44 / 124
◆.アレキサンドライトの指輪
9
しおりを挟むやれやれとため息をつくと、スマートフォンが揺れた。
弥衣からのメッセージだ。
【弟が会社に行ったそうで、大変申し訳ございませんでした。
二度とこのようなことがないよう、よく言っておきます。】
なるほど弟から連絡がいったのか。
【お金のこと黙っていてくださって、ありがとうございました。
尊さま、心より感謝いたします。】
かしこまった文章に思わず笑いが込み上げる。
嘘つけ。書くだけ書いて、ムッとしているんだろ。憮然として眉をひそめる弥衣の顔が浮かぶようだ。
まったく、なにが尊さまだ。
さて――。
次の関門は弥衣を祖母に会わせて、指輪を見せること。
最近祖母はめっきり弱くなり、入院した。
主治医の話によればどこも悪いところはないという。
年齢的なものはあるとしても、本人が何かを思い悩んでいて生きる気力を失っているようにみえるというのだ。
ある時祖母は、よく眠れないのだと言った。
『月城の指輪が夢に出てくるんですよ。そのせいか、よく眠れなくてね』
『指輪?』
その時俺は初めて指輪の話を聞いた。
月城家には代々伝わる指輪があるという。
『お前を産んだあの人が持っているんだろう。返してもらわなくちゃいけなかったのに、それきりになってしまって』
それがどうしても心残りなのだと祖母は呟いて、力なく肩を落としたのである。
そして、古い先祖の写真と、若かりし祖母の写真を見せてくれた。
祖母も曾祖母も、確かに同じ指輪をしている。聞けば当主の妻に引き継がれていく守り神のような指輪なのだという。
いずれは俺の妻がその指輪をしなければいけないのだと、祖母は切々と訴えた。
あまりに小さくて細かいデザインがわからない上に、石の色が写真によって違って見えた。ある時は赤っぽく、ある時は深い緑。
『アレキサンドライトの指輪。尊、探しておくれ。月城を守ってくれる大切な指輪なの』
誇り高く気丈な祖母が俺の両手をとって、初めて俺に頭を下げたのだった。
佐藤家は没落したとはいえ、弥衣には祖母が反対するほどの欠点もない。弥衣の実母の写真はあるから問題ない。
あの指輪をした弥衣を妻として紹介すれば、祖母は安心するだろう。
弥衣との結婚は、ある意味一石二鳥なのだ。
34
あなたにおすすめの小説
一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
椿蛍
恋愛
念願のデザイナーとして働き始めた私に、『家のためにお見合いしろ』と言い出した父と継母。
断りたかったけれど、病弱な妹を守るため、好きでもない相手と結婚することになってしまった……。
夢だったデザイナーの仕事を諦められない私――そんな私の前に現れたのは、有名な美女モデル、【リセ】だった。
パリで出会ったその美人モデル。
女性だと思っていたら――まさかの男!?
酔った勢いで一夜を共にしてしまう……。
けれど、彼の本当の姿はモデルではなく――
(モデル)御曹司×駆け出しデザイナー
【サクセスシンデレラストーリー!】
清中琉永(きよなかるな)新人デザイナー
麻王理世(あさおりせ)麻王グループ御曹司(モデル)
初出2021.11.26
改稿2023.10
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
美しき造船王は愛の海に彼女を誘う
花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長
『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。
ノースサイド出身のセレブリティ
×
☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員
名取フラワーズの社員だが、理由があって
伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。
恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が
花屋の女性の夢を応援し始めた。
最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。
It from Bit(世界は情報にすぎない)~断罪された私だけが世界の真実に気づいてしまったので、とりあえず王家を破産させてみます~
aozora
恋愛
公爵令嬢エレオノーラは、その言動が「非論理的で狂っている」として、婚約者のアラリック皇太子から大衆の面前で断罪され、全てを失う。幽閉された彼女は、この世界が不完全な神格級LLMによって生成された「バグだらけの現実」であると覚醒。地球と最先端SFで得た知識――情報理論、金融工学、ハッキング技術――こそが、この世界を書き換える唯一の力「魔法」だと気づく。彼女の復讐は、剣でも魔法でもない。情報操作による経済崩壊と、世界の根幹を揺るがすデバッグ。孤独な彼女の前に現れたのは、その「狂気」を唯一理解する異端の天才魔術師だった。
2月31日 ~少しずれている世界~
希花 紀歩
恋愛
プロポーズ予定日に彼氏と親友に裏切られた・・・はずだった
4年に一度やってくる2月29日の誕生日。
日付が変わる瞬間大好きな王子様系彼氏にプロポーズされるはずだった私。
でも彼に告げられたのは結婚の申し込みではなく、別れの言葉だった。
私の親友と結婚するという彼を泊まっていた高級ホテルに置いて自宅に帰り、お酒を浴びるように飲んだ最悪の誕生日。
翌朝。仕事に行こうと目を覚ました私の隣に寝ていたのは別れたはずの彼氏だった。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる