100均で始まる恋もある2

三森のらん

文字の大きさ
30 / 93
5.ネクタイ

30

しおりを挟む
 会議はスムーズに終わった。まだ濱田くんがいればと思った俺は、自販機で見かけた面白そうなジュースを買った。なぜかシュークリームと書いてある。ジュースなのに。濱田くんは、面白がってくれるだろうか、と缶を手にしていると、小笠原に声をかけられてしまった。
 そこからそのまま打ち合わせになだれ込み、これが意外に長くかかってしまった。フロアに戻ると、19時近くになっていて、その頃には、うちの課は遠藤くらいしか残っていなかった。

「お疲れ様っす」
「おお」

 席に戻ると、電話の受話器にメモが一枚。相沢からだ。ちょうど俺が会議に入った直後にかかってきたのだろう。

「ほんと、あの人は……タイミング狙ってんのかよ」

 相沢からの伝言は特になく、電話があったとだけ伝えて、というものだった。さすがに、この時間に、あの人が仕事をしているとは思えない。面倒くさくなった俺は、メールをチェックしたついでに、相沢宛に、用件があればメールでくれと、メールを送る。俺だって、暇ではないのだ。
 ふと、パーテーションのほうに目を向けた。さすがに小島もいないのだから、当然、濱田くんの姿はなく、今頃、彼は百均でバイトしてるのだろうか、とワイシャツ姿の彼を思い出す。

「山本課長、飯でも食っていきますか?」

 遠藤がパソコンの電源を落として、帰り支度を始めている。俺の方も、そろそろ帰るつもりでいたのだが。

「あ、遠藤さん、飯行くなら、俺も連れてってくださいよ」

 小笠原を待ってた酒田が、話が終わったのか、遠藤に声をかけてきた。すると、葛木までも行くような話になっていく。こうなると、俺のようなおっさんがいると、邪魔になりそうだ。

「遠藤、俺、もう少し仕事してくから、お前らだけでいってこいよ」
「えぇぇ」
「ほら、葛木達が待ってるぞ」

 実際、葛木達はフロアの出口近くで、遠藤を待っている。そう言うと遠藤も、諦めたのか「じゃあ、お先に失礼します」と 葛木達の方へと向かっていった。
 遠藤に仕事うんぬん言った手前、ついでだからと、今日の会議の資料の整理を始めると、一時間はあっという間に進んでしまう。そして気が付けば、フロアに残ってるのは俺一人。

「おっと……そろそろ帰るか」

 俺はパソコンの電源を落とし、フロアの電気も消してフロアを出た。
 遠藤じゃないけれど、晩飯を食べて帰ろうか、と思った時、そういえば冷蔵庫に逆井さんが煮物をわけてくれたのがあったのを思い出す。かなり量が多かったのを考えると、消費してしまわないと、またゴミ箱行きだ。

 それでも、いつものように酒のつまみを買いに、百均に足を向けてしまう。ほとんど習慣のようになっているから、仕方がない。
 今日は俺の好物のかわはぎに、メンマ、焼き鳥の缶詰。メンマはそのまま食べてもいいが、ネギとごま油と粗びき胡椒で和えるのも、簡単で旨い。ネギはあったか自信がないが、とりあえず買って帰ろう。
 カゴの中を確認しながらレジへと向かうと、この時間には珍しく、カゴに山盛りに商品を入れている客が続いている。ふと見ると、無表情の濱田くんがレジに入っていた。ワイシャツにネクタイ姿は、やはり新鮮な感じがする。

「ありがとうございました」

 さすがに彼も疲れているのだろう。明らかに惰性で言葉が出ているのがわかって、思わず口元が緩みそうになる。俺は彼の目の前に、静かにカゴを置いた。

「いらっしゃいませ」

 俺のほうを見もせずに、カゴの中に視線を向ける濱田くん。俺が前に立っているというのも気づいていないようだ。
 
「お疲れ様」

 思わず、俺の方から声をかけてしまった。すると、一瞬固まったかと思ったら、顔を赤らめながら「お、お疲れ様です」と返事をしてくれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

竹本義兄弟の両片思い

佐倉海斗
BL
 高校一年の春、母親が再婚をした。義父には2歳上の引きこもりがちな連れ子の義兄がいた。初対面ではつれない態度だった義兄だった。最初は苦手意識があったのに、先輩に目を付けられて暴行されている時に助けられてから、苦手意識が変わっていった。それにより、少しずつ、関係が変わっていく。

女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。

山法師
BL
 南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。  彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。  そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。 「そーちゃん、キスさせて」  その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。

処理中です...