100均で始まる恋もある

三森のらん

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8.クリスマスツリー

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 今日は崇さんが家にいるからか、玄関先の電気が点いていた。ただ灯りが点いているだけなのに、昨日のような寒々しさが感じられないのだから、不思議だ。
 玄関の呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてドアが勢いよく開いた。

「おかえり」

 崇さんが、すごくホッとしたような顔で、僕を迎えてくれた。

「た、ただいまです」

 今までみたことがないような、安心したような顔に、僕の方がびっくりした。
 それに、『おかえり』だなんて言われて、ちょっとだけ、こそばゆい気分になって、顔が変に緩んでしまっている気がする。

「飯、まだだろ?」
「は、はい」

 玄関先まで匂いが漂っていたから、すぐにわかった。僕は、遠慮がちに玄関を上がると、リビングのほうに向かった。

「カレーですか?」
「ああ、カレーといっても、キーマカレーだけどな」

 少し照れくさそうに言う崇さんが、可愛すぎて、胸がキュンキュンなってしまう。だけど、僕はそれよりも先に、買ってきたものを早く取り出したかった。

「ご飯の前に、お線香あげていいですか」
「ん? ああ、いいよ」

 キッチンに立ち、大きな皿にご飯をよそっている崇さんを目の端に見ながら、僕はレジ袋から、とても小さな白いクリスマスツリーを取り出した。大きさは、僕の手のひらにのる程度。

「あの、崇さん」
「ん?」

 嬉しそうに振り向いた崇さんは、僕の手のひらにのったクリスマスツリーを見て、一瞬、顔を強張らせた。

「これ、お仏壇のところに置いてもいいですか」
「……テルくん」

 奥さんも娘さんもいないこの家で、大げさなクリスマスの飾り付けをするのは、僕だって憚られる。いまだに、崇さんが、失った家族のことを忘れていないのは、綺麗にされているお仏壇や、リビングで大事に育てられてるエアプランツを見ればわかる。
 だからこそ。崇さんと一緒に、彼女たちと共にクリスマスを過ごしてあげたい、と、思ってしまった。

「これ、LEDが点いてて、電池入れると光るんです」

 単純に白いクリスマスツリーが光るだけのシンプルなもの。それでも、これ一つあるだけで、そこだけクリスマスらしくなった気がした。

「……いいよ。おいてきたら」

 寂しそうに微笑む崇さんに、僕は余計なことをしてしまった!? と、焦ったけれど、もう後の祭り。僕は、皿に向かってカレーをよそっている崇さんを残し、お仏壇のある和室に向かった。
 線香をあげたあと、白く光る小さなクリスマスツリーを見下ろす。黒い仏壇の上にのるクリスマスツリーは、どこか寂し気に見える。

「もしかして、こういうの嫌だったのかな……」

 小さくつぶやきながら、仏壇に飾られている二人の写真を見つめた。とても幸せそうに微笑む二人には、カメラの向こうにいる崇さんが、微笑みながらシャッターを押した姿が見えているのだろう。そんな様子が僕にでも簡単に想像ができた。
 クリスマスツリーの電源を切り、僕は頭の中に浮かぶ映像を振り払うように立ち上がると、そのまま、そこに置いて、部屋を出た。
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