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◆嘘でも真実でも * 弥衣
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しおりを挟むさほど遠くもないのでマンションにはすぐに到着した。
このマンションには二十四時間コンシェルジュがいてくれる。にこやかに出迎えてくれるコンシェルジュの目には、仲の良い夫婦として映っているのかもしれない。
エレベーターに乗り、部屋に着くと彼が、「久しぶりに一緒に飲むか?」と言った。
思いがけない提案に驚いて見上げると、ちらりと見下ろす彼の瞳は、なんだか沈んでいるように見えた。
「はい。じゃあ、シャワーを浴びてきてください。私おつまみ用意しますね」
薄く口元に笑みを浮かべた彼は、自分の部屋に入っていく。
育ちのいい彼だもの、人を殴った経験なんてないだろう。
それを言ったら優介さんだって殴られるなんて初めてだったはず。
でもは私に言わせれば殴られて当然だ。
尊さんがいなければ、最後は私が殴っていたかもしれない。殴られなかっただけ感謝して欲しい。
嘘までついて、不倫を誘ってくるなんて。
悲しいし、悔しいし……、残念だ。
気持ちを切り替えて、急いで着替えてエプロンをつける。
せっかく尊さんが誘ってくれたのだから、時間はなくても頑張りたい。
冷蔵庫から取り出した生ハム、カッテージチーズ、クリームチーズ、オリーブのピクルス。冷凍庫からフランスパンと明太子。どんな時でも大活躍のプチトマトにブロッコリー。
人参と紫キャベツはそれぞれバルサミコ酢とエキストラバージンオリーブオイルとハーブ塩でラぺにする。
クリームチーズと明太子を混ぜたパテ、カッテージチーズに合わせるのは生ハム。
ゆで卵もあったことを思い出し、ふたつに切って黄身とマヨネーズと解凍して細かく切ったむきエビを混ぜこんで白身に戻す。
フランスパンを軽く焼いて、カッティングボードに乗せればおつまきの完成だ。
盛り付けはさっきのスペインバルを早速参考にした。ほとんど口にしていない悔しさを晴らすように、おしゃれに盛りつける。
明日は土曜でお休みだからのんびりできるはず。リビングでいいよね?と自問自答して、リビングのテーブルの中央にテーブルランナーを敷いておつまみの乗った小鉢とカッティングボードを置く。
準備が整ったころ、尊さんはバスルームから出てきた。
フッと目元が和らいだところを見ると、並んだ料理を気に入ってくれたのかもしれない。
彼はいつもの長いソファーに腰を沈め、私は角を挟んで斜向かいに座った。
正面じゃ、彼と向き合う自信がないから。
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