100均で始まる恋もある

三森のらん

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5.ネクタイ

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 僕が案内されたのは、広いフロアの中にあるパーテーションで囲われた小部屋。テーブルの上に山積みされた資料を目にして、これから僕は入力するだけのマシンになるのだな、と、顔を引きつらせて部屋の入口で立ち尽くしている。

「なんか平川くん、かなり中途半端なまま、辞めることになっちゃって、参っちゃうのよね」

 なぜか僕にそういう愚痴を言いながら、窓のブラインドを開けていく。彼女は「小島です。よろしく」と軽い感じで挨拶すると、ノートパソコンをたちあげた。

「えと、部屋入ってくれる? あ、名前なんだっけ」
「あ、濱田です」
「濱田くんね、そこ座って」

 ブラインドから差し込んでくる日差しが、僕の背中に当たってくる。ほどよい暖かさが、まだ仕事が始まるところだというのに、眠気を誘いそうで怖い。
 小島さんは、店で見た時のような甘ったれた感じ(うん、僕はそう感じてしまった)はまったくなく、テキパキと僕に指示をだしていく。これがビジネスモードっていうやつなのだろうか。

「あ、作業する前に、何か飲み物でも買ってくる? 自販機のある場所、案内するけど」

 ジャケットを脱いで、いざパソコンに向かおうとした時、僕への指示を終えて部屋から出ていこうとした小島さんが声をかけた。

「は、はい」

 隣の椅子に置いておいた小さめのリュックの中から財布を取りだすと、小島さんの後をついていく。広いフロアでは、あちこちで電話を受けたり、パソコンに向かっている人たちがいて、これが会社ってもんなのか、と、ちょっとばかり感動してたりした。

 ――この中に、もしかしたら山本さんもいたりするんだろうか。

 そんなことを思いつつ、フロアをきょろきょろ見ながら小島さんの後をついていく。僕たちがフロアから出ようとした時。

「小島くん」

 その声を聞いて、僕は思わず立ち止まってしまった。もしかして。

「はいっ。山本課長!」

 僕の前を歩いていた小島さんは、さっきまで僕に向けてた表情とは一変、にこやかに微笑みながら振り返った。

「今日の会議の資料だけど」

 その声の主を確認したくて、僕はゆっくりと振り向いた。

「……あれ? 濱田くん?」

 やっぱり、山本さんだ。
 店に来るときとは違う。まだ、張りのある感じの山本さんが不思議そうな顔をして、僕の目の前に立っていた。
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