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9.さよなら愛おしい人
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私が同じマンションの住人である理由はちゃんとあったらしい。
龍崎専務の部屋に出入りしても容易にバレないためだという。彼と同じフロアの住人がどんな人たちなのかは把握しているようだし、マンションの管理会社も信頼がおけるところだという。
今は極道ではないとはいえ、実際にこの前のような事件もあるのだから念には念を入れるのは当然だろう。
専務を刺した男らは、三人とも特定された。男らの証言によれば闇サイトで雇われたらしい。そのサイトに募集をかけた人物が清水の遊び仲間というところまで、わかったという。
今回の犯行が、清水や青木と繋がっている可能性が高くなった。
やつらはどうして、そこまでして専務を陥れようとするのか。八雲さんに聞いてみた。
「理由ねぇ。理由なんてあとでどうとでもつけられるからなぁ」
「これといった理由もない?」
「たぶんね。要するに気に入らないんだよ。専務はやつらに落とされそうになった女や男を何人か助けているから、目の上のたんこぶなんだろ。ああいうやつは執念深いからさ」
気に入らない存在だから、か。
そう言われるとわからなくもない。その手の感情に具体的な理由をつけるのは難しい。
「でもそれだけの理由で、そこまでするなんて異常者ですね」
「ああ、その通り。奴らは普通じゃない。小恋ちゃん、まじで気をつけてよ。渡された指輪絶対に外さないようにね」
「はい。十分気をつけます」
やれやれ。
当分の間は人通りの多い道しか歩かないようにというお達しだ。実彩子ちゃんの家に泊まるように、アキラ叔父さんからも強く念を押されている。
どうやら男たちに私の声が聞かれてしまったのが問題らしい。
皆私を気遣ってかはっきりとは教えてくれないけれど、龍崎専務が刺されたあの日、私が玄関のドアを開けて『専務?」と声をかけてしまったから。
女が部屋にいた。しかもその女は彼を専務と呼んだとなれば、普通に考えれば同じ会社の人間だとわかる。
私のあの行動は、相手に情報を与えてしまったのだ。
それだけじゃない。もしかしたら、私が声をかけたせいで隙ができて、専務は切られてしまったのかもしれない。
龍崎専務は違うと否定したけれど。
私のせいなんだよね……。
ふと、指輪が目に留まった。
事件のあと、専務にわたされていた指輪だ。
『小恋、この指輪にはGPSが付いている。これをしていれば、いつ何時お前になにが起きても助けにいける』
GPSと聞かされて一瞬怯んでしまった。
監視されるなんて、いくら大好きな彼でも、自由を奪われるようでちょっと嫌な気がした。
『嫌か? 嫌ならば田舎に帰ってもらうしかないぞ』
『え?』
どうするかと選択を迫る彼の眼は真剣だった。
『それほど危険なの?』
『ああ』と言って有無を言わさず、専務が私の指にはめた指輪。少なくとも秘書でいるうちは絶対に外してはダメだという。
彼と付き合うからには、そういう覚悟が必要なんだろう。
誰かに命を狙われるなんて、私の平凡な毎日では予想もできなかった。
でも。田舎に帰ってもらうしかないぞって。
帰るなとは言ってくれないんだなぁって、ちょっと悲しかった。
『よく、考えろ』
これからどうすべきか、よく考えるんだと言った彼は、そのまま甘い眼差しを向ける瞳を近づけて唇を重ね、私が骨抜きになるような濃厚なキスをした。
あんなキスをされたら帰るなんて言えるわけがない。
離れようとする彼にしがみついて、焦らしにじらされながら、もっともっととせがむ私を、彼はクスッと笑う。
『ずるい』
『なにが?』
まったくもぉ。
考える隙もなくなるような誘惑。
まんまとはまる私。ああもう、本当に憎らしい。
龍崎専務の部屋に出入りしても容易にバレないためだという。彼と同じフロアの住人がどんな人たちなのかは把握しているようだし、マンションの管理会社も信頼がおけるところだという。
今は極道ではないとはいえ、実際にこの前のような事件もあるのだから念には念を入れるのは当然だろう。
専務を刺した男らは、三人とも特定された。男らの証言によれば闇サイトで雇われたらしい。そのサイトに募集をかけた人物が清水の遊び仲間というところまで、わかったという。
今回の犯行が、清水や青木と繋がっている可能性が高くなった。
やつらはどうして、そこまでして専務を陥れようとするのか。八雲さんに聞いてみた。
「理由ねぇ。理由なんてあとでどうとでもつけられるからなぁ」
「これといった理由もない?」
「たぶんね。要するに気に入らないんだよ。専務はやつらに落とされそうになった女や男を何人か助けているから、目の上のたんこぶなんだろ。ああいうやつは執念深いからさ」
気に入らない存在だから、か。
そう言われるとわからなくもない。その手の感情に具体的な理由をつけるのは難しい。
「でもそれだけの理由で、そこまでするなんて異常者ですね」
「ああ、その通り。奴らは普通じゃない。小恋ちゃん、まじで気をつけてよ。渡された指輪絶対に外さないようにね」
「はい。十分気をつけます」
やれやれ。
当分の間は人通りの多い道しか歩かないようにというお達しだ。実彩子ちゃんの家に泊まるように、アキラ叔父さんからも強く念を押されている。
どうやら男たちに私の声が聞かれてしまったのが問題らしい。
皆私を気遣ってかはっきりとは教えてくれないけれど、龍崎専務が刺されたあの日、私が玄関のドアを開けて『専務?」と声をかけてしまったから。
女が部屋にいた。しかもその女は彼を専務と呼んだとなれば、普通に考えれば同じ会社の人間だとわかる。
私のあの行動は、相手に情報を与えてしまったのだ。
それだけじゃない。もしかしたら、私が声をかけたせいで隙ができて、専務は切られてしまったのかもしれない。
龍崎専務は違うと否定したけれど。
私のせいなんだよね……。
ふと、指輪が目に留まった。
事件のあと、専務にわたされていた指輪だ。
『小恋、この指輪にはGPSが付いている。これをしていれば、いつ何時お前になにが起きても助けにいける』
GPSと聞かされて一瞬怯んでしまった。
監視されるなんて、いくら大好きな彼でも、自由を奪われるようでちょっと嫌な気がした。
『嫌か? 嫌ならば田舎に帰ってもらうしかないぞ』
『え?』
どうするかと選択を迫る彼の眼は真剣だった。
『それほど危険なの?』
『ああ』と言って有無を言わさず、専務が私の指にはめた指輪。少なくとも秘書でいるうちは絶対に外してはダメだという。
彼と付き合うからには、そういう覚悟が必要なんだろう。
誰かに命を狙われるなんて、私の平凡な毎日では予想もできなかった。
でも。田舎に帰ってもらうしかないぞって。
帰るなとは言ってくれないんだなぁって、ちょっと悲しかった。
『よく、考えろ』
これからどうすべきか、よく考えるんだと言った彼は、そのまま甘い眼差しを向ける瞳を近づけて唇を重ね、私が骨抜きになるような濃厚なキスをした。
あんなキスをされたら帰るなんて言えるわけがない。
離れようとする彼にしがみついて、焦らしにじらされながら、もっともっととせがむ私を、彼はクスッと笑う。
『ずるい』
『なにが?』
まったくもぉ。
考える隙もなくなるような誘惑。
まんまとはまる私。ああもう、本当に憎らしい。
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