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9.さよなら愛おしい人
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まったくもー。
セクハラじゃん。完全な。
だけど、しばらく家政婦もお休みだし、専務の部屋には行けないから……。
少しでも甘いときを過ごせて、うれしかった。
そっと指輪をなでた。
この指輪は、私と専務を繋いでいてくれる。
実彩子ちゃんのマンションに行く前に、着替えを取りに、いったん自分の部屋に戻った。
スポーツバッグに荷物を詰めて、そのままマンションを出て間もなくだった。入口からほんの数歩歩いた時。
キキーッと激しいタイヤ音を立てて目の前に車が止まった。
「え?」
飛び出てきた黒装束の男たち。逃げる間も声をあげる暇もなく、あれよという間に口をふさがれて、私は車のなかに担ぎ込まれた。
車の中にいたのは――。
「し、清水さん?」
放り込まれるように乗せられたのは後部座席。車は三列シートで、一番後ろのシートにSIMIIの常務取締役、清水さんがいた。
「ごめんね、小恋ちゃん。驚かせちゃったね」
「これは、なんなんですか!」
抗議の声をあげると、同時に「おい、騒ぐんじゃねぇよ」と両側の男にがっちりと両腕を掴まれた。
「小恋ちゃん、痛い思いをしたくないなら、黙っていて」
クックッと下品な笑い声が響く。
痛い思いは嫌だ。それに騒いだところでこの状況ではどうにもならない。唇を噛んでジッと前を見据えた。
怖くないわけじゃないけれど、自分でも驚くほど冷静なのは彼がくれた指輪のおかげ。
必ず専務が助けに来てくれる。
それに一度は修羅場を目にしているのだ。
これくらいじゃ驚いていられない。心ひそかに『お前なんかに負けるもんか! フンッ』と言ってやった。
隣の男が私のポケットからスマートホンが取り出して、清水に渡す。
「小恋ちゃん、これ指紋認証?」
黙っているとまたガラの悪い男に文句を言われた。
「答えろ!」
「黙ってろって言ったじゃないですか」
「生意気な女だな」
思い切り睨んでやると、手を掴まれてスマートホンに指をあてられる。
「俺さ、ほんと嫌いなんだよね、龍崎」
「どうしてですか?」
「だってさ、あいつただのヤクザだろ。ヤクザなんかクズじゃん。小恋ちゃんそう思わない?」
「こんなふうに犯罪を犯す清水さんのほうが、正義だっていうんですか?」
「まぁね、ヤクザ相手だからさ、仕方ないよ」
クスクス笑いながら、私のスマートホンの画面を見ていた清水は必要ななにかを見つけたのか、男に私のスマートホンを戻した。
自分のスマートホンでどこかに電話をかける音が漏れ聞こえてくる。
もしかしたら私のスマートホンで、龍崎専務の電話番号を探したのかもしれない。
彼直通の、私や東雲さんしか知らない番号がある。私はその番号にご丁寧に龍崎専務と名前をつけてしまっていた。
ボイスチェンジャーをつけたらしく清水は確認するように変な声を出してから、あらためて声を出した。
「龍崎か。お前の秘書を預かっている」
専務!
セクハラじゃん。完全な。
だけど、しばらく家政婦もお休みだし、専務の部屋には行けないから……。
少しでも甘いときを過ごせて、うれしかった。
そっと指輪をなでた。
この指輪は、私と専務を繋いでいてくれる。
実彩子ちゃんのマンションに行く前に、着替えを取りに、いったん自分の部屋に戻った。
スポーツバッグに荷物を詰めて、そのままマンションを出て間もなくだった。入口からほんの数歩歩いた時。
キキーッと激しいタイヤ音を立てて目の前に車が止まった。
「え?」
飛び出てきた黒装束の男たち。逃げる間も声をあげる暇もなく、あれよという間に口をふさがれて、私は車のなかに担ぎ込まれた。
車の中にいたのは――。
「し、清水さん?」
放り込まれるように乗せられたのは後部座席。車は三列シートで、一番後ろのシートにSIMIIの常務取締役、清水さんがいた。
「ごめんね、小恋ちゃん。驚かせちゃったね」
「これは、なんなんですか!」
抗議の声をあげると、同時に「おい、騒ぐんじゃねぇよ」と両側の男にがっちりと両腕を掴まれた。
「小恋ちゃん、痛い思いをしたくないなら、黙っていて」
クックッと下品な笑い声が響く。
痛い思いは嫌だ。それに騒いだところでこの状況ではどうにもならない。唇を噛んでジッと前を見据えた。
怖くないわけじゃないけれど、自分でも驚くほど冷静なのは彼がくれた指輪のおかげ。
必ず専務が助けに来てくれる。
それに一度は修羅場を目にしているのだ。
これくらいじゃ驚いていられない。心ひそかに『お前なんかに負けるもんか! フンッ』と言ってやった。
隣の男が私のポケットからスマートホンが取り出して、清水に渡す。
「小恋ちゃん、これ指紋認証?」
黙っているとまたガラの悪い男に文句を言われた。
「答えろ!」
「黙ってろって言ったじゃないですか」
「生意気な女だな」
思い切り睨んでやると、手を掴まれてスマートホンに指をあてられる。
「俺さ、ほんと嫌いなんだよね、龍崎」
「どうしてですか?」
「だってさ、あいつただのヤクザだろ。ヤクザなんかクズじゃん。小恋ちゃんそう思わない?」
「こんなふうに犯罪を犯す清水さんのほうが、正義だっていうんですか?」
「まぁね、ヤクザ相手だからさ、仕方ないよ」
クスクス笑いながら、私のスマートホンの画面を見ていた清水は必要ななにかを見つけたのか、男に私のスマートホンを戻した。
自分のスマートホンでどこかに電話をかける音が漏れ聞こえてくる。
もしかしたら私のスマートホンで、龍崎専務の電話番号を探したのかもしれない。
彼直通の、私や東雲さんしか知らない番号がある。私はその番号にご丁寧に龍崎専務と名前をつけてしまっていた。
ボイスチェンジャーをつけたらしく清水は確認するように変な声を出してから、あらためて声を出した。
「龍崎か。お前の秘書を預かっている」
専務!
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