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8.極道ということ
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会場内の人々の目が一斉に集まった先にいたのは、龍崎専務と美しい木村さんだった。
見れば床にはグラスが転がり、ワインらしき赤い染みが広がっている。
慌てて人の間を抜けながら近寄っていくと、木村さんがしきりに「申し訳ありません」と謝っていた。
その隣には清水さんがいて、なにかを言いながら専務の上着に手をかけている。脱がせようとしているように見えた。
なにやってんのあの男!
もし中の白シャツまで濡れていたら。
やめて! と叫びそうになったときには、専務は上着を脱がされていて、いったいどんな浴びせられ方をしたのか、中のワイシャツも首から背中へと濡れているではないか。
ところが。――あれ?
寄り添うように立っている八雲さんに視線で問いかけると、彼は「問題ないよ」と小さく頷く。
まじまじと龍崎専務の濡れた背中を見ても、肌は透けるもののなんの柄も浮き上がってこない。
〝龍〟はどうしたんだろう。
「も、申し訳ありません」
木村さんはしきりに謝り続け、専務は苦笑いを浮かべながら「大丈夫ですから」と声をかけている。
「龍崎さま、どうぞこちらへ」とホテルスタッフが促す。
東雲さんはこの場に残り、八雲さんと一緒に私も専務についていった。
「あのクソやろう」
八雲さんが小さく言って舌を打つ。
「なにがあったんですか」
「清水だよ。実際にワインを浴びせかけたのは秘書の女だけど、専務の背中を見るのが狙いだ。小恋ちゃん、車から専務の着替え持ってきて。運転手に聞けばわかる。部屋番号は電話するよ」
「はい」
清水め! 絶対に許さないっ!
大急ぎで地下駐車場に行くと、すでに連絡があったらしく運転手が着替えを手にして立っていた。
運転手と警備員のふたりは、なにがあろうとも専務の車からは絶対に離れない。車になにか小細工をされないためだ。ふたりとも鋭い目つきで辺りを伺っている。
「お疲れさまです」
「お願いします」
間もなく八雲さんから、専務がいる部屋番号の連絡があった。
ノックをして、のぞき穴からしっかり見えるように立って「森村です」と声をかけるとドアが開いた。
「専務は今、シャワー浴びている。頭からワインを被っちゃったからさ」
部屋の中には八雲さんひとりだった。
「背中。あいつ、疑っているんですか」
「“あいつ”って、あはは、小恋ちゃんまで」
「だって、聞いてくださいよ、ちょっと前なんですけど、清水さんと営業の青木さんと偶然ランチをするはめになって」
「え、小恋ちゃんナンパされたの?」
「違いますってば」
私はかくかくしかじかとあの日ふたりから聞かされた話をした。
清水さんの前の秘書が、専務が経営する六本木のクラブのVIPルームで怪しい薬をすすめられて薬物中毒になり結局辞めてしまったという話だ。
「それ、そっくりそのまま、清水がやった話だよ」
「ええ? そうなんですかっ?」
「あいつは、バーテンを金で操ってVIPルームで好き勝手やって出禁になったんだ」
見れば床にはグラスが転がり、ワインらしき赤い染みが広がっている。
慌てて人の間を抜けながら近寄っていくと、木村さんがしきりに「申し訳ありません」と謝っていた。
その隣には清水さんがいて、なにかを言いながら専務の上着に手をかけている。脱がせようとしているように見えた。
なにやってんのあの男!
もし中の白シャツまで濡れていたら。
やめて! と叫びそうになったときには、専務は上着を脱がされていて、いったいどんな浴びせられ方をしたのか、中のワイシャツも首から背中へと濡れているではないか。
ところが。――あれ?
寄り添うように立っている八雲さんに視線で問いかけると、彼は「問題ないよ」と小さく頷く。
まじまじと龍崎専務の濡れた背中を見ても、肌は透けるもののなんの柄も浮き上がってこない。
〝龍〟はどうしたんだろう。
「も、申し訳ありません」
木村さんはしきりに謝り続け、専務は苦笑いを浮かべながら「大丈夫ですから」と声をかけている。
「龍崎さま、どうぞこちらへ」とホテルスタッフが促す。
東雲さんはこの場に残り、八雲さんと一緒に私も専務についていった。
「あのクソやろう」
八雲さんが小さく言って舌を打つ。
「なにがあったんですか」
「清水だよ。実際にワインを浴びせかけたのは秘書の女だけど、専務の背中を見るのが狙いだ。小恋ちゃん、車から専務の着替え持ってきて。運転手に聞けばわかる。部屋番号は電話するよ」
「はい」
清水め! 絶対に許さないっ!
大急ぎで地下駐車場に行くと、すでに連絡があったらしく運転手が着替えを手にして立っていた。
運転手と警備員のふたりは、なにがあろうとも専務の車からは絶対に離れない。車になにか小細工をされないためだ。ふたりとも鋭い目つきで辺りを伺っている。
「お疲れさまです」
「お願いします」
間もなく八雲さんから、専務がいる部屋番号の連絡があった。
ノックをして、のぞき穴からしっかり見えるように立って「森村です」と声をかけるとドアが開いた。
「専務は今、シャワー浴びている。頭からワインを被っちゃったからさ」
部屋の中には八雲さんひとりだった。
「背中。あいつ、疑っているんですか」
「“あいつ”って、あはは、小恋ちゃんまで」
「だって、聞いてくださいよ、ちょっと前なんですけど、清水さんと営業の青木さんと偶然ランチをするはめになって」
「え、小恋ちゃんナンパされたの?」
「違いますってば」
私はかくかくしかじかとあの日ふたりから聞かされた話をした。
清水さんの前の秘書が、専務が経営する六本木のクラブのVIPルームで怪しい薬をすすめられて薬物中毒になり結局辞めてしまったという話だ。
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