100均で始まる恋もある

三森のらん

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5.ネクタイ

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「おいおい、待てよっ」

 再び僕の肩に手を置こうとするのを避けると、冷たくにらみつける。

「いい加減にしてください。僕、今日だって百均のバイトがあるんです」
「そんなのより、俺のバイトのほうが面白いし、時給もいいよ」

 ――そんなの?

 もともと、平川先輩が僕に勧めてきた百均のバイトなのに。

「面白くて時給もいいなら、自分で続ければいいでしょ」
「そうもいかないから頼んでるんじゃん」
「どこをどうみたら頼んでるんですか。人の都合とか考えなしに、単に、押し付けてるだけじゃないですかっ」

 僕がキレ気味に言った声が、広い教室に響く。まだ残ってた数人の学生が僕たちのほうに視線を向けてきたせいか、平川先輩は慌てて僕の腕をつかむと、廊下のほうに引きずり出した。

「い、痛いですっ」
「わ、悪い。でも、マジで頼むよ、俺も困るんだ」
「勝手に困ればいいじゃないですか。そもそも、僕じゃなくたって、平川先輩のサークルの後輩とか、誰かいるでしょう!?」

 ムッとしながら、僕は顔をそらした。平川先輩はけっこう大所帯のお遊びサークルに入ってたはずだ。
 そうだよ。僕じゃなくたっていいじゃないか。

「この時期に急に頼める奴がいないから、お前に頼んでるんだよ」

 頼むよぉ~、と拝まれても、無理なものは無理だ。

「はぁ? 僕だって無理ですからっ」

 堪忍袋の緒が切れる、というのは、こういうことを言うんだろう。いくらなんでも、ここまで僕のことを甘く見るとか、あんまりだと思った。ここが廊下で、僕たち以外にも人がいるのはわかってても、 もう我慢などできなかった。

「自業自得ですっ。他をあたってくださいっ」

 僕は掴まれてた腕を振り払うと、猛ダッシュでその場から逃げ出した。背後では平川先輩が僕の名前を叫んでいたようだけれど、そんなことは関係なかった。

 先輩のあまりの言い草に頭にきて大学から出てきてしまったけれど、少し冷静になって考えてみると、先輩が辞めて困るのは先輩を直接見てる社員の人で、もしかしたら、その人の上にいるのは山本さんではないのか? と、思い至って、焦ってきた。

 もし、山本さんが困るのだったなら。あんな自分勝手な先輩なだけに、困ったことになってしまうのではないか。
 もし、僕が短い期間でもお手伝いにいったら、山本さん、少しでも楽になったりするんだろうか?

 何も確実な情報があるわけではなく、すべて僕の妄想なだけかもしれない。そう思っていても、心の中に芽生えてしまった不安は、なかなか消えてくれない。
 悶々と考えながら歩いているうちに、百均の入っている駅ビルの前まで着いていた。僕は大きくため息をつきをついて、駅ビルの中に入っていった。
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