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いつか通じ合うのだ僕らは
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美作のマンションを出てすぐにタクシーを捕まえた要と泉は、運転手の胡乱な目を無視し、自宅へと雪崩れこんだ。
自分たちのテリトリーへ戻ってこられたことに安心し、要は泉の腕の中で力を抜く。腕の中の存在がふにゃりと溶けたことに気付いた泉は、玄関扉に一拍の間もたれた。
「泉……」
「湯、張ってやる。シャワー先に浴びろよ。あいつに触られて身体、気持ち悪いだろ?」
シーツにくるまったまま浴室まで運ばれ、シャワーのお湯を優しくかけられる。しとしとと顔を濡らすシャワーの温かさは心地よかったが、安心感が今更大きな震えを呼び、要は歯を鳴らした。
香によって高められた熱も冷めきらず、シーツの下で下半身が反応しているのが分かる。香を吸ったのは泉も同じだ。バスルームに二人分の浅い息が散った。
「泉、手首から血が出てる……」
「ああ、平気だ」
「ダメだよ、手当てしないと……!」
「一人で出来る。いいから、辛いだろ、身体。鎮めてこいよ」
香にあてられて桃色に染まった要の裸体から目を反らし、泉が言う。バスルームの床に座りこんだ要は、疼く下半身を隠すため膝を擦り合わせた。
「…………っ。でも、苦しいのは泉も一緒だろ……?」
ジーンズのため分かりにくいが、泉の体も熱を持っている。それに息もひどく乱れていた。
「言うなよ。死にたいくらいの気分なんだ」
泉は美しいペールブロンドを掻きあげ、げんなりしたように言った。
「好きな相手が襲われてる姿を目の前で見せられて、反応した最低野郎なんだから」
「それは……っあの香のせいで……!」
それなら、快楽に抗えず泉の前で達してしまった自分はもっと淫乱ではないか。泣きそうになった要の言わんとしていることが伝わったのだろう。お前は何も悪くない、と泉は慌てて言った。
「違う、お前は美作に無理やり触られたから仕方ない」
「だって、オレ……嫌だったのに……」
「分かってる。ごめんな、要」
「オレ、オレ……反応した……!」
「お前は悪くない。ごめん、そうじゃなくて……お前を傷つけたかったんじゃなくて、俺が言いたかったのは……」
しゃくりあげる要の背中を優しくさすり、泉はやるせない表情を浮かべた。
「美作に偉そうなことは言えないと思ったんだ。俺も奴と同じ穴の狢だ。嫌がる要を無理やり自分のモノにしようとした」
初めて要を抱いた時のことを指しているのだろう。泉の言葉に、要は激しく首を横に振った。
「違う!!」
「要?」
「オレ、オレは……っ」
確かに泉に無理やり抱かれた時、悲しくて嫌だった。でもそれは、美作に感じるような気持ち悪さじゃなくて……。
「泉に初めて抱かれた時、悲しかったのは……っ。オレの言葉が届かないことが嫌だったんだ! 大切な相手に感じてしまう自分が嫌だったんだ」
そこに揺るがない信頼関係があると思っているから。
「泉は美作監督とは違う! 監督に抱かれている時みたいな嫌悪感は、泉に抱かれた時はなかった! オレ……っ」
さあさあと流れるシャワーの音にかき消されないよう、要は声を張った。
「泉のことが好きなのに……っ。監督と……」
ようやく止まった涙が、またしても噴きだす。泉のことが好きだと自覚したのに、たとえ香のせいでも、別の男の手で果ててしまった事実が許せない。
いくらシャワーで汚れを洗い流したって消えない気がして、要は子供のようにしゃくりあげた。しかし……。
「ん、ぅ……っ!?」
一瞬、鼻腔を血の匂いが掠める。次の瞬間には、血に濡れた泉に両手首を掴まれ、バスルームの壁を背に押しつけられた。優しい雨のようなシャワーが降り注ぐ中、奪うように口付けられる。
「あ、うぅ……んむ、ぁ……」
親猫が舐めるような優しさで下唇を舌で撫でられ、ゆっくりと歯列を割られる。むず痒さに下腹辺りがきゅう、とするのを感じながら口を開くと、すぐさま柔軟な舌が入り込んだ。
「ん……」
「あ、泉……ぁう」
歯列をなぞった舌に今度は上顎をくすぐられ、背筋を心地よさが駆け抜ける。美作に無理やりされたキスとは違う。思わず目をつむり、要は大人しく舌を吸われた。
「本当か?」
唇が触れ合う距離で、泉が尋ねる。キスの気持ちよさに溺れていた要は、蕩けた思考を捻った。
「え……?」
「お前が俺を好きだって……本当か?」
「……うん」
頷いた瞬間、一ミリの隙もないほど固く抱きしめられる。ピタリと合った泉の厚い胸板から早い鼓動が聞こえてきて、要は瞳を潤ませた。
泉の所作一つ一つから、喜びが伝わってくる。
「あ、ん……」
目が合った瞬間、また唇を吸われて鼻にかかった声が出てしまう。今度はすぐに離れていった唇を名残惜しく思い目線で追いかけると、満面の笑みを浮かべた泉が愛しげにこちらを見下ろしていた。
「世界中に自慢して回りたい気分だ」
濡れて重みを増した要の髪に指を通し、泉が笑う。翡翠の瞳を三日月にして笑う泉に、要はくしゃりと顔を歪めた。
「でも、オレ……泉以外に反応して……」
「関係ねえよ」
要のまろい額に口付けを落とし、泉はあやすように言った。
「たとえお前が他の野郎に汚されても、俺が書き換えてやる。……お前が望めば、だけどな」
「そんなの……っ」
(言うまでもない。そんなの、決まってる……!)
水を含んで重くなったシーツを床に落とし、要は背伸びして泉にキスをした。
「……抱いてよ、泉」
充血した瞳で言い終える前に、泉によってもう一度抱きしめられた。
自分たちのテリトリーへ戻ってこられたことに安心し、要は泉の腕の中で力を抜く。腕の中の存在がふにゃりと溶けたことに気付いた泉は、玄関扉に一拍の間もたれた。
「泉……」
「湯、張ってやる。シャワー先に浴びろよ。あいつに触られて身体、気持ち悪いだろ?」
シーツにくるまったまま浴室まで運ばれ、シャワーのお湯を優しくかけられる。しとしとと顔を濡らすシャワーの温かさは心地よかったが、安心感が今更大きな震えを呼び、要は歯を鳴らした。
香によって高められた熱も冷めきらず、シーツの下で下半身が反応しているのが分かる。香を吸ったのは泉も同じだ。バスルームに二人分の浅い息が散った。
「泉、手首から血が出てる……」
「ああ、平気だ」
「ダメだよ、手当てしないと……!」
「一人で出来る。いいから、辛いだろ、身体。鎮めてこいよ」
香にあてられて桃色に染まった要の裸体から目を反らし、泉が言う。バスルームの床に座りこんだ要は、疼く下半身を隠すため膝を擦り合わせた。
「…………っ。でも、苦しいのは泉も一緒だろ……?」
ジーンズのため分かりにくいが、泉の体も熱を持っている。それに息もひどく乱れていた。
「言うなよ。死にたいくらいの気分なんだ」
泉は美しいペールブロンドを掻きあげ、げんなりしたように言った。
「好きな相手が襲われてる姿を目の前で見せられて、反応した最低野郎なんだから」
「それは……っあの香のせいで……!」
それなら、快楽に抗えず泉の前で達してしまった自分はもっと淫乱ではないか。泣きそうになった要の言わんとしていることが伝わったのだろう。お前は何も悪くない、と泉は慌てて言った。
「違う、お前は美作に無理やり触られたから仕方ない」
「だって、オレ……嫌だったのに……」
「分かってる。ごめんな、要」
「オレ、オレ……反応した……!」
「お前は悪くない。ごめん、そうじゃなくて……お前を傷つけたかったんじゃなくて、俺が言いたかったのは……」
しゃくりあげる要の背中を優しくさすり、泉はやるせない表情を浮かべた。
「美作に偉そうなことは言えないと思ったんだ。俺も奴と同じ穴の狢だ。嫌がる要を無理やり自分のモノにしようとした」
初めて要を抱いた時のことを指しているのだろう。泉の言葉に、要は激しく首を横に振った。
「違う!!」
「要?」
「オレ、オレは……っ」
確かに泉に無理やり抱かれた時、悲しくて嫌だった。でもそれは、美作に感じるような気持ち悪さじゃなくて……。
「泉に初めて抱かれた時、悲しかったのは……っ。オレの言葉が届かないことが嫌だったんだ! 大切な相手に感じてしまう自分が嫌だったんだ」
そこに揺るがない信頼関係があると思っているから。
「泉は美作監督とは違う! 監督に抱かれている時みたいな嫌悪感は、泉に抱かれた時はなかった! オレ……っ」
さあさあと流れるシャワーの音にかき消されないよう、要は声を張った。
「泉のことが好きなのに……っ。監督と……」
ようやく止まった涙が、またしても噴きだす。泉のことが好きだと自覚したのに、たとえ香のせいでも、別の男の手で果ててしまった事実が許せない。
いくらシャワーで汚れを洗い流したって消えない気がして、要は子供のようにしゃくりあげた。しかし……。
「ん、ぅ……っ!?」
一瞬、鼻腔を血の匂いが掠める。次の瞬間には、血に濡れた泉に両手首を掴まれ、バスルームの壁を背に押しつけられた。優しい雨のようなシャワーが降り注ぐ中、奪うように口付けられる。
「あ、うぅ……んむ、ぁ……」
親猫が舐めるような優しさで下唇を舌で撫でられ、ゆっくりと歯列を割られる。むず痒さに下腹辺りがきゅう、とするのを感じながら口を開くと、すぐさま柔軟な舌が入り込んだ。
「ん……」
「あ、泉……ぁう」
歯列をなぞった舌に今度は上顎をくすぐられ、背筋を心地よさが駆け抜ける。美作に無理やりされたキスとは違う。思わず目をつむり、要は大人しく舌を吸われた。
「本当か?」
唇が触れ合う距離で、泉が尋ねる。キスの気持ちよさに溺れていた要は、蕩けた思考を捻った。
「え……?」
「お前が俺を好きだって……本当か?」
「……うん」
頷いた瞬間、一ミリの隙もないほど固く抱きしめられる。ピタリと合った泉の厚い胸板から早い鼓動が聞こえてきて、要は瞳を潤ませた。
泉の所作一つ一つから、喜びが伝わってくる。
「あ、ん……」
目が合った瞬間、また唇を吸われて鼻にかかった声が出てしまう。今度はすぐに離れていった唇を名残惜しく思い目線で追いかけると、満面の笑みを浮かべた泉が愛しげにこちらを見下ろしていた。
「世界中に自慢して回りたい気分だ」
濡れて重みを増した要の髪に指を通し、泉が笑う。翡翠の瞳を三日月にして笑う泉に、要はくしゃりと顔を歪めた。
「でも、オレ……泉以外に反応して……」
「関係ねえよ」
要のまろい額に口付けを落とし、泉はあやすように言った。
「たとえお前が他の野郎に汚されても、俺が書き換えてやる。……お前が望めば、だけどな」
「そんなの……っ」
(言うまでもない。そんなの、決まってる……!)
水を含んで重くなったシーツを床に落とし、要は背伸びして泉にキスをした。
「……抱いてよ、泉」
充血した瞳で言い終える前に、泉によってもう一度抱きしめられた。
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