中です...