お針子の魔法使いと悪魔の弟子

蛾脳シンコ

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第37話『ガマの生皮を求めて』

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 エラフィンから三つの課題を与えられたレンリエッタは火球魔法の習得に難儀しながらも、それと並行するようにもう一つの課題である魔術装具の作成に着手しようとしていた。最近では暇を持て余す事も多かったが、今では大忙しである。
 レンリエッタは広間で魔術装具の本をペラペラと捲り、糸魔法を使用しない初心者向けのレシピを探していた。(エラフィンが外出中なので少しばかりサボりがちだ)
 だが…やはりと言うべきか、どれも突き抜けた効果を持たないものばかりなので迷いがち。それにしても耳が長くなるピアスなんて誰が必要とするのだろうか?
 脱臭靴下なんかは魅力的だったが、制作期間の3年という字を見ればやる気すらも起きない始末…

「はぁ~……うーん、どれにしようかなぁ…」
「おや、お嬢様…装具の作成を始めるのですね。」
「うん、でもなんだかどれもパッとしなくて…どうせ作るなら役に立つような物だと良いんだけど…」
「地味な効果でも装具は装具ですよ。世の中には識字眼鏡のおかげで働ける人も居るのですから。」
「そうだよね…ええい!こうなったら運に任せよう!」
「ふぅむ……お嬢様は運頼みが多すぎる気がしますね…」

 しかし課題を与えられている身としては選り好みなど贅沢の極みである。
 このままでは迷宮入りしてしまうので、レンリエッタは初心者向けページをパラパラと捲り、適当に決めることにした。
 目を瞑り、パララララッとページを捲るレンリエッタはやがてピシッと、あるページで手を止めた。恐る恐る目を開けてみると…選ばれたのはケープのレシピであった。もちろんただのケープではない…

「えーっと…ガマのケープ?」
「防水仕様の衣類でございますね。とても有益なものでございますよ。」

 開かれたページに載っているのは『ガマのケープ』という衣類のレシピ。巨大蛙の生皮をなめして作るもので、初心者向けながらも強力な撥水効果を持つ肩掛けらしい。
 レンリエッタはもう一度ランダムにページを開こうと考えたが……グリスに見られていてはそのような勇気も湧かず、人生初の魔術装具をこのケープに決めた。

「あったら便利そうだし……うん、これにするよ。ガマのケープ…なんだか名前も可愛いし。」
「でしたら雑用はお嬢様の優れる執事、このグリスにお任せくださいませ!」
「ううん、気持ちは嬉しいけど私ひとりでやってみるよ。ありがとね、グリス。」
「あぁなんと立派な…エラフィン様とはまるで………いえ、やめておきましょうか…ともかく、もしも御用がございましたらいつでもお呼びくださいませ。私めはいつでも待っておりますよ。」
「私の事はそんなに気にしなくても良いよ、先生だって居ないしグリスも忙しいでしょ。」
「ですが私めはお嬢様優先ですのでお忘れなく。」

 グリスの手伝いを断り、レンリエッタは一人でケープの作成を始める事にした。
 材料も大して珍しそうなものは見当たらず、強いて言えば『大型両生類の皮』程度だろう。その生皮も地下倉庫の皮膚コレクションにあったはずだ。
 早速レンリエッタは慣れたように地下倉庫へと向かった。相変わらず薄暗く寒いが、何度も入っているのでもはや慣れっこである。

「皮膚コレクション…確か先生は倉庫の中の物は自由に使って良いって言ってたし、ちょっとくらい拝借しても良いよね!」

 レンリエッタは以前にエラフィンから倉庫内の物資は自由に使って良いと許可を貰っていたので、遠慮なく使わせてもらう事にした。エラフィンは意外と収集家気質なので役に立ちそうな物はごまんとある。(もちろんそうでないものも多いが…)
 だが目的のコレクション以外に目を向ける事は無く、レンリエッタは真っ直ぐと薄汚いタンスの前まで向かった。とても年季の感じられる、ぼろっちいタンスだ…大きいが引き出しはひとつしか無く、取っ手はドアノブのように丸く、その上部には『頭蓋骨』と刻まれた金属製のタグがくっ付いている。

「これの使い方なら前に教えてもらったから大丈夫…」

 レンリエッタは前に教えられた手順を思い出しつつ、取っ手を握った。そしてノブを引くのではなく、捻ってみると、ガチャンッと音を出しながら上部のタグに刻まれた文字が『塩漬け』に変わった…
 これは『記憶の箪笥メモリーウィンド』というもので、内部に亜空間で形成された複数の収納を持ち、ノブを捻る事で収納を切り替えることが出来るのだ。これは大変な貴重なものだが、エラフィンは単に珍品コレクションの収納として利用している。

「えーっと……あった!皮膚コレクション!」

 もう三度ノブを捻ると上部のタグが『皮膚』に変わったので、レンリエッタは一旦手を止め、今度は捻るのではなく後ろへ下がりながら引いた。
 するとスーッと引き出しが伸びるように開かれて行く…明らかにタンスの体積以上に伸びて行くので不思議なものである。…そして、その中身はもちろん欲していた皮コレクションの数々…
 魔獣、亜人、飛竜などの本革が綺麗に畳まれた状態で並んでいる。それぞれにタグが付いているので探すのにも苦労はさほど掛からなさそうだ。

「どれどれ…フィギードラゴン、キングオッター、マンウルフ……あれぇ、無いや…」

 しかし、どれほど探し回っても両生類の皮は猫の額すらも見つからなかった。ドラゴンや人狼の皮があるというのに、カエルの生皮すら置いていないとは品揃えの異質さに驚かされるばかりだ……いや、むしろ大して珍しい物でも無いのでエラフィンは集める気にもならないのだろう…
 こうなって来ると、レンリエッタも困った。皮が無ければケープなど作る事は出来ない……こうなったらサタニズム街へ出向いて市場を見て回ろうかと考えていた矢先、レンリエッタの頭にピキンとアイデアが生まれた。

「そうだ!ピンスロック村だ!チーズルさんの店なら置いてあるかも!」

 すっかり忘れていたが、この森の中にはピンスロック村があるのだ。たった一つ、小さな村であるがチーズルの店には素材が沢山置いてあるのでもしかしたらその中に両生類の皮があるかもしれない。
 そうとなれば居てもたっても居られず、レンリエッタはバタンッと勢いよくタンスを閉めると直ぐに上へと戻って行った。慌ただしい様子にグリスは声を掛けようとしたが、レンリエッタは全く持って彼に気付かず、外へ出ようとした瞬間にようやく肩を掴まれて気が付いた。

「お嬢様!一体どちらへ向かわれるのですか!少しは落ち着いてくださいませ!」
「うわぁ!ご、ごめんグリス……ちょっとピンスロック村に用があって…ケープの材料が足りないの。」
「なるほど…そうでしたら安心しましたが、きちんと身支度は整えてくださいね。今日はとても暑いので。」
「分かってるよ…帽子は被って行くよ…」

 レンリエッタは玄関横に置かれた蛇型のコートラックからつば広帽子を手に取り、しっかり被ってからもう一度外へ出ようとした。しかし…

「いけませんお嬢様!今日は日差しが強いので何か対策を…」
「大丈夫だよ、森の中は木も多いし、そんなに遠くないから。」
「いいえ、その綺麗な肌を守るためにはきちんと日焼け止めを塗らなくてはなりません!」

 というわけで、もう一度足を止められたレンリエッタは仕方なくCWPの日焼け止めクリームを受け取ると、腕や顔にベタベタと塗りたくった。この日焼け止め、効果は確かなのだが匂いが強く、あまり好きではない…
 そんなこんなで身支度を整えたレンリエッタはさらにもう一度外へ出ようとしたが……何か言われるのは嫌なので、振り返って聞いてみた。

「……もう無いよね?」
「ええ。どうかお気を付けて。」
「そう……じゃあ行って来ます!……おわッ!?なにこの日差し…あっつぅ…」

 ようやく家から出たレンリエッタはシャキンと降り注ぐ鋭い日差しに思わず足を止めた。真っ青の空に浮かぶ輝く太陽が真夏のような陽光で照り付けている…
 今日ばかりはグリスの言う通りにしておいて良かったと思いつつ、レンリエッタは足を再び動かし、ピンスロック村へと向かった。道中は木陰が多かったがジメジメとしていて気持ちの悪い暑さが全身を包み込んだ…


 ピンスロック村は前回来たときと同じく、とても静かであった。ただ日差しが強いせいか外に人影は見当たらず、放牧されている奇妙な家畜たちも木陰に集まり、涼んでいるのが見えた。
 レンリエッタは静かな村の中をザクザクと歩き、チーズルの経営する『イストマリオン亭』へと向かった。ここは薬種問屋だが、品揃えは大変良いのだ。

「こんにちは~……誰も居ないや…」

 ドアを開けばチリリンッと鈴は鳴ったが、迎えてくれる者は誰一人として居なかった。広々とした店内は涼しく、壁に備え付けられた上まで伸びる引き出しは圧巻だ…しかし、カウンターは空っぽで、人の気配を感じられなかった。
 留守ならばせめて鍵を掛けて行くはずなので、レンリエッタが妙に怪しんでいると…

「何処に行ったんだろう…奥の方かな……」

 ガバッ!

「うわぁ!?あれ、チーズルさん?」
「いらっしゃい…待たせて悪いね……って、レンリエッタじゃないか。」

 突如としてカウンター前の床の一部がガバッと開き、下からチーズルが現れた。レンリエッタは急な出来事にギョッとしたが、彼女は構わず床下から這い出ると、開かれた床をピッタリ元に戻した。
 埃を被っているので、下の方は随分と掃除されていないようだ…

「久しぶりだねぇ!元気そうで良かったよ!」
「は、ははは……あの、何してたんですか?」
「え?ああ、ちょいと地下棚の掃除をしてたのさ…けど長らく怠けてたせいでダストミンクが巨大な巣を作っててね、撤去するのにえらく時間が掛かっちまったよ。」

 チーズルは埃まみれのエプロンをパッパッと叩いて汚れを落とし、カウンターへ向かうと帳簿を取り出した。

「さてと…探し物は何だい?此処に来たって事は欲しい物があるんだろう?」
「そうだったそうだった…生皮の類って置いてありますか?」
「生皮かい?そりゃもちろん色々あるさ。何の皮をお探しなんだい。」
「両生類です。巨大な両生類の皮。」
「ほほう、良いチョイスだね。えーっと…そうだ、たしか上の引き出しにあったはずだ。見てみよう。」
「え!あるんですか!」

 どうやら在庫があるらしく、それを聞いたレンリエッタは大いに歓喜した。
 チーズルはカウンターの裏側から木製の古びた小さな踏み台を手に取ると、壁の引き出しの前へ向かった。上の引き出しにあると言っていたが、その引き出しは果てしなく上まで続いているので、そんな小さな台では明らかに役不足にしか見えないのだが…

「ちょっと後ろに下がってておくれ……よいしょっと…グロウア!」
「うわぁ!の、伸びた…!」

 チーズルが踏み台へ乗り込み、【グロウア】の呪文を唱えると、途端に踏み台の足がグーン!と凄まじい勢いで伸び始め、あっという間に彼女は十数メートル上まで上がってしまった。
 レンリエッタが呆気に取られて眺めている間にもチーズルは引き出しを開け、中身を確認し始めた。だが…

「ありゃ!困ったねぇ…」
「ど、どうかしたんですか?」
「いやぁ……無いんだ、品切れだよ…」
「えぇー!?」

 なんとよりにもよって巨大両生類の皮は品切れだと言うではないか。レンリエッタはがっくりと落ち込み、チーズルは踏み台の足を縮ませて床へ降り立った。
 しかし、どれだけ悲しんでも無いものは無い…

「悪いねぇ…なんせ最後に在庫を確認したのは5年前なんだよ…まさか品切れだったとはねぇ…」
「そんなぁ…じゃあ、仕入れとか出来ませんか?」
「悪いけどウチは結構特殊なルートで仕入れててね…今から注文しても来るのは早くても半年後だよ。」
「は、半年後!?そうなんですね……じゃあ…諦めます…」
「力になってやりたいんだけど…生憎私の人脈じゃどうにもならないねぇ…」

 仕入れに半年も掛かるとは一体どんなルートで仕入れているのか逆に気になってくるが、レンリエッタは仕方なく皮を諦めて帰る他なかった。
 結局、ケープは諦めるしかないようだ…レンリエッタは店を後にするとトボトボと落ち込んだ足取りで邸宅へと戻って行った…心なしか、太陽が嘲笑うように照り付けているかのようにも思えた…



「はぁ……ただいまぁ…」
「おかえりレンリエッタ、お出かけとは随分とお気楽じゃないか。」
「あれ!?先生、帰ってたんだ…」

 邸宅へ帰ると、まず出迎えてくれたのはグリスではなくエラフィンであった。いつの間にか帰宅していたらしく、アイスティーのグラスを片手に出掛けていたレンリエッタへ皮肉気味に言ってみせた。

「あの先生、実は…」
「なーんてね、魔術装具の材料を買いに行ってたんだろう?グリスから聞いてるよ。」
「ほっ…良かったぁ……でも、品切れで買えなかったら戻って来たの。」
「だろうね、手ぶらなのを見れば分かるよ。でもあの村でも揃わなかったなんて…一体何を作ろうってんだい?グリスから聞きそびれちまってね。」

 一瞬レンリエッタは怒られるのではないかと考えたが、そんな事は無くエラフィンは全ての事情を把握していた様だ。
 彼女の横へ座り込み、レンリエッタはエラフィンへガマのケープについて話した。話したところでどうにもならない問題だったが、悩みを誰かに話すと言うのは不思議と気分が良くなるものだ。
 一連の話を聞き、エラフィンはグラスを置いて一言…

「ま!諦めるしかないね!違う装具を作ろうじゃないか!」
「うっ…やっぱりそうだよね…諦めて他のを作るしかないよね…」

 やはりこればかりはエラフィンにもどうしようも出来ないらしい。
 諦めて他の装具を作った方が良いと言われ、レンリエッタもそうしようと決心した。

「巨大な両生類の皮なんて季節外れも良いところよ、何か他のを作ってみると良いよ。」
「うん、そうするよ。」
「そんじゃ、本の中から良いのを見つけてみな。材料があれば揃えてやるよ。」
「ありがとう先生!えっと…どれにしようかな…」

 というわけでレンリエッタは気分を変えて本を手に取った。エラフィンも今朝に見そびれた新聞をバサッと開き、見始めた。
 いつもいつも新聞ばかり読んでいるが、エラフィンにとってそんなにも面白い物なのだろうか?レンリエッタが疑問に思いながら外側から眺めていると…ある記事を見つけ、叫んだ!

「あ、あぁあ!!先生!先生!!」
「な?!なんだい!?何事だい!?」
「それ!その記事!!」
「え?……水晶玉の大安売り?アンタ、水晶玉が欲しいのかい?」
「違うよ!その横!」

 レンリエッタの急な指示にエラフィンは戸惑いつつも記事に目を移してみた。すると、目に入ったのは『求ム!初級スレイヤー等!』という文字で、モンスタースレイヤーに向けたものだった。

「それ、その記事の討伐対象を見てよ!」
「えーっと…指定大型外来種ウチョロッグ?…ああ!カエルじゃないか!」
「すっごくタイムリー!こんなに都合の良い記事見たこと無いよ!」

 驚くべきはその討伐対象である。
 指定大型外来種と呼ばれるそれは【ウチョロッグ】という大ガエルの化け物で、まさにレンリエッタの探していた大型両生類そのものだったのだ。こんなにも都合の良く依頼が出ているとは驚くべきことだ。
 しかも下部にはご丁寧に『討伐した遺体は差し上げます』とも書かれている。
 エラフィンも思わず驚いた。

「きっとこれは…運命だよ!これを作れっていう運命だよ!」
「う、うーん…占いは好かないがこうも都合が良いとはねぇ…それに初級スレイヤー向けじゃないか。アンタでも出来るよ」
「そう言えばスレイヤーって…アレかぁ……前に遭った…えーっと……アジポンみたいな名前の!」
「ズニョポンだろう?確かにアイツもスレイヤーだったねぇ…」

 モンスタースレイヤーと言えば、レンリエッタは前に一度出会った事がある。凄腕のスレイヤーとして名高い『ズニョポン』である。
 レンリエッタからすれば命の恩人でもあるのだが、彼はエラフィンの首を狙う賞金稼ぎでもあるので敵も同然なのだ。それはさておき、今回の討伐依頼は初級向けなので監督役が居ればレンリエッタのような無資格の子供でも参加は可能らしい。

「でも監督役って誰?」
「そりゃ私に決まってるでしょ。こう見えても豪級スレイヤーの免許は持ってるのよ。」
「……でも期限切れなんでしょ。」
「あっはははは!安心しな!受付の奴ら、期限なんて見ないから!」

 その点も安心…?な事にエラフィンは(期限切れだが)豪級スレイヤーの免許を持っているので監督役としては十二分だ。
 ちなみに豪級というのはスレイヤーのランクである。最低が民級、それから兵級、専級、団級と上がって行き…最終的に豪級となる…つまりエラフィンは最高位のスレイヤーでもあるのだ。
 一応ズニョポンも同じく豪級スレイヤーであるが、二人の差はかなり大きい…

「でもその…ウチョロッグってどんなカエルなの?凄く危なそうだけど…」
「なぁに、ちょっと食欲旺盛で爆発的に増える以外に危険は無いよ。」
「ホントに?まさか人を丸のみにできたりしないよね?」
「大丈夫大丈夫、丸呑みにされても数時間かけて苦痛を味わいながら消化されるだけさ。もっとも、アンタが喰われた時は監督役として直ぐに助けるつもりだけど。」

 エラフィン曰く討伐対象のウチョロッグは食欲が旺盛で爆発的な繁殖力を持ち、人や家畜を丸のみにする程度なのでそれほど危険ではないとのこと。万が一にでも食べられてしまった時は全力で助けてくれるらしいので頼もしい限りだ。
 もちろんここまで聞けば、行かないなんていう選択肢はなかった。

「それで、カエルをぶっ飛ばしに行くかい?アンタの戦闘能力でも充分役立てると思うけど?」
「もちろん行くよ!ちょっと遠回りになるけど、目的を達成するなら自分の手でやらないと!」
「良い返事だね!そんじゃ、ちょいとばかし準備をしたら早速スレイヤーズギルドへ行こうじゃないか!」
「何か足りない物でもあるの?」
「私の首に賞金が掛かってるのは知ってるだろう?ギルドは賞金稼ぎばかりだからね…顔を隠さないといけないのさ。」

 エラフィンが自室へ向かい、準備を整えている間レンリエッタは新聞の記事をさらに詳しく読んでみた。依頼を出しているのはクランクス王国南部の湿地帯の村の様だ。
 北部は以前に向かったが、南部に関しては存在すら忘れていたので少し楽しみになって来た。
 少しすると新聞を熱心に眺めるレンリエッタへグリスが声を掛けて来た。

「お嬢様、お帰りなさいませ。エラフィン様もお帰りになられましたよ、入れ違いになってしまいましたが。」
「うん、さっき話したから知ってるよ。それで…また出掛けることになったんだけど…」
「またお出かけですか?ふむ……どうやら村では良い収穫を得られなかったようですね…」
「だから直接皮を取って来ることになって…それで…」
「さぁて!レンリエッタ、出掛けるよ!さぁおいで!」
「あわぁあ!ちょ、ちょっと!」

 レンリエッタがグリスへギルドに行くと話そうとした途端、蝙蝠色の頭巾を被ったエラフィンがやって来て無理やり会話を中断させてしまった。
 もちろんグリスはエラフィンの恰好に疑問を抱き、玄関をくぐって外へ出る彼女を呼び止めた。

「エラフィン様?なぜそのような格好を…」
「そりゃもちろん日除けのためさ。今日は日差しが強いだろう?いくら鱗が全身を覆ってても嫌なもんは嫌なのよ。」
「そうですか……しかし、暑いのでは?日除けでしたら帽子を…」
「大丈夫大丈夫!さぁ行くよレンリエッタ!今日は私の杖に乗せてやるさ!」
「うわぁああ!い、行って来まーす!」
「はい…いってらっしゃいませ…」

 エラフィンはレンリエッタを杖へ座らせると、有無を言わさず飛び立ち、グリスは困惑したまま二人を見送る事となった。あからさまに怪しいので帰宅時、質問攻めに遭うのは確かだろう…
 ガンガンに日差しが照り付ける中、上空を飛びながらレンリエッタはエラフィンへ聞いた。

「先生、なんでグリスに言わないの?」
「アイツの過保護は知ってるだろ。バレたら面倒だからね、悪いが今回は黙ってるしか無いのよ。」
「なんだかグリスが気の毒だよ…」

 そうは言っても、カエル退治に行くと聞いたグリスが『あぁそんな!危険過ぎます!』と言いながら必死に食い止める様子が容易に想像できたレンリエッタはそれ以上は何も言わなかった。
 話題を変え、レンリエッタはスレイヤーズギルドとやらについて聞いてみた。

「ところで先生、スレイヤー…ギルド?っていうのは何なの?」
「スレイヤーズギルドさ。モンスタースレイヤーが依頼を受けたり、群れて騒ぎまくる所よ。」

 スレイヤーズギルドは読んで字の如く、モンスタースレイヤーが集いし場所である。依頼を引き受けたり、討伐した個体を換金したり、単に飲んで騒いだり……要するに職業斡旋所に酒場と宿屋がくっ付いたものだ。
 一応政府が経営しているので立派な公共施設である。

「だけど……ひとつ問題があってね…」
「も、問題…それって嫌なこと?」
「あぁすごく嫌な事さ……と言うより、嫌な思いをするのはアイツ等さ。スレイヤーは私達みたいな魔法使いを嫌うのよ、なんせ奴らは殆ど石喉レスペルか魔法の才能が無い連中だからね…」

 しかしスレイヤーと対峙する際にひとつ問題がある…彼等の多くは魔法使いを嫌う傾向にあるのだ。
 一般的なモンスタースレイヤーの多くは魔法の扱いが苦手とされるビーストヘルド族であり、その次に先天的に魔法を使えないレスペルが多い…もちろん魔法を使えるスレイヤーは居るし、魔法専門の者も居るのだが、やはり歓迎はされないのだ。
 魔法が使えない者達にとって魔法使い程妬ましく、憎ましいものは無いのだ。
 それを聞き、レンリエッタは『もし自分が魔法を使えなかったら…』と嫌な想像をしてしまい、少し彼らの気持ちが分かった様な気がした。

「私も奴らと揉めるのは御免だから依頼を受けて直ぐ出るよ。スレイヤーは強いからねぇ…」
「先生が強いって言うほどなら……うぅ…凄く強いんだよね…ニョポンはそうでも無さそうだったけど…」
「アイツはワンパターンだからねぇ…」

 ヘルドの中でもひと際物騒でアングラな面が多い者達…それがモンスタースレイヤーなのだ…
 段々と近づいて来る街を眺めながら、レンリエッタはゴクッと固唾を呑み込んだ。カエル退治が上手くと行けば良いのだが……結果は実力が全てだろう…

つづく…
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