あの恋人にしたい男ランキング1位の彼に溺愛されているのは、僕。

十帖

文字の大きさ
31 / 36

いつか通じ合うのだ僕らは

しおりを挟む
 美作のマンションを出てすぐにタクシーを捕まえた要と泉は、運転手の胡乱な目を無視し、自宅へと雪崩れこんだ。

 自分たちのテリトリーへ戻ってこられたことに安心し、要は泉の腕の中で力を抜く。腕の中の存在がふにゃりと溶けたことに気付いた泉は、玄関扉に一拍の間もたれた。

「泉……」

「湯、張ってやる。シャワー先に浴びろよ。あいつに触られて身体、気持ち悪いだろ?」

 シーツにくるまったまま浴室まで運ばれ、シャワーのお湯を優しくかけられる。しとしとと顔を濡らすシャワーの温かさは心地よかったが、安心感が今更大きな震えを呼び、要は歯を鳴らした。

 香によって高められた熱も冷めきらず、シーツの下で下半身が反応しているのが分かる。香を吸ったのは泉も同じだ。バスルームに二人分の浅い息が散った。

「泉、手首から血が出てる……」

「ああ、平気だ」

「ダメだよ、手当てしないと……!」

「一人で出来る。いいから、辛いだろ、身体。鎮めてこいよ」

 香にあてられて桃色に染まった要の裸体から目を反らし、泉が言う。バスルームの床に座りこんだ要は、疼く下半身を隠すため膝を擦り合わせた。

「…………っ。でも、苦しいのは泉も一緒だろ……?」

 ジーンズのため分かりにくいが、泉の体も熱を持っている。それに息もひどく乱れていた。

「言うなよ。死にたいくらいの気分なんだ」

 泉は美しいペールブロンドを掻きあげ、げんなりしたように言った。

「好きな相手が襲われてる姿を目の前で見せられて、反応した最低野郎なんだから」

「それは……っあの香のせいで……!」

 それなら、快楽に抗えず泉の前で達してしまった自分はもっと淫乱ではないか。泣きそうになった要の言わんとしていることが伝わったのだろう。お前は何も悪くない、と泉は慌てて言った。

「違う、お前は美作に無理やり触られたから仕方ない」

「だって、オレ……嫌だったのに……」

「分かってる。ごめんな、要」

「オレ、オレ……反応した……!」

「お前は悪くない。ごめん、そうじゃなくて……お前を傷つけたかったんじゃなくて、俺が言いたかったのは……」

 しゃくりあげる要の背中を優しくさすり、泉はやるせない表情を浮かべた。

「美作に偉そうなことは言えないと思ったんだ。俺も奴と同じ穴の狢だ。嫌がる要を無理やり自分のモノにしようとした」

 初めて要を抱いた時のことを指しているのだろう。泉の言葉に、要は激しく首を横に振った。

「違う!!」

「要?」

「オレ、オレは……っ」

 確かに泉に無理やり抱かれた時、悲しくて嫌だった。でもそれは、美作に感じるような気持ち悪さじゃなくて……。

「泉に初めて抱かれた時、悲しかったのは……っ。オレの言葉が届かないことが嫌だったんだ! 大切な相手に感じてしまう自分が嫌だったんだ」

 そこに揺るがない信頼関係があると思っているから。

「泉は美作監督とは違う! 監督に抱かれている時みたいな嫌悪感は、泉に抱かれた時はなかった! オレ……っ」

 さあさあと流れるシャワーの音にかき消されないよう、要は声を張った。

「泉のことが好きなのに……っ。監督と……」

 ようやく止まった涙が、またしても噴きだす。泉のことが好きだと自覚したのに、たとえ香のせいでも、別の男の手で果ててしまった事実が許せない。

 いくらシャワーで汚れを洗い流したって消えない気がして、要は子供のようにしゃくりあげた。しかし……。

「ん、ぅ……っ!?」

 一瞬、鼻腔を血の匂いが掠める。次の瞬間には、血に濡れた泉に両手首を掴まれ、バスルームの壁を背に押しつけられた。優しい雨のようなシャワーが降り注ぐ中、奪うように口付けられる。

「あ、うぅ……んむ、ぁ……」

 親猫が舐めるような優しさで下唇を舌で撫でられ、ゆっくりと歯列を割られる。むず痒さに下腹辺りがきゅう、とするのを感じながら口を開くと、すぐさま柔軟な舌が入り込んだ。

「ん……」

「あ、泉……ぁう」

 歯列をなぞった舌に今度は上顎をくすぐられ、背筋を心地よさが駆け抜ける。美作に無理やりされたキスとは違う。思わず目をつむり、要は大人しく舌を吸われた。

「本当か?」

 唇が触れ合う距離で、泉が尋ねる。キスの気持ちよさに溺れていた要は、蕩けた思考を捻った。

「え……?」

「お前が俺を好きだって……本当か?」

「……うん」

 頷いた瞬間、一ミリの隙もないほど固く抱きしめられる。ピタリと合った泉の厚い胸板から早い鼓動が聞こえてきて、要は瞳を潤ませた。

 泉の所作一つ一つから、喜びが伝わってくる。

「あ、ん……」

 目が合った瞬間、また唇を吸われて鼻にかかった声が出てしまう。今度はすぐに離れていった唇を名残惜しく思い目線で追いかけると、満面の笑みを浮かべた泉が愛しげにこちらを見下ろしていた。

「世界中に自慢して回りたい気分だ」

 濡れて重みを増した要の髪に指を通し、泉が笑う。翡翠の瞳を三日月にして笑う泉に、要はくしゃりと顔を歪めた。

「でも、オレ……泉以外に反応して……」

「関係ねえよ」

 要のまろい額に口付けを落とし、泉はあやすように言った。

「たとえお前が他の野郎に汚されても、俺が書き換えてやる。……お前が望めば、だけどな」

「そんなの……っ」

(言うまでもない。そんなの、決まってる……!)

 水を含んで重くなったシーツを床に落とし、要は背伸びして泉にキスをした。

「……抱いてよ、泉」

 充血した瞳で言い終える前に、泉によってもう一度抱きしめられた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...