100均で始まる恋もある2

三森のらん

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5.ネクタイ

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 会議は上手くいったが、終了時間が予定の時間よりも少し遅くなってしまった。

「遠藤、飯、どうする」

 会議室を出てフロアに戻りながら、声をかける。俺の後ろを小島と話しながらついてきていた遠藤は、一瞬、嬉しそうな顔をしたが、すぐに困ったような顔になった。

「ご一緒したいのは山々なんですが、野原と一緒に、客先のアポの時間が……」
「そうか、わかった」
「あ、じゃあ、私が一緒しても」
「小島さん、ちょっとこの資料なんですけど……」
「え?」

 嬉しそうに声をかけてきた小島だったが、フロアに戻った途端、隣の課の酒田につかまってしまったようだ。うちの課にはいない年下の後輩だけに、小島も無下に出来なかったのか、俺のほうをチラッと見るので『行ってこい』と手を振ってやると、小さい会釈して酒田のほうに歩いていく。
 俺の方は今日はデスクワークに集中するだけだから、時間には余裕がある。よく行く定食屋にでも行って、少しゆっくりするか、と思いながら席に戻る。
 いくつか折り返しの電話のメモが貼られている。面倒そうな相手のが一件あったが、それ以外のところに電話をかけながら、メールもチェックする。どれも、戻ってきてから返事をしても問題はなさそうだ。
 受話器を置いて課内の様子を見ると、事務の佐藤さんも丹野さんもいる。

「じゃあ、ちょっと飯、行ってくるわ」
「はい」
「いってらっしゃい」

 彼女たちの声に片手を軽く上げ、フロアの出入り口に向かおうとした時、パーテーションの中が見えた。一人、黙々とパソコンに向かっている濱田くん。百均で見かける表情よりも、ずいぶんと真剣な顔に、フッと口元が緩む。
 テーブルにはファイルの束がいくつか置かれていたが、他には今朝買ったカフェオレの缶だけ。まさか昼飯抜きだったりするんだろうか。俺はパーテーションのドアを開けると、濱田くんに声をかけた。

「濱田くん、昼は食べたのかい」

 そんなに大きい声で話しかけたつもりはなかったが、濱田くんは大きく身体をビクッとさせると、俺の方に目を大きく見開いて、固まってしまった。

「あ、すまん。驚かせるつもりはなかったんだが」

 あまりの反応に、思わず苦笑いしてしまう。すると、すぐに顔を赤らめる濱田くん。

「いえ、大丈夫です。ちょっとだけ驚いただけですから。まだ、食べてません」
「そうか。私もまだ昼を食べてないんでね。濱田くんがよければ、一緒に飯食いに行かないか」
「え、でも」
「よかったら、近所に旨い定食屋があるんだ」
「い、行きます」

 俺は濱田くんの返事に小さく頷くと、酒田とまだ話し込んでいる小島に声をかけた。

「小島くん、濱田くん借りるよ」

 小島は酒田との話を一旦止めて、パタパタと俺たちの方に駆け寄ってきた。

「え、あ、はい。いいですけど、どちらへ?」
「まだ、飯食ってないらしいからさ」

 小島もまだだろうが、酒田が書類を持ちながらこちらの様子を伺っているようだから、まだ用件は済んでいないのだろう。 

「す、すみません、さっき声をかけたんですけど、気づかなかったみたいで」

 慌てたように答える小島。いつ彼女が声をかけたのか、大いに疑問に思いつつも、ここで揉めるのも時間の無駄でしかない。

「じゃあ、借りてくね」
「はい!」


 元気に返事をする小島に背を向けると、濱田くんを連れて、俺はエレベーターホールへと向かった。
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