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9.さよなら愛おしい人
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「難しくはない。龍崎組から去れよ。役員を辞任するだけでいい、簡単だろ? ホームページのトップに表示させればお前の女を解放する。俺は気が短いから待っても三十分だ」
それだけ言って、清水はピッと電話を切った。
「さあて、あとはホームページを見るだけだ。楽しみだねぇ」
「それが、いったいなにになるんですか?」
「なにって、俺の気が済むんだよ。だってさ、聞いてよー小恋ちゃん。俺さ常務降ろされちゃったんだよ。あの男のせいでさ」
「なんですかそれ、専務は関係ないじゃないですか、他の会社なのに」
「俺とさ、国交省の官僚の娘の縁談があったの。あの男それを潰したんだぜ? 酷くない? 父は怒っちゃうし」
清水の話によれば、龍崎専務の店で女の子と遊んでいたのをバラされたとか。さもただ遊んでいただけのように言うが、八雲さんが言っていた薬云々の話だろう。
「自分が悪いんじゃないですか。それに専務がしたっていう証拠でもあるんですか?」
「だってそれを知っているのは『Rz』の関係者と一緒に遊んだ女の子だけだもん。女の子は言うわけないんだよ、自分もタイーホされちゃうからさ。となると龍崎じゃん。まぁぶっちゃけ誰でもいいんだよ。とにかくあいつが気に入らないの」
「そんなのただの逆恨みです」
「ふん。あいつヤクザだよ? ムジナと一緒にしないでくれる? 俺はあいつらと違って善良な一般ピーポーだからさ」
それから私は、目隠しのかわりなのか、大きなサングラスのような眼鏡を掛けさせられて、なにも見えなくなり、口を塞がれて手を後ろで縛られた。
そして、どれくらいだったのか。
数字を数えていたけれど、あまり意味がないような気がして五百くらいでやめた。
「小恋ちゃんもあんなやつの秘書になったばっかりにね。恨むならあいつを恨んで。あいつの女、ガードが固くてさ、銀座のクラブのママで櫻子っていう女と、六本木のガールズバーのアカリっていう女。ばっちりボディガードがついていて近寄れないんだよ」
櫻子にアカリ。ずっと気になっていた名前をこんな状況で知らされるとは。
「ま、俺もああいう抜け目ない女より、小恋ちゃんみたいな純情そうなカワイ子ちゃんのほうが好みなんでね」
清水が独り語りをしている間、私は後ろ手に縛られている紐を緩めていた。
『いいか? 縛られそうになったときが、肝心だ。ここに力を入れて』
ゴールデンウイーク中、私は龍崎専務から簡単な護身術を習った。
縄を緩めておいて、ここぞという時までは無言でおとなしくする。色々言い返してしまったけれど、あのくらいは言わなきゃ気持ちが治まらない。
『なにがあっても俺が必ず助けに行く。その瞬間までおとなしく待つんだ。いいな?』
専務は絶対に来てくれる。大丈夫、必ず助けてくれるから。
気持ちを落ち着けるように、ゆっくりと息を吐く。そのときに備えて。
やがて車が止まり、両腕を掴まれたままどこかに降ろされた。
とその時、キキキッと車のブレーキ音。
今だ! ここぞというときが来た!
私は咄嗟に手首の縄を抜いて、サングラスを外し、彼に言われていた通り、私を掴む男の股間を思い切り蹴り上げた。
男がうめいてうずくまる。
「小恋!」
「専務っ!」
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。なんともない」
八雲さんと、もと昇竜会の社員が、清水と男たちをぐるりと取り囲むなか、サイレンの音がたくさん近づいてくる。
パトカーがくるのだ。
「け、警察? うそだろ? 俺? 俺じゃないよね? お前らなにかしたのか? 俺を巻き込むなよ」
なにを言っているんだろう、この人。
専務に抱きしめられながら、呆れていると、八雲さんが冷ややかに言った。
「バカなのか? 逮捕されるのはお前だよ、清水」
それだけ言って、清水はピッと電話を切った。
「さあて、あとはホームページを見るだけだ。楽しみだねぇ」
「それが、いったいなにになるんですか?」
「なにって、俺の気が済むんだよ。だってさ、聞いてよー小恋ちゃん。俺さ常務降ろされちゃったんだよ。あの男のせいでさ」
「なんですかそれ、専務は関係ないじゃないですか、他の会社なのに」
「俺とさ、国交省の官僚の娘の縁談があったの。あの男それを潰したんだぜ? 酷くない? 父は怒っちゃうし」
清水の話によれば、龍崎専務の店で女の子と遊んでいたのをバラされたとか。さもただ遊んでいただけのように言うが、八雲さんが言っていた薬云々の話だろう。
「自分が悪いんじゃないですか。それに専務がしたっていう証拠でもあるんですか?」
「だってそれを知っているのは『Rz』の関係者と一緒に遊んだ女の子だけだもん。女の子は言うわけないんだよ、自分もタイーホされちゃうからさ。となると龍崎じゃん。まぁぶっちゃけ誰でもいいんだよ。とにかくあいつが気に入らないの」
「そんなのただの逆恨みです」
「ふん。あいつヤクザだよ? ムジナと一緒にしないでくれる? 俺はあいつらと違って善良な一般ピーポーだからさ」
それから私は、目隠しのかわりなのか、大きなサングラスのような眼鏡を掛けさせられて、なにも見えなくなり、口を塞がれて手を後ろで縛られた。
そして、どれくらいだったのか。
数字を数えていたけれど、あまり意味がないような気がして五百くらいでやめた。
「小恋ちゃんもあんなやつの秘書になったばっかりにね。恨むならあいつを恨んで。あいつの女、ガードが固くてさ、銀座のクラブのママで櫻子っていう女と、六本木のガールズバーのアカリっていう女。ばっちりボディガードがついていて近寄れないんだよ」
櫻子にアカリ。ずっと気になっていた名前をこんな状況で知らされるとは。
「ま、俺もああいう抜け目ない女より、小恋ちゃんみたいな純情そうなカワイ子ちゃんのほうが好みなんでね」
清水が独り語りをしている間、私は後ろ手に縛られている紐を緩めていた。
『いいか? 縛られそうになったときが、肝心だ。ここに力を入れて』
ゴールデンウイーク中、私は龍崎専務から簡単な護身術を習った。
縄を緩めておいて、ここぞという時までは無言でおとなしくする。色々言い返してしまったけれど、あのくらいは言わなきゃ気持ちが治まらない。
『なにがあっても俺が必ず助けに行く。その瞬間までおとなしく待つんだ。いいな?』
専務は絶対に来てくれる。大丈夫、必ず助けてくれるから。
気持ちを落ち着けるように、ゆっくりと息を吐く。そのときに備えて。
やがて車が止まり、両腕を掴まれたままどこかに降ろされた。
とその時、キキキッと車のブレーキ音。
今だ! ここぞというときが来た!
私は咄嗟に手首の縄を抜いて、サングラスを外し、彼に言われていた通り、私を掴む男の股間を思い切り蹴り上げた。
男がうめいてうずくまる。
「小恋!」
「専務っ!」
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。なんともない」
八雲さんと、もと昇竜会の社員が、清水と男たちをぐるりと取り囲むなか、サイレンの音がたくさん近づいてくる。
パトカーがくるのだ。
「け、警察? うそだろ? 俺? 俺じゃないよね? お前らなにかしたのか? 俺を巻き込むなよ」
なにを言っているんだろう、この人。
専務に抱きしめられながら、呆れていると、八雲さんが冷ややかに言った。
「バカなのか? 逮捕されるのはお前だよ、清水」
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