100均で始まる恋もある

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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 キッチンで僕に背中を向けて立っている山本さん。無性にその背中にすりよりたくなったけれど、なんとなく遠慮してしまう。

「や、山本さん」

 名前を呼ぶと、山本さんは、おっ? という顔をすると、食事が並べられたテーブルを指さした。

「ほら、座って」
「は、はい」

 僕は椅子にゆっくりと腰をおろすと、目の前に並べられてるものを見て、改めて感動してる。ここで食事をするのは3度目。1度目も、2度目も、僕だけの食事を山本さんは用意してくれた。でも、今、目の前に置かれてるのは、僕と山本さん二人分の食事だ。

「悪い、味噌汁、ちょっと煮詰まっちゃったもんで」

 小さい鍋から味噌汁をよそってる山本さんの姿に、やっぱり見惚れてしまう僕。

「あ、先に、食ってていいぞ」
「え、あ、いえっ、ま、待ちます」
「ん、ちょっと待ってろ」

 山本さんは汁椀を両手に振り返ると、一つを僕の目の前に、もう一つを自分のほうに置くと、ようやっと椅子に座った。汁椀から立ち昇る湯気に、思わず、鼻をくんくんとしてしまう。

「簡単なものしかなくて、ごめんな」

 山本さんは、そう言うけど、僕にしたら朝から、かなりボリュームがあると思う。ご飯に味噌汁、それに目玉焼きにハンバーグ、かぼちゃの煮物に、漬物。たぶん、目玉焼きがなかったとしても、僕にしたら夕飯に食べるボリュームだ。

「そんなことないです……」

 山本さんの家で、山本さんと一緒に食事ができる。それだけで、僕は十分に満腹で、涙が出そうになる。

「いただきます」
「い、いただきますっ」

 僕よりも大きな茶碗で、黙々とご飯を食べ続ける山本さん。バイトのことを考えると、僕はさっさと食べないといけないのに、ついつい、山本さんの姿を見つめては、箸が止まってしまう。

「……そろそろ10時になるけど」

 山本さんのその言葉に、「あっ!」と声をあげて、急いでご飯をかきこみだすと、山本さんは楽しそうに笑った。

「すみません……山本さん」
「崇」
「え?」

 かぼちゃに箸を伸ばしていたのが止まってしまった。

「だから、崇。俺の名前、呼んでってお願いしたよね」

 その言葉に、『崇って呼んで』と言った山本さんの甘い声を思い出してしまい、顔に血が上ってしまった。

「え、いや、でもっ」
「俺も、濱田くんの下の名前で呼びたいな」
「……っ!?」

 山本さんは箸をおくと、頬杖をつきながら、僕の顔を見てニヤッとした。

輝樹てるきくん、だっけ?」
「えっ、な、なんで」
「そりゃ、バイトに来た時の書類、俺のところ通るからね」

 うわ。そうか。そう言われてみれば、何か書類を書かされた気がした。

「じゃあ、テルくん?」

 わわわあぁぁぁぁっ!!
 なんか、そういう風に呼ばれるのは、小学校以来かもしれない。あまり友人がいなかった僕を呼ぶのは、たいがいが苗字。だから、下の名前で呼ぶのは家族ぐらいのもので、それも輝樹と呼び捨てにされる。
 恥ずかしすぎて湯気が出そうだ。

「どうした? テルくん?」
「えっ」
「かわいいなぁ、テルくん」
「ちょっ!?」

 わしゃわしゃと頭をお撫でてる山本さんの顔が、すごくうれしそう。僕は顔を真っ赤にしながらも、そんな山本さんに微笑み返していた。
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