龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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8.極道ということ

 偶然は意外と重なるものである。

 スイーツを買おうとして会社帰りにコンビニ寄ると、青木さんがいた。同時にシュークリームに手を伸ばしたのである。

「あ」

「あはは、すごい偶然ですね」

 そのまま少しだけ立ち話をした。

「この前はすみませんでしたね、変な話をしてしまって」

「え?」

「龍崎専務の店です。気になっていたとはいえ、森村さんは一緒に働いているのに、余計な話をしまったって。あれから反省しました」

「ああ、別に大丈夫ですよ。私は龍崎専務を信じてますし」

 私がそう言うと、青木さんは少し怪訝そうな顔をした。

「――そうですか」

「はい。では、失礼します」

 ペコリと頭を下げてプリンに手を伸ばしてレジに向かった。シュークリームを買わなかった理由は、青木さんと同じスイーツを食べるなんて、絶好に嫌だから。

 本人が言ったとおり。私にわざわざあんな話を聞かせるなんて、悪意しかない。

 もちろん、私は龍崎専務のすべて知っているわけじゃないけれど、私が知っている側面だけだって、人柄くらいは十分にわかる。

 コンビニを振り返って、キッと睨んだ。
 ちょうど青木さんと目が合って、彼はハッとしたように引き攣った笑いを見せた。

 見かけ倒しのクズめ。二度と会社に来るな!


 今夜は家政婦をする日なので、そのまま向かう。

 龍崎専務の部屋に行って、まずは腹ごしらえに買ったプリンを食べた。

 今日作るメニューは考えてある。
 専務が好きなキンピラごぼう、イカと大根の煮物、油揚げの中に納豆とネギと七味を混ぜたものを詰めて焼いたもの。その他もみんな、渋々の和食。

 青木さんの人懐っこそうな笑みを思い出し、ムッと眉間に皺を寄せる。

 嫌なやつ。
 いい人のお面を被った悪魔め。

 好きな人が悪意を向けらるのは、自分が嫌われる以上につらい。私に言うからには他の人にもあんなふうに言っているはず。

「専務。あんなやつらに負けないで。サイテーだよ、専務の前ではいつもヘラヘラしてるくせに」

 ぶつぶつ文句を言いながら料理をしていた時、カチャっと玄関から音がした。

 専務は残業の予定で、帰りは九時を過ぎるはず。仕事が早く終わったのだろうか?

 ウキウキしながら覗いても玄関の扉は動かない。

「あれ?」

 確かに音はしたはずなのに。

 気になって玄関まで行く廊下ではなにか音がした。ドスンとかドスッというような重たそうな音。覗き穴から見てみたけれどなにも見えない。

 嫌な予感がしてドアを開けた。

「専務?」

 ほんの数センチ開けただけで「開けるなっ!」という龍崎専務の怒鳴り声がして、ドアが押し返された。

「えっ!」
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