100均で始まる恋もある

三森のらん

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5.ネクタイ

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「こ、こんにちは」

 なんか疲れてない山本さんの姿は、あのお泊りをさせていただいた日以来かもしれない。スーツ姿が思いのほかかっこよくて、これなら小島さんがキャァキャァ言うのもわかる気がする。

「山本課長、彼をご存じなんですか?」

 僕の隣に立って、可愛らしく上目遣いで山本さんを見る小島さん。あまりの変貌ぶりに、僕は若干どころでなく引いてしまう。

「ん? ああ、ちょっとね。何、小島くんのところのバイト? 別の子じゃなかったっけ?」
「え、はい。その彼が都合が悪くなって、彼が来てくれたんです」
「おや、百均のほうはいいのかい?」
「あ、いえ、今日は代打っていうか。今日だけなんです」
「へぇ、そうなんだ」
「あの~」

 僕たいの思いのほかスムーズな会話に、小島さんは遠慮がちに声をかけてきた。

「山本課長のお知り合いですか?」
「知り合い……まぁ、知り合いといえば知り合いかな」

 小首を傾げながら、僕に確認するように聞いてくる。なんとなく小島さんに、いろいろ説明するほどのことでもないかな、と思ったと同時に、僕と山本さんのほんの小さな繋がり方について小島さんには知られたくない、とも思ってしまった。
 だから、僕は、小さくコクリと頷くだけ。

「それよりも、小島くん、会議の資料は?」
「あ、はい、午後からの会議ですよね、あれなら」
「おいおい、会議の時間が変更になったの知らないのか」
「え!?」
「朝一でメール来てただろう。11時からに変更で会議の場所も変わってた」
「す、すみません!! 今、メールチェックしますっ」

 僕を放り出して、自分の席のほうへと走り去っていく小島さん。

「思わぬところで会うもんだねぇ……そう言えば、濱田くんは、もう指示は受けているのかい?」

 ぽかんとしていた僕に、山本さんは小島さんと話をしていた時とは違う声で聞いてきた。うわぁ、仕事モードと、普段モードでこんなに印象が違うんだ。そう気づいたら、なんだかドキドキしてくる。

「濱田くん?」
「あ、は、はい。大丈夫です。ちょっと自販機の場所を教えてもらおうとしてたんです」

 仕事と関係ないことを聞いていることに、ちょっと恥ずかしさを覚えて、照れてしまう。

「そうか。じゃあ、私もついでに買いに行くから、一緒に行こうか」

 そう言うと、僕の脇を通り、フロアを出ていこうとする。僕はつい、ポーッとしながら山本さんの背中を見つめ、角を曲がっていく山本さんに気づいて、慌てて追いかけた。
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