100均で始まる恋もある

三森のらん

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9.酒のつまみ、再び

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 うっすらと目を開けると、薄暗がりの中、崇さんの腕が目の前にあった。どうやら僕は、崇さんに後ろから裸のまま抱きかかえられるように寝ていたらしい。無意識に指先を崇さんの腕に伸ばす。太く浮き出ている血管に沿って、ゆっくりと指先でなぞる。僕の腕にも同じように浮き出た血管はあるけれど、こんなに力強く太くはない。指先の動きに気づかない崇さんに、僕はフッと笑みが零れた。
 玄関先で声を押し殺していた僕を苛めた後、僕を抱きかかえて寝室に連れて来たかと思ったら、今度は、声が嗄れるまで散々啼かされまくった。四〇代の体力を侮ったつもりはないけれど、今の身体の気怠さを考えると、崇さんの精力についていけてない自分が恥ずかしくなる。あんなに啼きまくったせいだと思うけど、ボロボロと泣いてしまって瞼も重たいし、喉もなんだかいがらっぽい。

「んんっ」

 喉に手を当てながら、僕は小さく咳払いをした。すると、崇さんが無意識なのか、ギュウッと強く抱きしめてきた。

「あっ、く、苦しっ……」
「んっ……?」

 思わず喘ぐ僕に気付いたのか、崇さんの腕の力が抜ける。しばらく何の反応もないから、そのまま、また寝てしまったのかなと、僕はチラリと崇さんの顔を覗こうと、首をひねった。

「っ!?」
「……はよ」

 眠そうな目をした崇さんと、バッチリ目があってしまった。なんだか恥ずかしくて、顔が熱くなる。

「……おはっ、ようございます……」
「んっ……」

 嗄れた声で挨拶した僕に、再び軽く抱きしめながら、僕の肩のあたりに額を擦りつけてくる崇さん。なんだか、そんな彼がかわいいと感じてしまう。

「今、何時?」

 崇さんの声が背中に響く。それだけで、ゾクリとしてしまう僕。

「えと」

 僕は崇さんの腕の中から身を乗り出して、時計を探すけど、前にも時計を見つけられなかったのを思い出す。

「あの、時計……どこですか?」
「あ、ああ、そうだった」

 崇さんはゆっくりと身体を起こすと、サイドテーブルの上にあったガラスの置物の手を伸ばした。

「……まだ五時過ぎか」

 置物だと思っていたのはガラス製の時計。横半分に、若かりし頃の崇さんと奥さんが写っていた。置物と勘違いしたのは、それが裏側を向いていたからで、それが見えてしまった僕は、胸の奥をがズキンと痛くなる。
 崇さんは、何事もなかったかのように、再びそれを裏返して置いたけど、僕の顔を見てハッとしたような顔をした。

「テルくん?」
「は、はい?」

 僕は何も見なかったかのように、微笑んで返事をしたつもりだった。だけど、それはどうも失敗したみたいで。

「ごめんよ」

 そう言って背中からもう一度強く抱きしめてきた。
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