龍崎専務が誘惑する

白亜凛

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9.さよなら愛おしい人

2 ♡

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 さて、コーヒーを出して、帰ろうかな。

 いつの間にか退社時間になっていた。

 最近はこの時間が恨めしい。不届きな考えとはわかっているけれど、憎たらしく仕方がない専務とほんの少しでも離れ離れになりたくないから。

 そうは言っても帰らないといけないのでコーヒーメーカーで本日最後のコーヒーを落とす。

 コンコンと扉をノックして、「失礼します」と扉を開けると、龍崎専務はソファーにいた。

 仕事がひと段落したのか、専門誌を読んでいる。

 テーブルにコーヒーカップを置いて「それじゃお先に失礼します」と頭を下げる。

「ちゃんと指輪はしているか?」

 ちょっと不満げに口火を尖らせてうなずくと、立ち上がった専務は、確認するように私の手を取った。

「外すなよ?」

「はい。わかってます」

「いい子だ」

 顎をすくって、専務は私の唇にキスをする。

 チュッと軽く。

 ここは専務のマンションじゃない。執務室なんだもの。
 仕方がないわ、と切なくなったとき、ふいに壁に押し付けられた。


「――専務?」

「なんだかこのまま帰したくないな」

 え?

 左手は壁に置き、右手の指先で私の頬を撫でる専務の瞳が、妖艶に光る。

 期待と不安で、私の胸は上下する。

 ああ、専務……。


 最初はいつものように、ついばむようなキス。

 それからどんどん激しくなって、私の脚の間に、専務の脚が挟まれて。

「えっ」

 ちょっと待って、ここは。

「大丈夫だ。ノックもなしに入ってくる不届きなやつはいない」

 東雲さんは夕方から会議でいないし、八雲さんは直帰で出かけた。だから突然入ってくるような人はいない。

「で、でも」

 それ以上は言うなというように、またキスをする専務は、耳もとで囁いた。

「お前だけ、な」

 その言葉だけで、ざわざわと体の奥から熱が込み上げる。

 専務の脚が邪魔をして、閉じられない私の脚の間に、専務の手が入ってくる。

 思わず声が漏れそうになり、咄嗟に右手の甲で口を押えた。

 こんな時、フレアースカートは無防備だ。

 ストッキングの上からなぞられるだけでもう、恥ずかしいくらい濡れてくるのがわかる。

 耳を甘噛みされながら、専務の指があっけなく下着の中に入っていくのをなすすべなく受け入れて。

 ピチャピチャという、いやらしい音が部屋に響くのをどうしようもない。

「せ、専務……やめて」

「ダメだ。観念しろ、小恋」

 あ、……。ああ、もうダメ。我慢できないよ。

 激しくなる指の刺激に耐えきれず、がくがくと膝を震わせながら、私は専務にしがみついた。

 専務の指が、確認するように私の中にするりと入る。

 どれだけ気持ちよかったか告白するように、私の中が痙攣し、専務の指をきゅうきゅうと締め付ける。

 それがわかるのに、恥ずかしくてたまらないのに、どうしようもない。


「バカ。専務のバカ。きらい」

「かわいいな、お前は」

 でも、大好き。

 クスッと笑った専務は、最後にもう一度、甘いあまーいキスをした。
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