100均で始まる恋もある2

三森のらん

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5.ネクタイ

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 自分の席に戻ると、その面倒な相手に電話をかける。本社の人事部長、相沢。俺より2年先輩の彼は、俺が本社勤務時代、とある因縁からか、やたらと俺に絡んできては、色々と文句を言ってくる相手だった。お陰でいまだに、この人には苦手意識がある。
 3コール目が終わる直前に『はい、人事部、相沢部長のお電話です』と、軽やかな女性の声が電話に出た。

「あ、東日本営業部の山本ですが、相沢部長はいらっしゃいますか」

 恐らく、相沢付きの秘書か何かなのだろう。女性は『少しお待ちください』と一瞬断りをいれたが、すぐに会話を続ける。

『お待たせしました。相沢部長は、ただいま会議に入っておりまして、あと1時間ほどで戻りますが』
「ああ、そうですか。お電話をいただいていたようなので、折り返させていただいたんですが」
『そうでしたか。では、お電話があった旨、お伝えしておきます』
「よろしくお願いします」

 俺は受話器を下ろす瞬間、あの相沢の名前を誰かが呼んでいる声が聞こえた気がした。それに応える声までは聞こえてはいなかったが、タイミング的に嫌な印象を受けたのは否めない。そのまま受話器を下ろして、大きくため息をつく。

「どうした、山本」

 隣の島に座る小笠原が、チラッと俺の方に目を向ける。

「ん? ああ、相沢さんがね」

 苦笑いをすると、小笠原も「ああ、あの人か」という顔をする。ちょうどそこに、野原と客先から戻ってきた遠藤が「ただいま戻りました~」と言いながら、自分の席に座った。

「お帰り」

 俺の声に、小さく頷くと、鞄の中から書類と一緒にノートパソコンを取り出し、仕事を始める。急ぎの依頼でもあったのだろう。俺はあえて声をかけずに、小笠原のほうを向く。

「あの人、よくあれで部長になれたよな」

 俺の方に身を乗り出しながら、小笠原が呆れたような小さな声で、愚痴を言う。

「まぁ、いい加減、時効にしてほしいもんだけどね」

 俺の方も苦笑いで答える。相沢との因縁ともなった出来事は、俺にとっては嫌な思い出以外の何物でもない。

 さおりと静流を亡くしてそれほど時が経っていない頃、それでも仕事は待ってくれない状態で、俺はかなり精神的にボロボロだった。その時、俺を気に掛けてくれたのが、当時、まだ独身だった相沢の元嫁だった。

 俺の方は、彼女が誰かと付き合ってるとか、まったく興味もなかったし、優しくされれば流されてしまう、それくらいに酷い状態だった。
 その彼女と食事をして飲みに行き、そのままの流れでホテル街のほうに向かいそうになった時、ばったりと相沢と出くわした。彼女が酷く驚きながらも、俺から相沢のほうに駆け寄った姿を見て、そこでようやく、二人の関係に気付いたんだが、相沢の片は完全に頭に来ていたようで、思い切り俺のことを殴り飛ばすと、彼女を連れてどこかへと去っていった。

 その後、彼女がペラペラと俺と相沢が自分を取り合って殴り合いの喧嘩をした、という、根も葉もない噂を広げてくれたお陰で、俺の方がいい迷惑だった。
 彼女にしてみれば、相沢をその気にさせる手段になったのだろうけれど、正直、こんな女だと知ってからは、少しだけ相沢も気の毒だな、とは思ったものだった。結局、二人は結婚しても、そう長くは続かなかったようで、今では相沢も独り身のようだった。

「そういえば、夕方からの会議、資料できてるのか」

 小笠原が話題を変えるように話しかけてきた。

「ああ、あと少し確認すれば、出せる」

 そう答えてから、俺はチラリとパーテーションに区切られた部屋の中の濱田くんのほうに視線を向ける。彼もパソコンのほうに向かっているのだろう。頭の上のほうだけが俺の視野の中に入って来た。
 俺は心の中でだけ、気合を入れると、自分のパソコンのほうに意識を向けた。
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