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5.ネクタイ
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カタカタとキーボードを打つ音が部屋の中に響く。時折、外のフロアの電話の音が聞こえてくるけれど、それ以外の音はあまり耳に入ってこない。僕がひどく集中して作業しているせいもあるのだろう。
「濱田くん、昼は食べたのかい」
急に声をかけられてビクンと身体が跳ね上がる。山本さんが、個室のドアを開けて頭だけのぞかせていた。
「あ、すまん。驚かせるつもりはなかったんだが」
僕はちょっとばかりドキドキしながら、パソコンに表示されていた時刻に目をやった。もうお昼時間も過ぎていて、14時近くになっていたことに、そこでようやく気が付いた。そういえば、少しお腹もすいているような気もする。
「いえ、大丈夫です。ちょっとだけ驚いただけですから。まだ、食べてません」
「そうか。私もまだ昼を食べてないんでね。濱田くんがよければ、一緒に飯食いに行かないか」
「え、でも」
「よかったら、近所に旨い定食屋があるんだ」
山本さんと一緒に、お昼ご飯が食べられるなんて、こんな機会は滅多にない。というか、今を逃したら二度とないかもしれない。これを断る理由は、僕にはない。
「い、行きます」
僕は机の上を簡単に片づけると、ドアのところで待っていてくれた山本さんのところに近寄る。
「小島くん、濱田くん借りるよ」
声をかけられた小島さんは、少し離れた場所で社員の誰かと談笑していた。でも、山本さんの一声で、「あっ!」と僕のことを思い出したらしい。パタパタと山本さんのところに駆け寄ってきた。
「え、あ、はい。いいですけど、どちらへ?」
「まだ、飯食ってないらしいからさ」
山本さんの言葉に真っ赤になった小島さん。
「す、すみません、さっき声をかけたんですけど、気づかなかったみたいで」
そう言って、チラッと僕の顔を見たその瞳には、なんだか有無を言わせないものを感じたのは勘違いではない気がする。僕としては、山本さんみたいに声をかけてくれてたなら、僕だって気が付いたと思うんだけど、と思う。
まぁ、集中してると、まったく周囲が見えなくなるのは、いつものことなので、小島さんの言う通りなのかもしれない。あくまで、かもしれない、だけど。
「じゃあ、借りてくね」
「はい!」
「あ、じゃあ、行ってきます」
ペコリと頭を下げた僕に、強張った微笑みを見せた小島さん。背中を向けた瞬間、なんとなく冷たい視線が僕を貫いたような気がした。
「濱田くん、昼は食べたのかい」
急に声をかけられてビクンと身体が跳ね上がる。山本さんが、個室のドアを開けて頭だけのぞかせていた。
「あ、すまん。驚かせるつもりはなかったんだが」
僕はちょっとばかりドキドキしながら、パソコンに表示されていた時刻に目をやった。もうお昼時間も過ぎていて、14時近くになっていたことに、そこでようやく気が付いた。そういえば、少しお腹もすいているような気もする。
「いえ、大丈夫です。ちょっとだけ驚いただけですから。まだ、食べてません」
「そうか。私もまだ昼を食べてないんでね。濱田くんがよければ、一緒に飯食いに行かないか」
「え、でも」
「よかったら、近所に旨い定食屋があるんだ」
山本さんと一緒に、お昼ご飯が食べられるなんて、こんな機会は滅多にない。というか、今を逃したら二度とないかもしれない。これを断る理由は、僕にはない。
「い、行きます」
僕は机の上を簡単に片づけると、ドアのところで待っていてくれた山本さんのところに近寄る。
「小島くん、濱田くん借りるよ」
声をかけられた小島さんは、少し離れた場所で社員の誰かと談笑していた。でも、山本さんの一声で、「あっ!」と僕のことを思い出したらしい。パタパタと山本さんのところに駆け寄ってきた。
「え、あ、はい。いいですけど、どちらへ?」
「まだ、飯食ってないらしいからさ」
山本さんの言葉に真っ赤になった小島さん。
「す、すみません、さっき声をかけたんですけど、気づかなかったみたいで」
そう言って、チラッと僕の顔を見たその瞳には、なんだか有無を言わせないものを感じたのは勘違いではない気がする。僕としては、山本さんみたいに声をかけてくれてたなら、僕だって気が付いたと思うんだけど、と思う。
まぁ、集中してると、まったく周囲が見えなくなるのは、いつものことなので、小島さんの言う通りなのかもしれない。あくまで、かもしれない、だけど。
「じゃあ、借りてくね」
「はい!」
「あ、じゃあ、行ってきます」
ペコリと頭を下げた僕に、強張った微笑みを見せた小島さん。背中を向けた瞬間、なんとなく冷たい視線が僕を貫いたような気がした。
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