【R18作品】コォとインの奇怪冒険譚

蛾脳シンコ

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第1部【明暗の大魔導師】編

第36話 浪漫海遊記 その3

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俺の名前はコォ、皆と一緒に船に揺られる冒険者だ。
自分は今、釣り糸を垂らした竿を持ちながら手すりに肘を置いてボーっとしていた。
暇つぶしに始めた魚釣りだが…釣れないなぁ、やっぱり船が動いていると釣れないモノなのだろうか…
ちなみに今日で船旅生活4日目だ…そろそろ怨霊海域に入るらしい。

「(インは部屋で魔導書弄り、イワは昼寝…暇だ。)」

こんだけ暇だと海の音も煩わしく感じてしまう…船長とは話のノリが合わないし、ルッパは執拗に紅茶を勧めて来る…もう茶で胃がタプタプだよ。
せめてどんなヤツでも魚が釣れれば楽しいのだが…

「………ッ!!引いてる!」

その時!ビィン!と竿がしなり、ギィギィと糸を伸ばし始める!!来た来た!
釣り針に獲物が掛かったな!やっとだ!
直ぐに釣竿を掴んでリールを巻きあげる!糸を切らないように慎重に…でも迅速に!
ようやく釣れた得物だ!絶対に逃してたまるか!!

「この……!!しゃぁああ!!」
「(ようやく釣ったのか…)」

釣れた!俺でも釣れたぞ!銀色で…なんか、美味しそうとは言えない見た目だけど…
なんだろうかこの魚は…なんか目がギョロギョロしていて気持ちが悪い。

「ようやく釣れたか…」
「はい!で…なんていう魚か分かりますかね?」
「これは…マボラだな。凄く…普通な魚だ。」
「マボラですか…」

釣れたのはマボラと言う名の…少しスリムなお魚さん。
ボラ目ボラ科の生物で最も繁栄している魚類の一種らしい…主に食用で捕獲されており、魚の加工品と言ったら大体コイツが入っているとのこと。
旬は秋の下旬から冬で美味しい食べ方はお刺身と唐揚げ。
何処にでも生息しているのでレア度は低い…臭みを丁寧に抜かないと食えたもんではないらしい。
ちなみに成長するたびに名前が変わる出世魚である。

「どうする?この時期はイマイチだぞ。」
「じゃ、逃がしましょうか。ほら!海にお帰り!」
【キューン…】

そんなボラちゃんを海に投げ返してあげると、餌を針にくっ付けて釣り糸を再度垂らした…今度は美味しい魚でも釣れないかな。

「釣りは回数が大事だ。良いもんが釣れたらルッパに渡せ。」
「はい。(海の魚って他にはどんなヤツが居るんだろう…)」

船長は再度、舵の所へ戻り、自分は釣竿を持って海とにらめっこ。
ちょっとワクワクしながら待っていたが………ダメだな、うん…全然来ないや。
けど釣りってのは待つことが大事とも聞いた…だが自分にはちょっと辛い。
釣り竿をホルダに固定すると、手すりに背中を掛けるように甲板へ座った。
空は緩やかで晴れていて…風も気持ちいい…しかし!モノには限度って物がある!こんだけ潮風に吹かれると肌がしょっぱくなってしまう。

「(山に居た時よりも暇だ…)」

山に居た時、人生とは空虚でなんて面白くの無いモノなのだろうと思っていたが、今回の旅でその価値観はガラリと変わった…何というか…旅が楽しいのだ。
そりゃ嫌な事も沢山あった…しかし、それでも楽しくないと言えば嘘になる。
ずっと山に居た反動か何かだろうか…新しい景色ってのを見るとワクワクする。
だが戦いは嫌いだ、痛くて何も得る事のない無駄な時間しか過ぎない。

「(攻撃魔法はこれ以上覚えたくないな…)」
【コォ…隣良い?】
「イワか…別に良いよ、座って。」
【ありがと。】

イワが起きて来たが、直ぐに自分の横に座るとまた眠りこけてしまった。
彼女は変なサイクルで起床と睡眠を繰り返していたので結構不安定な就寝生活をしている…魔族は通常、そんなに寝ない…それはイワも一緒だ。

「(もし全てが終わったらイワをどうすれば良いのだろうか…)」

父さんの呪いの解除、造魔影ゾウマエイの調査…それらが終わったらイワをどうするべきか…それは彼女自身が決める事でもある。
旅に出るのも、世間を学ぶのも…どちらを選んでも俺は手助けしたい。

「イワ、起きてくれ。」
【んう?な、なに…】
「やっぱりなんか恥ずかしいや、ごめん。」
【いや…別に平気…もう起きる。】

さてと…これでもう1人じゃ無いぞ!これで少しは暇も…紛れるかも?

「なぁイワ。」
【なにか?】
「えーっと……今日はいい天気だな!」
【うん、昨日と同じ晴れ。けど雲も多い。】
「そうか…はは…」

………ど、どうしよう…ちょっと気まずいぞ…イワと話すのが気まずい事ってあったか?とにかく…話題を切らしてはいけない…だが大穴の天気を初手に出すのはマズかったか…
そうだ!良い話題があったじゃないか!今さっき釣った魚とか!

「そうだ!さっき魚を釣ったんだ!逃がしちゃってけど…マボラって言う魚!」
【さかな?あぁ、あの水に居る…】
「そうそう。イワって魚好き?」
【ウチ、魚とかの食べ物…食べないから分からない。】

しまった…そうだった…イワは水だけでも生きていけるビックリ生物だった…
うーむ…どうしたものか……ところで、イワは鉄面を着けていない。
別に船長もルッパも人工魔族の存在を知らないし、興味がないからだ。
さすがにこんなにいい天気の中、鉄面は辛いだろう。

【ところでコォ…】
「な、なんだ?」
【後ろの棒…なんか動いてるよ。】
「え!?あ!掛かってる!」

イワの言うように竿を見ればビンビンにしなっている!!2匹目がこんなに早く掛かるとは!
直ぐに竿を持ってリールを引く…これは大きいぞ!先ほどとは引きが違う!
まるで泳ぐ丸太を釣り上げようとしているみたいだ!!

「ぐぅうあああああ!!この…野郎!!」
【!?な、なにこれ…】

めいっぱいに力を使い、バッシャァア!と釣り上げたソレは…奇妙な生物であった。
何だこれは…魚…なのか?黒い蛇みたいだけど、蛇にしては平べったい。

「よう、今度は何が釣れたんだ?」
「船長…このよく分かんない生物です。」
「これは…ウツボだな。ヤコウウツボというものだ。細かく説明すると…」

ヤコウウツボ…ウナギ目ウミウツボ科ケイコウウツボ属の生物。
身体は昼間に太陽の光を吸収するために黒く、吸収され、蓄えられた光は夜間に全身を光らせる…それを使い、小魚等をおびき寄せて捕食する。
夜光の名もそこから来ている…蛍光ウツボ属は海水にしか居らず、このヤコウウツボとアンドンウツボのみである。
旬は4月から7月…つまり今が丁度いい。

「これだけの大物だ。どうする?」
「うーん…可哀想なので返してあげましょう。」
【バイバイするの?】
「好きなようにすればいい。お前の得物だ。」

少し惜しいが、このウツボちゃんも返してあげることにした。
ちょっとヌメってるが…海へポイっと投げ返す。

【キューン!】
【行っちゃった。】
「ウツボってああやって泳ぐんですね。」
「キモいよな。…そうだ、それより…もうすぐ怨霊海域に入るぞ。」
「ようやくですね。」

船長が言うには…もうすぐ魔の海域、怨霊海域へ突入するらしい。
暴風域にさえ入らなければ幽霊などは襲って来ないが、それでも水棲魔物は居るらしい…魔除けの代物は積んでいると言っているが…ちょっと怖い。
それに…イワが言ったようにちょっと雲が出ている…大丈夫か?

「大丈夫なんですか…」
「ちゃんと晴れの日を狙って来たんだが…ここは腫れる事を信じよう。」
【お化けと遭遇するの?】
「そうならないと良いな。2人共、波が高くなる…濡れたく無きゃ中に入れ。」

たしかに…少し、船の揺れが大きくなった気ががする…濡れても困るので自分は釣り道具を片付けると上着をへやまで取りに戻り、イワは部屋へ置いて来た。
あんなことを言われたが…やっぱり怨霊海域がどんな場所か気になる。
俗に言う、…だろうか?

「お前も物好きだな。濡れに出るなんて。」
「好奇心ですよ。」

船には(いつになるか分からないが)帰りに再度乗るだろう…だから帰りはゆっくりするとして、行きは少し張り切りたい。
船に乗るなんて珍しい機会で人生で初…気になる事は見るに限る!
百聞は一見に如かずとも言うじゃないか。

「(にしても怨霊海域か…)」

今思えば怨霊海域と言うのも名前である。
ちょっと幽霊や化け物が出るだけで怨霊と名付けるなんて…それなら…モンスター海域や魑魅魍魎海域とかでも良くないだろうか。
いや…名付けた人は何かしらの意味があって付けたのかもしれない。
シロートがとやかく言うのは止めておこう。

「(…!?な、なんだ…肩が急に重くなった気が…)」
「おっと…どうやら入ったようだな…荒れるぞ。」

肩が急に重くなった気がする…何かこう…下から掴まれているように…
昔に見た霊関係の本で…こんな症状を見た事がある…これがそうなのか…?
やはりこの海域はただの海では無いのか…気のせいか、肌寒くもなり…暗くなった気もする…非常に不気味で居心地の悪いものだ。

「せ、船長…奥に…謎の光が浮かんでますが…」
「アンドン持ちの幽霊だ。光を見過ぎると気が触れるから見るな。」
「はい!けど…幽霊って…大丈夫なんですか?出ないんじゃ…」
「危険度レベルが低い幽霊は含めていない。ああいうのは関わろうとしなければ無害だ。」

なんと恐ろしき海域だろうか…視界には3つほどの光が薄暗く、遠くの方に浮いている…見過ぎるなと言われているので頻繁に顔を背けてみる景色を変えた。
船酔いはしないと思っていたが、少し気分が悪くなってきた…中に入ろうか…

「……!!船長!!後ろぉ!!」
「な!?がっはぁ!?」

部屋に戻る前に船長へ軽く挨拶しようと彼の方へ向いたその時だった…彼の後ろには持つには程よい感じの木片が浮いており、何か危険を察知した自分は必死で叫んで知らせた。
しかし…ガレン船長が後ろを振り向いた瞬間に彼の頭上へ木片が振り下ろされ、バッギィ!!と叩き付けられた木片は砕け、船長は伸びてしまった。

「船長!…き、気絶しているだけか…このくらいなら…」

とりあえず回復魔法で回復させて…次は…ルッパを呼ぼう!
下手に動かすより、先に皆へ知らせなくては!

「船長がやられた!誰か来てくれ!!」

そう叫ぶと直ぐにイワ、イン、ルッパの3人がやって来た。
直ぐに事情を話すとルッパに船長を医務室まで運んでもらい、インには周囲の警戒、イワは……イワには船長の看病をお願いした。

「ゆ、幽霊ってどんな奴なんだろう…」
「分からん…なにせ透明だったからな…」

『ゴーヒョッヒョ!魔の海域へ入ってきたことを後悔させてやるぅ!!』
「「!?」」

不気味な高い声が甲板に広がる…これが幽霊の声なのか…ちょっと面白い。
っていやいや!そんな事を考えている場合かッ!ちくしょう…奴め…何処に…

『ご搭乗の皆様にはとあるところに向かってもらいまーす!!』
「な…ふざけやがって…」
「あ、あるところ?」
『それは楽しく…愉快な……アタシ達幽霊の居る霊界さ!!』
「うわ!コォ!あそこ!!」

インの指さす方向はさっきまで船長の居た舵のある場所…そこに幽霊は居た。
白い人型にしか見えないが…多分…きっとアレが幽霊に違いない。
奴は船長の帽子を被って下側に立つ俺達を見下ろしていた。
(面白みのないステレオタイプの幽霊って感じだな)

「何が目的だ!俺達をどうするつもりだ!」
『愚問だねぇ…幽霊に意味なんて無いよ…?まぁけど、強いて言うなら仲間が欲しいからさ。』

「な、仲間?私達にお化けになれって言うの?」
『そうさ!アタシ達ゃもう長いこと新入りに出会えていない…そろそろ仲間を増やす時だと思ったのさ…そしてそこへお前等可哀想なお友達がやって来た!ついでに船も乗っ取って家も手に入れてやる!』

要するに敵だ……しかし!幽霊って倒せるのだろうか…もう死んでない?
死んで無い幽霊は幽霊とは言えない…それは生霊の類だろう…それに幽霊に攻撃が通じるとは思えない…

「ええい!先手必勝!!雹球!」
『へ!効っかない!物理魔法なんて効くもんか!!』
「そんな…幽霊って普通は魔法に弱いはずでしょ…」
『幽霊は光魔法か同じ幽霊くらいしか殺せませんよ!バーカ!!……あ、やべ』

幽霊はしまったと言わんばかりに口を手で押さえたが…直ぐに余裕の表情へ変わった…コイツ、バカなんじゃないのか?それか俺達に出会えてテンションが上がってるだけだ。
にしても良い事を聞いたぞ、光魔法か…新作のスネレイズがある!
勝てる!この戦い、勝てるぞ!ありがとう…ガシラドウ。

『まぁ?この船には聖職者も乗って無さそうだし…アタシの勝ち!』
「…コォ、やって。」
「ああ。……スネレイズ!」
『はっはっは……へ?』

光の光線魔法、スネレイズを奴の頬を掠めるように撃ち込むと、幽霊は笑うのを止めた…一応、威嚇射撃のつもりだったが…当たってしまった様だ。
光線の掠めた頬は白い煙を出し…少し抉れていた…ああなるのか。

「おい幽霊、聞け。二度と俺達に構うな、次は当てるぞ。」
『うっ…光魔法を使う奴が乗ってたなんて…だが…対策済みだよぉ!!』
「な、なんだと!」
「ひぃい!コォ!船の横から!!」

インが言うように甲板の手すりの方から2体の魔物が海から這い上がって来た。
1人目は痩せこけたゾンビ…?頭にタコがくっ付いていてパンツだけという薄着。
もう1人はフジツボだらけのスケルトン…なんか動きにくそうにしている。

『チジ!ゲシ!そいつ等をコテンパンにしてしまえ!!』
【オーライ!キャプテンポルターン!】【か、か…カルシウム…】
「く、来るか…」「でもこいつ等…幽霊じゃないよね…」
『そうさ!そいつ等は半魔物さ!アタシと違って光魔法は通じないよ!』

ポルターン…あの幽霊はポルターンと言うのか…そしてこのゾンビがチジ、スケルトンがゲシ…か。
先にポルターンを始末したかったが、姿を消してしまい、居場所が分からない。
そしてそれと同時に…2体の魔物はこちらへ踏み寄って来る…
光魔法は効かないと言うが、奴等には身体がある!だから物理攻撃は通じるハズ!……あ!しまった…大事なメイスを部屋に置いて来てしまった…
鳥に戻るか…?いや…間に合わない…このままやるしかない!

「イン…お前はあの骨を何とかしろ…俺はゾンビをやる。」
「分かった…けど…燃えるかな…」

【オレの相手は貴様か…おい!貴様!!】
「な、なんだよ…」
【このタコ取ってくれ…前が見えないんだ…】
「身体の一部じゃ無いのかよ!ったく…ほら、引っ張るぞ…」

なんか可哀想なのでタコを無理やり引き千切ってあげた…タコは俺に墨を吐き掛けると自分で動いて海へと返った。

【キューン…】
【よし…すまねぇな………っしゃ!!死ねぇ!!】
「うぉおお!!」

奴の切り替えの早さは凄まじく、礼を言うと直ぐに後ろへ隠し持っていたナイフをこちらへ突き付けた。
自分でもびっくりするぐらい瞬時に躱すと、奴と距離を取る…
にしてもチジの野郎…どこにナイフを携えていたんだ?パンツ一枚でホルダーなんて…うん?背中…?そ、そうか…アイツ、背中に突き刺して持っていたんだ!なんて野郎だ…
ロマンとは程遠い海の旅…こんな事になるなんて!

つづく
・・・
諸々図鑑
名前:行灯誘霊(アンドンユウレイ) 分類:半魔物 発見者:02海洋探検隊
危険度:レベル1(関わらないなら無視) 標的:生きるもの全般

『行灯誘霊は人間が魔物化した半魔物である。海で死んだ者の魂が何らかの原因によってこの霊になると考えられているが、真相は不明。もしかしたら幽霊の階級的な何かでなっているのかもしれないと言う説もある。(もしくは職業?)名の由来である、この霊の持つランプは伝説の神器「ユゥーシェンの牢獄灯ロウゴクトウ」を模して造られており、伝説の通りに狂気を司る神「魔神ヘテカレウ」の力を微弱なら発している。その為、この光を長時間見てしまうと精神に異常を来してしまう。そうなった場合、完治は難しい。だが、目視さえしなければ良いので対策は簡単。また彼らは(一部を除いた)他の幽霊と同じで非常に臆病な性格をしているので普通の人間に近付くことはない。友好的な者は手を振ってくれる、ちょっとかわいい。』

『海へ出向く際は万全の対策を。全国航海連盟会一同より』
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