祓い姫 ~祓い姫とさやけし君~

白亜凛

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≪ 麗景殿 ≫

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「どうですか? まだくらくらします?」

「ううん、大丈夫だと思う」

 今度は失敗しないようにゆっくりと立ち上がった。朱依も手を伸ばし、背中に手を添えてくれた。

 抱き上げられた話には触れないのは朱依の優しさなのか。今言われたら絶対に動揺してしまう。もしかしたら気が動転してまた袴を踏み外したかもしれないが、そうはならなかった。。

 朱依はまだしも皆に見られている。おかしな目で見られたりしないかという翠子の不安をよそに、誰もがそれぞれに忙しそうだ。翠子に構ってなどいられないのだろう。振り向きもしない。

 幸い煌仁にも会わず、廂に出ると篁が待っていた。

「具合はもういいのですか?」

「はい」

「ではゆっくり行きましょう」

 篁に先導されながら翠子と朱依は麗景殿を出た。

 少し前を歩く篁は歩調を緩め、時々翠子たちが付いてきているのを確認するように振り返りながら先を行く。その後ろを付いていきながら、翠子は朱依に事の成り行きを話して聞かせた。

「匙だけが木でね。気になって触ってみたら案の定……」

 説明しているうちに、浮つく心が落ち着いてくる。

 抱き上げられたくらいで動揺している場合ではないのだ。二の皇子の匙から毒が出たという恐ろしい事態になっているのだから。

「そうでしたか。匙に。なんとむごいことを」

「女御さまはずっと泣いていらしたの。毒だとわかったら倒れられてしまって」

 麗景殿の女御は、とても優しそうで驚くほど美しい女性だった。憔悴しきっていたせいで今にも消えそうなほど儚げであったが、大丈夫なのだろうかと心配になる。

「ここには立派な医師や薬師がいるのですもの、心配ないですよ」

「そうよね」

「ええ、きっと大丈夫ですよ。あとは犯人さえわかれば」

「そうね。本当に小さなかわいらしい皇子さまなの。それなのに……」

「酷いですね。犯人は人の形をした鬼です」

 まさにそうだ。鬼に違いない。体は人でも心は鬼だろう。

「それで、その場に物の怪はいなかったのですか?」

「ん? えっと、唯泉さまはきょろきょろ見回していらしたけれど、なにも言ってなかったから、物の怪はいなかったんじゃないかしら」

「そうですか。とにかくお疲れさまでしたね、姫さま。戻ったらお昼寝しましょ」

 朱依に寄り添われながら歩いた。

 まだ日は高いし局を出てからそれほど時間は経っていないのに。驚いて悲しんで胸がときめいて。こんな日はもう二度とないだろう。

 これが宮中なのねと、翠子はため息をつく。
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