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9.さよなら愛おしい人
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八雲はうーんと考え込む。
「誰かに似ているんだよなぁ。専務が行ったとき、いなかったっすか?」
俺が行ったのは二週間前とそのさらに二週間前。一応その程度の顔出しはしているが、たぶん会ってはいないし話も聞いてはいない。
社員でなければ会わなくても不思議はないし。
「会ってないな。ミアって名前なら記憶に残ったはずだ。うちの猫の名前だしな」
「あ、そっか、ミアちゃんでしたね」
ミアという名前にホクロ。そのふたつで思い浮かべるのは小恋だが、小恋が短期で働く理由がまったく思いつかない。偶然の一致だろう。
「そういや『Kr』行ってないなぁ。お前行ったか?」
『Kr』は新宿のホストクラブだ。
「俺はしばらく行ってないですけど、そういやなにかやらかしたんでしたっけ、あそこのホスト」
「ああ、高司を恐喝しようとしやがった。ミツルに、次は店潰すぞ言っておいたが」
ミツルは店長だ。店員のホストが俺の友人の高司を脅迫しようとした。この界隈では働けないようにしたが、よくも次から次へと問題が起きるもんだ。
「面倒くせぇな。ったく、体がいくつあっても足りねぇ」
「みんな集めます?」
「ん?」
「リモートで。日曜の午前中なら、みんな空いてるでしょ」
「そうだな。リモートなら資料がすぐ出せるだろ。ここ三カ月の従業員の出入りは前もって提出。金のチェックは八雲、頼むな」
「了解っす」
早速その週の日曜、十時にリモート会議が始まった。
銀座のクラブのママ櫻子。六本木のガールズバーのアカリ。新宿のホストクラブの店長ミツル、その他、キャバクラ、スナック、キャバレーなど水商売店長総勢十人と東雲、八雲、俺。
普通ならこの時間はまだ寝ているやつも多いだろう。
野郎共は髪もボサボサだし、櫻子とアカリはすっぴんだし、どいつもこいつも毒気を抜かれた顔で画面を見つめている。
「朝から悪いな。短く済ますぞ。先にもらった資料から問題点を先に言う」
八雲から経理に関する注意、東雲から今後起きそうな問題点の指摘を先に言ってもらって俺からは苦情。
「いい加減、お前らも独り立ちしろよ。自分らでできるだろ?」
案の定全員が視線を外す。
「ったく、しょーがねぇな。普通喜ぶだろ? 自分だけの店になるんだぞ?」
相変わらず誰からも返事がないし、視線は泳がせたままだ。
うまくいかない時を考えると、積極的になれないというのもあるのだろう。
ふざけた仕事ぶりなら突き放せるが、皆従業員からの評判もいいし根が真面目なだけに突き放せない。
「じゃあ次。ひとりずつ聞くぞ、なにかあれば言ってくれ」
自由意見になると、なかなか一堂に会する機会がなかったせいか話は有意義に進んだ。どこぞの議員の嫁がホストに狂ってるだの、とある社長は最近財布の紐が固くなってきただの、最近オープンした店のケツモチが××組らしいだの。
一見どうでもよさそうな話だが、裏を返せばどれもこれも重要な噂話だ。
「そういやアカリ、ミアっていう短期の店員がいただろ。履歴書を見せてくれ」
「はい」
アカリが席を外している間に、ミアという名前にミツルが反応した。
「ミアって女がどうかしましたか」
「ん? なにかあるのか?」
「先週そういう名前の客が来て。ふたり組でしたけど、一晩で五十万落としていったんで」
アカリが戻ってきた。
「見えますか?」
カメラに履歴書を近づける。
「写真アップにしてくれ」
「あ、この女ですよ。髪型は違うけど、間違いないっすね」
「ちょっと待って」と割り込んできたのは櫻子だ。
「どうした」
「ひと月の約束で、今うちの店にいます」
この女……。
「誰かに似ているんだよなぁ。専務が行ったとき、いなかったっすか?」
俺が行ったのは二週間前とそのさらに二週間前。一応その程度の顔出しはしているが、たぶん会ってはいないし話も聞いてはいない。
社員でなければ会わなくても不思議はないし。
「会ってないな。ミアって名前なら記憶に残ったはずだ。うちの猫の名前だしな」
「あ、そっか、ミアちゃんでしたね」
ミアという名前にホクロ。そのふたつで思い浮かべるのは小恋だが、小恋が短期で働く理由がまったく思いつかない。偶然の一致だろう。
「そういや『Kr』行ってないなぁ。お前行ったか?」
『Kr』は新宿のホストクラブだ。
「俺はしばらく行ってないですけど、そういやなにかやらかしたんでしたっけ、あそこのホスト」
「ああ、高司を恐喝しようとしやがった。ミツルに、次は店潰すぞ言っておいたが」
ミツルは店長だ。店員のホストが俺の友人の高司を脅迫しようとした。この界隈では働けないようにしたが、よくも次から次へと問題が起きるもんだ。
「面倒くせぇな。ったく、体がいくつあっても足りねぇ」
「みんな集めます?」
「ん?」
「リモートで。日曜の午前中なら、みんな空いてるでしょ」
「そうだな。リモートなら資料がすぐ出せるだろ。ここ三カ月の従業員の出入りは前もって提出。金のチェックは八雲、頼むな」
「了解っす」
早速その週の日曜、十時にリモート会議が始まった。
銀座のクラブのママ櫻子。六本木のガールズバーのアカリ。新宿のホストクラブの店長ミツル、その他、キャバクラ、スナック、キャバレーなど水商売店長総勢十人と東雲、八雲、俺。
普通ならこの時間はまだ寝ているやつも多いだろう。
野郎共は髪もボサボサだし、櫻子とアカリはすっぴんだし、どいつもこいつも毒気を抜かれた顔で画面を見つめている。
「朝から悪いな。短く済ますぞ。先にもらった資料から問題点を先に言う」
八雲から経理に関する注意、東雲から今後起きそうな問題点の指摘を先に言ってもらって俺からは苦情。
「いい加減、お前らも独り立ちしろよ。自分らでできるだろ?」
案の定全員が視線を外す。
「ったく、しょーがねぇな。普通喜ぶだろ? 自分だけの店になるんだぞ?」
相変わらず誰からも返事がないし、視線は泳がせたままだ。
うまくいかない時を考えると、積極的になれないというのもあるのだろう。
ふざけた仕事ぶりなら突き放せるが、皆従業員からの評判もいいし根が真面目なだけに突き放せない。
「じゃあ次。ひとりずつ聞くぞ、なにかあれば言ってくれ」
自由意見になると、なかなか一堂に会する機会がなかったせいか話は有意義に進んだ。どこぞの議員の嫁がホストに狂ってるだの、とある社長は最近財布の紐が固くなってきただの、最近オープンした店のケツモチが××組らしいだの。
一見どうでもよさそうな話だが、裏を返せばどれもこれも重要な噂話だ。
「そういやアカリ、ミアっていう短期の店員がいただろ。履歴書を見せてくれ」
「はい」
アカリが席を外している間に、ミアという名前にミツルが反応した。
「ミアって女がどうかしましたか」
「ん? なにかあるのか?」
「先週そういう名前の客が来て。ふたり組でしたけど、一晩で五十万落としていったんで」
アカリが戻ってきた。
「見えますか?」
カメラに履歴書を近づける。
「写真アップにしてくれ」
「あ、この女ですよ。髪型は違うけど、間違いないっすね」
「ちょっと待って」と割り込んできたのは櫻子だ。
「どうした」
「ひと月の約束で、今うちの店にいます」
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