龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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7.優しさの意味

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「森村さんは行ったことがないそうですよ」

「そうなんだ。まぁ行かないほうがいいですよ。じゃあ、新宿のホストクラブはご存知ですか?」

 え? 専務ってホストクラブまで持ってるの?

「いえまったく、存じ上げません」

「決して行かないほうがいいですよ。まぁ龍崎さんは龍崎組では優秀なビジネスマンですし優秀な経営者には違いないですけれど、裏の顔は知らないほうがいい」

「裏の顔……」

「実はここだけの話ですが、私の前の秘書は、そのクラブのVIPルームで怪しげな薬をすすめられたそうで。結局おかしくなって辞めてしまいました」

 え? うそ――、そんなの、うそよ。

「龍崎さんはご存知ないかもしれないですが」
「まぁでも、森村さんは行かないほうがいいですよ」

 畳みかけるようにふたりは口を揃える。

 もちろん行きませんよ。ホストクラブも六本木のクラブも。ついでに言えば銀座のクラブもね。私とは無縁の場所ですから。
 でもそれは、今の話とは関係ない。

 その話はそれきり終わり、あとは他愛もない話をしてランチタイムは終わった。
 表向きは笑っていたけれど、あんな話を聞いて楽しいはずがない。青木さんが食べたがっていたパフェの味がどんな感じだったのも、よくわからなかった。

 六本木のクラブのVIPルーム?

 青木さんと清水さんの話を全面的に信用するわけじゃない。

 でも、そのクラブが本当になるのか確かめる方法はある。会社に戻る道すがら、実彩子ちゃんにメッセージを送って聞いてみた。

『龍崎さんのお店で、六本木のクラブってあるの?』

『クラブRzのこと? どうかした?』

『ありがと。なんでもないよー、ただ行ったっていう人がいたから、知りたかっただけなの』

 クラブRz。インターネットで検索してみた。

 薄暗い店内、紫や赤や毒々しいライトが飛び交うなかを派手な格好で踊る人々。匿名掲示板では色々と書かれている。VIPルームやばいとかなんとか。

 私の知らない世界だ。

 龍崎専務……。

 ハロウィンの夜を、思い出した。

 とっても怖かったけれど、ヴァンパイアは私を助けてくれた。
 そう。彼は私を、助けてくれたのだ。見ず知らずの私を。

『物欲しそうな顔をしてあんなところにいたら、こういうことになるってことだ』

 彼が怪しげな薬に手を出して人を陥れたりするはずがない。


 はずがないのだ。
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