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六、短くも長い、二週間
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仕事関連のパーティーは結婚前と変わらず加々美に同行を頼むことが多い。着飾った美咲と行きたいのは山々だが、今回ばかりはそう言ってもいられない。
「そういえば、絵梨花さんと美咲さんは、どことなく顔立ちが似ていませんか?」
男性秘書がそう言うと「ああ、私もそう思っていました」と、加々美が頷いた。
「ええ? 全然違うだろ?」
「雰囲気はまったく違いますが、何というか……」
その先を加々美が引き受けた。
「絵梨花さんが化粧を落として美咲さんと並ぶと、多分似ていると思います。絵梨花さんの目元は目尻が下がっていてアンニュイな感じがしますが、美咲さんは溌剌として明るい目元をしている。そこが大きく違いますけどね。それ以外は似てますよ。横顔なんか特に」
「ふーん……」
あまりにも性格が違うせいか、考えたこともなかった。
絵梨花のすっぴんは記憶にない。結婚前していた当初、彼女とは同行するパーティー以外、ほとんど顔を合わせなかった。化粧を落とした絵梨花は想像できないが、二人がそういうのだから似ているのかもしれない。
絵梨花はどちらかと言うと父親似だ。丹下大臣はイケオジだと若い女性にも人気がある。清廉潔白とは言い切れないが、際立って黒い情報があるわけではない。代々政治家一族だけに力もあり、好感度の高い人物だ。妻は旧財閥系の資産家令嬢で、絵に描いたような上流階級の家であり、愛人の噂は聞かないが――
ふと、美咲の母が残した写真を思い出した。
優しそうな男。結婚は考えられない男……
(いや、まさかな)
そして数日後、美咲の誕生日を迎えた。
「今日はどこかでディナーと思っていたのに、すまないな」
会社からそのまま丹下大臣のパーティーに行く。恐らく帰りは深夜。飛行機は早朝のフライトなので、そのまま空港のホテルに泊まる。
だから、美咲とはここでお別れだ。
「いいんですよ。誕生日が楽しみな子どもじゃありませんから」
笑う美咲に花束を渡す。
「うわー、綺麗」
せめて自分で選びたいと、昨日出先からの帰り道に花屋に寄って買っておいた。明るい彼女のイメージで選んだピンクを基調とした花束だ。
「ニューヨークから帰ったら、ちゃんと祝おう。プレゼントはその時に」
「ありがとうございます」
この笑顔のまま小さくして、ポケットにでもしまえたらいいのに。心からそんな魔法がないかと考えて切なくなる。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい。気をつけて」
帰ったら二人の関係を変えよう。それまで、どうか元気でつつがなく。
そう思いながら、隼人は美咲の額にそっとキスをした。
「そういえば、絵梨花さんと美咲さんは、どことなく顔立ちが似ていませんか?」
男性秘書がそう言うと「ああ、私もそう思っていました」と、加々美が頷いた。
「ええ? 全然違うだろ?」
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その先を加々美が引き受けた。
「絵梨花さんが化粧を落として美咲さんと並ぶと、多分似ていると思います。絵梨花さんの目元は目尻が下がっていてアンニュイな感じがしますが、美咲さんは溌剌として明るい目元をしている。そこが大きく違いますけどね。それ以外は似てますよ。横顔なんか特に」
「ふーん……」
あまりにも性格が違うせいか、考えたこともなかった。
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ふと、美咲の母が残した写真を思い出した。
優しそうな男。結婚は考えられない男……
(いや、まさかな)
そして数日後、美咲の誕生日を迎えた。
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会社からそのまま丹下大臣のパーティーに行く。恐らく帰りは深夜。飛行機は早朝のフライトなので、そのまま空港のホテルに泊まる。
だから、美咲とはここでお別れだ。
「いいんですよ。誕生日が楽しみな子どもじゃありませんから」
笑う美咲に花束を渡す。
「うわー、綺麗」
せめて自分で選びたいと、昨日出先からの帰り道に花屋に寄って買っておいた。明るい彼女のイメージで選んだピンクを基調とした花束だ。
「ニューヨークから帰ったら、ちゃんと祝おう。プレゼントはその時に」
「ありがとうございます」
この笑顔のまま小さくして、ポケットにでもしまえたらいいのに。心からそんな魔法がないかと考えて切なくなる。
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい。気をつけて」
帰ったら二人の関係を変えよう。それまで、どうか元気でつつがなく。
そう思いながら、隼人は美咲の額にそっとキスをした。
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