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第9章 竜の世界
第9章 竜の世界 5~Parallel Universe
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第9章 竜の世界 5~Parallel Universe
●S-1:アレキサンダー男爵領/男爵邸
「すっかり、がらんとしてしまいましたね」
久しぶりに人気の少なくなった邸内を見て、リシャルはわずかに苦笑した。
20歳に届くかどうかといった、美貌の少年である。
兄であるクローリーに比べても魔法も剣も遥かに優れ、むしろ当主に相応しいと呼ばれるほどだ。
異世界召喚者のエルフたちが続々と集まってきたここ2年程の間は、男爵邸が地域の集会所のようになっていた反動だった。
彼ら異世界召喚者のエルフたちが一斉に出払うと、このこじんまりとした邸内も随分と広く感じられる。
「……絶好の機会なのでは?」
傍に控えるメイドのリエラが口を開く。
普段は男爵家のメイドとして慎ましくしているが、個人的な感情でリシャルに忠誠を誓う少女だ。
「機会って、何をです?」
リシャルは小さく笑った。
判っている。
リエラを含めて何人もの人間が、クローリーよりリシャルを望んでいることを。
「……と、返したいところだけど、前にも言ったよね」
リエラは黙って小さく頷く。
「地方の男爵位なんて、汚名を着てまで行う下克上には小さすぎると思うんだ」
リシャルの声は明るい。
「もっと大きなもののためなら危険を冒す価値はあると思うけど、今はまだその時じゃないと思うんだ」
「……はい」
「しばらくは地盤固めに徹するつもりだよ」
リシャルは韜晦した。
「畏まりました」
そう言われてしまうと、リエラは黙って引き下がざるを得ない。
「判ってくれたなら、しばらくは邸内の仕事を頼むね。さがってよいよ。必要なときは必ず呼ぶから」
「はい」
リエラは一礼して退った。
後ろ髪引かれる思いもあるが仕方ないのだ。
彼女が姿を消して、しばらくしてリシャルは溜息を吐いた。
「みんな僕を買いかぶりすぎてると思うな」
人差し指でこめかみを叩く。
そもそも男爵位をわざわざ求めなくても、隣国カストリア子爵家に婿入りする算段になっているのだ。
成り行きではあったが。
跡継ぎが姫しかいない子爵家なのだから、リシャルが自動的に次期当主になるのは確実なのだ。
なによりアレキサンダー男爵領よりもずっと豊かな土地だ。
鉱石を男爵領に輸出しているほどだった。
「それにね。僕はどうやら……兄上にそっくりな困った性癖があるみたいなんだ」
自分でも笑ってしまう。
冷酷さも持っているはずの自分なのに。
「僕も見てみたくなったのさ。兄上たちが作る国をね」
窓から見下ろすと、初期の頃の漁師小屋からはだいぶマシに改築された石鹸工場が見えた。
ほぼ常夜灯になっているガス灯。
コンクリートを使った建物や道路。
ドワーフの長ガイウスの鍛冶工房からは激しい音と、煙突から立ち上る煙が絶えない。
「一応は僕も魔術師だからかもしれないね」
良く見ると、窓のガラスが新しい、より透明度の高い綺麗なものになっていることに気づいた。
●S-2:竜の国/水晶の間
「なんつーか……ワケわかんねーんスけど」
クローリーは素直に白状した。
話が飛びすぎてる気がしたからだ。
エルフ姿だったものがドラゴンになるのはまだ良い。
正体がこれだ、と言われても実際に魔法で可能なことなのだ。
建物の大きさや形状が元の姿の状態に合わせてあるというのも合点はいった。
それよりもエルフやドラゴンがこの世界の存在ではないというのが判らない。
神話の時代から登場しているものをいきなり否定されても困る。
「まるで、あんたらも異世界召喚者とでも言うんスかね?」
「半分は正解なのだ」
オフィオンは頷いた(ような姿勢を見せた)。
「我らは別世界から来たのだ。ヒトがまだ国を作るよりはるか前だがな」
「この世界の人間の有史以前じゃと……?」
ヒンカが唸った。
本来は学芸員である彼女は様々な歴史にも通じている。
元々の地球の歴史も、この世界の歴史も。
彼女のいた世界でも、謎の存在が様々なことを行ったとしか思えない痕跡や、伝承が残っていた。
神、あるいは宇宙人など、散々陰謀論のネタにされたりもしてきた。
この世界でも見えない力が働いたようなことが幾つもあった。
「まるで自分が神にでもなったような物言いじゃな」
ヒンカの言葉にオフィオンが硫黄臭い息を吐いた。
笑っているのだ。
「そこまで自惚れてはおらぬよ。せいぜいが、よく言っても、我らはこの世界の間借り人でしかない」
「……ま、異世界からこっちに人を呼び出せるくらいなんだから、無くはない話ではあるんスが……」
「お主は、魔術師だな?ならば、異世界召喚の儀式を少しは理解していよう?」
「オレは落ちこぼれの味噌っかすなんで、詳しくは知らねーっス」
「そうか」
オフィオンは笑った。
吐息がクローリーの頭の上を通り過ぎて、髪の毛を何本か揺らめかせた。
「異世界から召喚の儀式は知っていても、異世界への移動を行う儀式がないのは知らぬか?
「……そーいえば、聞いたことないっスな」
「異世界への移動は一方通行だからだ」
「ん……だっていっても、こっちから行けない理由にはならねー気がするっス」
オフィオンは笑う。
この人間の魔術師は、『そういうもの』と結論付けるタイプではなく、思考や思索をするタイプらしい。
自分でも不思議には思っていても、勝手に自分の脳内で結論を創造するのではない。
面白かった。
研究者にはしばしばみられるものだ。
「否。これは充分に検証した結果なのだ。一つの扉からは一つの方向にしか進めない。お前たちの世界で召喚された人物が、元の世界へ帰った話はあったかね?」
「聞いたことねーっスな」
「そこだよ。別な扉からなら行くことは可能だ。来た扉からは戻れない」
「……ちと、分からなくなってきたっス」
クローリーが両手を挙げる。
猿でもできるポーズだ。
「つまりだ。ある世界へ行くことのできる扉はある。ある世界からこちらへ来る扉もある。だが。同じ扉ではないということだ」
「いや。それはなんとなくわかったんスが……何を言いたいのかが見えねーんス」
「意外と頭の悪い男だな。ドラゴンもエルフも元の世界への帰還方法を求めている民なのだよ」
「そんな話は初めて聞きますが」
大人しく控えていたルゥが叫んだ。
無理もない。
彼はそもそも当事者である。
自分が知らない情報があるのか、それとも煙に巻こうとされているのか判断がつかない。
「エルフは……世代を重ねているうちに失伝したのだろうな」
オフィオンが静かに言った。
今までも来訪したエルフはみんな知らなかったくらいだ。
不思議はない。
「だからこそ、どちらも人族たちと距離を置いているのだ」
「孤高の存在だからとかじゃねーんスか?」
「違うな」
オフィオンは否定した。
エルフの姿だったら首を振っていたのかもしれない。
「手短に言おう。家族単位だったのか村単位だったのか、あるいはそれより大きな規模だったのかは判らないが、我らはあるときに他の世界から来た。もちろん召喚とかではないぞ」
「そそ……扉ってやつっスかね」
「あるいは事故か、もしかしたら異世界への扉が災害的に大きな規模で開いたのかもしれない。……がそれは何とも言えん」
オフィオンすら生まれる前の話なのだ。
親や先祖たちからの伝聞でしかない。
「ともかく、我らはこの世界に来た。それは事実だ」
「へー」
「自ら望んできていないために元の世界へ戻ろうとした。それで現在に至る」
「端折りすぎっス!」
クローリーが水平チョップのポーズをしてツッコんだ。
「隠遁してる理由が判らねーっス。それと何だかんだ言ってちょいちょい人間の世界にも顔出しているじゃねースか」
「そんなに不思議かね?」
オフィオンは意外な顔をした。ように見えた。
「我らが来訪した時にはすでに人族がたくさんいたからな。まだ国などできていない状態だったがね」
「帝国ができて1000年は経ってるはずだし、その前にも色んな形態のものはあったろうから、エラく気の長い話っスな」
「儂は3000年生きているが」
「ドラゴンはおかしいっス」
クローリーはがっくりと肩を落とす。
おそらく時間の感覚が違うのだろう。
人間と同じく『年』で表現してくれてるのは理解しやすいように説明してくれてるサービスなのか、それとも人間の文化を受け入れているのかは不明だ。
ただ、天文学が進んでいれば時間の感覚と暦は必ず発生するものなのだ。
その形は少しづつ独自性はあっても。
「1000年生きているものもドラゴンには何頭もおるよ」
そう言って、オフィオンは周囲の人々に目を向ける。
ヴァースやコンコードの姿を認めて笑う。
「人やエルフの中に混じって過ごす変わり者もたまにはいるがね」
「あー、まー。美少女戦士になって皇帝を助けたっていう伝説もあるわけっスからな」
「ほう。美少女?」
「こう、おっぱいの大きな半裸の美少女だって……」
「それは捏造だ!断固抗議する!」
ヴァースが声を荒げた。
初代皇帝の友人として帝国の建国に携わったのは他ならぬ彼だ。
だが、女性に化けた覚えはない。
「なんであんたが青筋立てるんスか」
クローリーは眉を顰める。
「おっぱいには夢とロマンが詰まってるんスよ。あ、さにゃにはないっスけどな」
「なんだとー?」
「きゅー!」
「きゅー!」
沙那が拳を振り上げる。
「元々、この世界のものではない儂らは、人族たちへの干渉を避けるように山に籠ったのだ。このようにな」
オフィオンは沙那を無視した。
「巨大なままでは見つかりやすいのと、小さい体の方が便利なのでな。エルフや人間の姿を借りることにしている。幼竜ではまだ生まれたままの姿だがな」
「どうせなら親指トムぐらいに小さくなった方がより便利で隠れやすい気がしますガナ」
マーチスは呟いた。
童話の方なのかアニメーションの方を言っているのかは判らない。
彼はいまだに時代背景が不明なのだ。
「もちろんさらに小さくもなれるがね。人やエルフが舞い込んできたときに、あるい潜入する時にも便利なのでな」
「人はうじゃうじゃいるっスしなー」
「そうして、人族の伝承なども調べつつ、元の世界へ戻る扉を探しておったのだ。もちろんエルフも同様だ」
「お互い真似っ子したのー?」
沙那が言った。
無視されて、上げた拳を下すことができずにおろおろしている。
「真似し合ったわけではないんだがな。似た結論に達したことは確かだろう。我ら竜族は深き山に、エルフどもは島を空中に浮かべて空へと離れた」
「宇宙大作戦みたいでござるな。宇宙戦艦で宇宙を探検しながら現地の文明には干渉しないとか言いつつ、介入しまくる艦長が出てくる……」
これは賢者だ。
「拙者が子供のころに嫌というほど観たでござるな」
「宇宙……それは人類に残された最後の開拓地デスナ?」
「ちゃーらーちゃらららー」
賢者とマーチスが肩を組んで鼻歌を歌い始める。
どうもこの二人は似た時代から来たのかもしれない。
「しっかし。なおさらわかんねーっスな。エルフがドラゴンへ使いを送る意味が」
クローリーはルゥをチラ見した。
元はと言えば、この少年が竜族の世界へ行くことが全ての始まりだったのだ。
「エルフどもから聞かなかったのかね?」
オフィオンは意外そうな顔をした。はずである。
「僕が知っているのは、先代のエルフが亡くなったら新しい使いを送るという話だけです。いまだに使いのエルフは誰一人、帰国してないということと」
ルゥはほんとにそれだけしか聞いていないのだ。
使いは大使のようなものだと聞かされて、沢山のことを学んだ優秀な人材が選ばれるということだけ。
「意外だな。しかし、なるほど。我ら竜族とエルフの争いが起きる意味も少し理解できた。互いに齟齬があるのだな」
「めっちゃ仲が悪そーな感じだったスが、そうでもないんスか?」
「緩やかな協力関係にあると考えていたんだがな」
「派手に戦ったりしてたみたいっスが?」
「先走った者がいたんだろう」
オフィオンはヴァースを見た。
もっとも先走りやすい古龍なのだ。
ヴァースは少しバツの悪そうな顔をした。
「お互いが協力して、各々の元の世界への帰還の研究をしていたのじゃよ」
「……でも、エルフが送ってきたのはチビっこっスよ?」
言われてルゥがムっとする。
確かに少年ではあるが、子ども扱いは反発したくなるお年頃なのだ。
「人選に問題があったのかは判らぬが、ちゃんとした見識を持った若い人材を送ってきていると思う」
「若い、だけじゃないのー?」
沙那がルゥを後ろからぎゅっと抱く。
ほとんどぬいぐるみか何かのような扱いだ。
それか子供好きなだけかもしれない。
「今までも派遣された者に間違いはなかった。現実に、帰還の目星が付き始めていたのだからな」
「へ?」
「この地に扉があるのだよ。それも特定の世界へではなく、ある程度のコントロールができる状態のな」
「えええ!?マジっスか!?」
「代々のエルフの使いは、それで元の世界へと旅立っていく実験に志願して、いなくなっただけなのだ」
「それじゃ……生贄としてドラゴンに食べられるというのは……」
ルゥだった。
覚悟してきたのだ。
「完全な誤解。あるいはデマじゃな」
オフィオンが笑った。
「そもそもドラゴンは人やエルフを食そうとは思わん。普段からエルフや人間の姿をとっているのだから、共食いのようになってしまって気が進まぬだろうよ」
「そんな重要なことを俺たち、第三者の人間たちに話しても良かったのか?」
シュラハトが目を細めた。
今一つ疑わしく思っているのだろう。
「エルフどもと一緒に来たのだから、協力関係にある特殊な事情を持った人間と認識していたのだが違うのかね?」
「いやまあ、そりゃ協力し合ってはいるっスな」
「それにだ。そこにいる連中の髪の毛を見ればな……」
「髪?」
沙那が桃色金髪のツインテールを掴んでみる。
もうすっかり、この色にも慣れてしまった感がある。
「金属光沢の色は世界の扉を潜った証拠なのだ。エルフどもがみな金属光沢の髪をしているのもそうだ。世界を超えるとそのような影響を受けるらしいのだ。それに、我らドラゴンも金属光沢の鱗を持つのはそのためなのだ」
「本気っスか!?」
「なるほど。それで合点がいったぞ。妾らが何故にエルフと呼ばれるのか。異世界召喚者はことごとく金属光沢の……つまり、エルフと同様の髪の色になるからなのじゃな?」
ヒンカが手を打った。
長年の謎が解けたのだ。
「なので、儂は、その人間たちもエルフどもと同じよう帰還するための協力者だと見ていたのだが……違うのか?」
オフィオンはギロリと人間たちを睨む。
「違うのなら……」
巨大な口から炎が見える。
「協力者なのは確かっスが……」
クローリーが両掌を振った。
「面白がって付いてきたというか……いや。元の世界へ帰還させたいというのは確かにあって……」
「さにゃちゃん。元の世界へ戻りたい?」
マリエッラが沙那に訊いた。
「え?」
「家族に会いたくはないのぉ?」
「んー……けっこー面白い夢の中から覚めるのはちょっと惜しいけどー。ベッドから落ちて目覚めるオチよりは面白そー」
沙那は未だにこれを夢の中の出来事としか認識していない。
そうでもなければ現代の平和な日本の中学生が銃をブッパなしたりなどできない。
禁忌に抵抗があるだろう。
夢の中だと思うからこそできたのだ。
彼女にとってゲームの中のゾンビを撃つような感覚だった。
リアルなVRのようなものと思っていたのかもしれない。
「次のぼーけん、というかー。そういう展開アリだしねー」
「さにゃ。……帰りたいんスか?」
「まーねー」
「そっスか……」
クローリーは少し寂しい気がした。
思い返せば沙那と出会ってからはなかなか楽しく劇的なことが起きていた。
もちろん……。
「ちと残念スが、おっぱいキャラはマリ姐さんと被るところもあるっスしな」
「それいうか!」
沙那が飛び蹴りを入れた。
ミニスカートで。
ぺんぎんたちも、手に持ったペンギンサーベル(という名のミスリルの棒)で、クローリーをド突き回した。
「いてっ。いてーっス」
「で、ある程度コントロールできる何某の扉っていうのはどこにあるのだ?」
ただ一人、常識人で冷静なルシエが訊いた。
彼女もまた元の世界への未練があるのかもしれない。
「この場にあるぞ」
オフィオンはあっさり答えた。
「だからこそ、ここに案内したのだ」
「え?」
「へ?」
オフィオンが手を翳す。
魔法で隠蔽されていたものが姿を見せる。
「高度な透明化っスな……」
それまでただの何もなかった空間に直径2mほどの円形のものが浮かんでいた。
支えるものは何もない。浮いているのだ。
それは丸い何かにしか見えなかった。
「舵輪のようだな。大きいが」
船乗りであるルシエはそう感じた。
「なんていうか馬車の車輪だな?」
これはシュラハトだ。
「占いカードの運命の輪って感じにも見えますネエ」
マーチスはこの世界のカード占いに例えた。
もっとも彼の世界にもタロットカードはある。
「どっちかっていうとー。ルーレットぽくなーいー?」
「ルーレット?」
「くるくる回してー玉入れてー数字化や色を当てるとお金が儲かるやつー」
「博打っスか……」
沙那にはむしろゲームではお馴染みのものだ。
彼女自身カジノでルーレットをプレイしたことはないが、ドラマや映画の知識としてはポピュラーだった。
「博打という意味ではそうかもしれんな。通ったエルフは何人もいるが、戻って来たという話は未だにない」
オフィオンはこともなげに言った。
「でも、色が赤黒じゃなくて虹色っていうのがーなんか不思議だねー」
「危険な香りがしまスナ」
「その輪は数代前のエルフが設置したものだ。空間魔法を制御するものだというがなかなか不安定に思う」
オフィオンの感想はそうだ。
「だが、先代のエルフは法則性に気付いたので自分で実験するといって、中に消えた」
「消えたのー!?」
「1年待ったがリアクションがなかったので、新しい使いをエルフに求めた。この魔法装置自体がエルフの魔術だからな」
ドラゴンにとって1年がどれほどの意味を持つのかは判らない。
人間にとっての5分か10分かもしれない。
そうだとしたら、実は気が短いのかもしれなかった。
「もしも、完全な確認が取れたら、儂らも続くつもりじゃ。この世界にいつまでも迷惑はかけられんからな。おそらくはエルフどももだろうな」
「すると……僕が挑戦するべきなんですね」
ルゥが息を呑んだ。
死ぬ覚悟で来ているのだから、問題はない。
そう自分に言い聞かせてるのだった。
「ちょっとまってー!」
沙那が一歩前に出た。
「ここは子供じゃなく、おねーさんが先に行くべきー!」
「おね……さにゃも子供みてーなものじゃないっスか」
「ていっ!」
回し蹴りだった。
この娘に恥じらいはないのだろうか。
「いてっ」
「夢の世界の主人公としては、最初に飛び込んでー……目を覚ますか、新しい冒険の始まりになるのかー……わくわくするねー!」
夢の中にいるつもりの沙那にとって怖いものはめったにない。
Gが苦手だが、この世界ではめったに見なかった。
気持ちは無敵だ。
「さにゃ……」
「で、これ、どう使うのー?回せば良いのー?」
「何代か前のエルフが説明書きを置いて行っているから、そちらを先に見たほうが良い」
オフィオンは少し頭が痛くなった。
この人間たちは危機感がないのだろうか。
特にこの娘は。
「む?なら、クロちゃん!お勉強はキミの仕事だー!さあ、その日記を開くがよい!」
沙那が王様口調で宣言した。
何かのゲームの影響なのだろう。
「面倒事はオレってことっスな……」
●S-1:アレキサンダー男爵領/男爵邸
「すっかり、がらんとしてしまいましたね」
久しぶりに人気の少なくなった邸内を見て、リシャルはわずかに苦笑した。
20歳に届くかどうかといった、美貌の少年である。
兄であるクローリーに比べても魔法も剣も遥かに優れ、むしろ当主に相応しいと呼ばれるほどだ。
異世界召喚者のエルフたちが続々と集まってきたここ2年程の間は、男爵邸が地域の集会所のようになっていた反動だった。
彼ら異世界召喚者のエルフたちが一斉に出払うと、このこじんまりとした邸内も随分と広く感じられる。
「……絶好の機会なのでは?」
傍に控えるメイドのリエラが口を開く。
普段は男爵家のメイドとして慎ましくしているが、個人的な感情でリシャルに忠誠を誓う少女だ。
「機会って、何をです?」
リシャルは小さく笑った。
判っている。
リエラを含めて何人もの人間が、クローリーよりリシャルを望んでいることを。
「……と、返したいところだけど、前にも言ったよね」
リエラは黙って小さく頷く。
「地方の男爵位なんて、汚名を着てまで行う下克上には小さすぎると思うんだ」
リシャルの声は明るい。
「もっと大きなもののためなら危険を冒す価値はあると思うけど、今はまだその時じゃないと思うんだ」
「……はい」
「しばらくは地盤固めに徹するつもりだよ」
リシャルは韜晦した。
「畏まりました」
そう言われてしまうと、リエラは黙って引き下がざるを得ない。
「判ってくれたなら、しばらくは邸内の仕事を頼むね。さがってよいよ。必要なときは必ず呼ぶから」
「はい」
リエラは一礼して退った。
後ろ髪引かれる思いもあるが仕方ないのだ。
彼女が姿を消して、しばらくしてリシャルは溜息を吐いた。
「みんな僕を買いかぶりすぎてると思うな」
人差し指でこめかみを叩く。
そもそも男爵位をわざわざ求めなくても、隣国カストリア子爵家に婿入りする算段になっているのだ。
成り行きではあったが。
跡継ぎが姫しかいない子爵家なのだから、リシャルが自動的に次期当主になるのは確実なのだ。
なによりアレキサンダー男爵領よりもずっと豊かな土地だ。
鉱石を男爵領に輸出しているほどだった。
「それにね。僕はどうやら……兄上にそっくりな困った性癖があるみたいなんだ」
自分でも笑ってしまう。
冷酷さも持っているはずの自分なのに。
「僕も見てみたくなったのさ。兄上たちが作る国をね」
窓から見下ろすと、初期の頃の漁師小屋からはだいぶマシに改築された石鹸工場が見えた。
ほぼ常夜灯になっているガス灯。
コンクリートを使った建物や道路。
ドワーフの長ガイウスの鍛冶工房からは激しい音と、煙突から立ち上る煙が絶えない。
「一応は僕も魔術師だからかもしれないね」
良く見ると、窓のガラスが新しい、より透明度の高い綺麗なものになっていることに気づいた。
●S-2:竜の国/水晶の間
「なんつーか……ワケわかんねーんスけど」
クローリーは素直に白状した。
話が飛びすぎてる気がしたからだ。
エルフ姿だったものがドラゴンになるのはまだ良い。
正体がこれだ、と言われても実際に魔法で可能なことなのだ。
建物の大きさや形状が元の姿の状態に合わせてあるというのも合点はいった。
それよりもエルフやドラゴンがこの世界の存在ではないというのが判らない。
神話の時代から登場しているものをいきなり否定されても困る。
「まるで、あんたらも異世界召喚者とでも言うんスかね?」
「半分は正解なのだ」
オフィオンは頷いた(ような姿勢を見せた)。
「我らは別世界から来たのだ。ヒトがまだ国を作るよりはるか前だがな」
「この世界の人間の有史以前じゃと……?」
ヒンカが唸った。
本来は学芸員である彼女は様々な歴史にも通じている。
元々の地球の歴史も、この世界の歴史も。
彼女のいた世界でも、謎の存在が様々なことを行ったとしか思えない痕跡や、伝承が残っていた。
神、あるいは宇宙人など、散々陰謀論のネタにされたりもしてきた。
この世界でも見えない力が働いたようなことが幾つもあった。
「まるで自分が神にでもなったような物言いじゃな」
ヒンカの言葉にオフィオンが硫黄臭い息を吐いた。
笑っているのだ。
「そこまで自惚れてはおらぬよ。せいぜいが、よく言っても、我らはこの世界の間借り人でしかない」
「……ま、異世界からこっちに人を呼び出せるくらいなんだから、無くはない話ではあるんスが……」
「お主は、魔術師だな?ならば、異世界召喚の儀式を少しは理解していよう?」
「オレは落ちこぼれの味噌っかすなんで、詳しくは知らねーっス」
「そうか」
オフィオンは笑った。
吐息がクローリーの頭の上を通り過ぎて、髪の毛を何本か揺らめかせた。
「異世界から召喚の儀式は知っていても、異世界への移動を行う儀式がないのは知らぬか?
「……そーいえば、聞いたことないっスな」
「異世界への移動は一方通行だからだ」
「ん……だっていっても、こっちから行けない理由にはならねー気がするっス」
オフィオンは笑う。
この人間の魔術師は、『そういうもの』と結論付けるタイプではなく、思考や思索をするタイプらしい。
自分でも不思議には思っていても、勝手に自分の脳内で結論を創造するのではない。
面白かった。
研究者にはしばしばみられるものだ。
「否。これは充分に検証した結果なのだ。一つの扉からは一つの方向にしか進めない。お前たちの世界で召喚された人物が、元の世界へ帰った話はあったかね?」
「聞いたことねーっスな」
「そこだよ。別な扉からなら行くことは可能だ。来た扉からは戻れない」
「……ちと、分からなくなってきたっス」
クローリーが両手を挙げる。
猿でもできるポーズだ。
「つまりだ。ある世界へ行くことのできる扉はある。ある世界からこちらへ来る扉もある。だが。同じ扉ではないということだ」
「いや。それはなんとなくわかったんスが……何を言いたいのかが見えねーんス」
「意外と頭の悪い男だな。ドラゴンもエルフも元の世界への帰還方法を求めている民なのだよ」
「そんな話は初めて聞きますが」
大人しく控えていたルゥが叫んだ。
無理もない。
彼はそもそも当事者である。
自分が知らない情報があるのか、それとも煙に巻こうとされているのか判断がつかない。
「エルフは……世代を重ねているうちに失伝したのだろうな」
オフィオンが静かに言った。
今までも来訪したエルフはみんな知らなかったくらいだ。
不思議はない。
「だからこそ、どちらも人族たちと距離を置いているのだ」
「孤高の存在だからとかじゃねーんスか?」
「違うな」
オフィオンは否定した。
エルフの姿だったら首を振っていたのかもしれない。
「手短に言おう。家族単位だったのか村単位だったのか、あるいはそれより大きな規模だったのかは判らないが、我らはあるときに他の世界から来た。もちろん召喚とかではないぞ」
「そそ……扉ってやつっスかね」
「あるいは事故か、もしかしたら異世界への扉が災害的に大きな規模で開いたのかもしれない。……がそれは何とも言えん」
オフィオンすら生まれる前の話なのだ。
親や先祖たちからの伝聞でしかない。
「ともかく、我らはこの世界に来た。それは事実だ」
「へー」
「自ら望んできていないために元の世界へ戻ろうとした。それで現在に至る」
「端折りすぎっス!」
クローリーが水平チョップのポーズをしてツッコんだ。
「隠遁してる理由が判らねーっス。それと何だかんだ言ってちょいちょい人間の世界にも顔出しているじゃねースか」
「そんなに不思議かね?」
オフィオンは意外な顔をした。ように見えた。
「我らが来訪した時にはすでに人族がたくさんいたからな。まだ国などできていない状態だったがね」
「帝国ができて1000年は経ってるはずだし、その前にも色んな形態のものはあったろうから、エラく気の長い話っスな」
「儂は3000年生きているが」
「ドラゴンはおかしいっス」
クローリーはがっくりと肩を落とす。
おそらく時間の感覚が違うのだろう。
人間と同じく『年』で表現してくれてるのは理解しやすいように説明してくれてるサービスなのか、それとも人間の文化を受け入れているのかは不明だ。
ただ、天文学が進んでいれば時間の感覚と暦は必ず発生するものなのだ。
その形は少しづつ独自性はあっても。
「1000年生きているものもドラゴンには何頭もおるよ」
そう言って、オフィオンは周囲の人々に目を向ける。
ヴァースやコンコードの姿を認めて笑う。
「人やエルフの中に混じって過ごす変わり者もたまにはいるがね」
「あー、まー。美少女戦士になって皇帝を助けたっていう伝説もあるわけっスからな」
「ほう。美少女?」
「こう、おっぱいの大きな半裸の美少女だって……」
「それは捏造だ!断固抗議する!」
ヴァースが声を荒げた。
初代皇帝の友人として帝国の建国に携わったのは他ならぬ彼だ。
だが、女性に化けた覚えはない。
「なんであんたが青筋立てるんスか」
クローリーは眉を顰める。
「おっぱいには夢とロマンが詰まってるんスよ。あ、さにゃにはないっスけどな」
「なんだとー?」
「きゅー!」
「きゅー!」
沙那が拳を振り上げる。
「元々、この世界のものではない儂らは、人族たちへの干渉を避けるように山に籠ったのだ。このようにな」
オフィオンは沙那を無視した。
「巨大なままでは見つかりやすいのと、小さい体の方が便利なのでな。エルフや人間の姿を借りることにしている。幼竜ではまだ生まれたままの姿だがな」
「どうせなら親指トムぐらいに小さくなった方がより便利で隠れやすい気がしますガナ」
マーチスは呟いた。
童話の方なのかアニメーションの方を言っているのかは判らない。
彼はいまだに時代背景が不明なのだ。
「もちろんさらに小さくもなれるがね。人やエルフが舞い込んできたときに、あるい潜入する時にも便利なのでな」
「人はうじゃうじゃいるっスしなー」
「そうして、人族の伝承なども調べつつ、元の世界へ戻る扉を探しておったのだ。もちろんエルフも同様だ」
「お互い真似っ子したのー?」
沙那が言った。
無視されて、上げた拳を下すことができずにおろおろしている。
「真似し合ったわけではないんだがな。似た結論に達したことは確かだろう。我ら竜族は深き山に、エルフどもは島を空中に浮かべて空へと離れた」
「宇宙大作戦みたいでござるな。宇宙戦艦で宇宙を探検しながら現地の文明には干渉しないとか言いつつ、介入しまくる艦長が出てくる……」
これは賢者だ。
「拙者が子供のころに嫌というほど観たでござるな」
「宇宙……それは人類に残された最後の開拓地デスナ?」
「ちゃーらーちゃらららー」
賢者とマーチスが肩を組んで鼻歌を歌い始める。
どうもこの二人は似た時代から来たのかもしれない。
「しっかし。なおさらわかんねーっスな。エルフがドラゴンへ使いを送る意味が」
クローリーはルゥをチラ見した。
元はと言えば、この少年が竜族の世界へ行くことが全ての始まりだったのだ。
「エルフどもから聞かなかったのかね?」
オフィオンは意外そうな顔をした。はずである。
「僕が知っているのは、先代のエルフが亡くなったら新しい使いを送るという話だけです。いまだに使いのエルフは誰一人、帰国してないということと」
ルゥはほんとにそれだけしか聞いていないのだ。
使いは大使のようなものだと聞かされて、沢山のことを学んだ優秀な人材が選ばれるということだけ。
「意外だな。しかし、なるほど。我ら竜族とエルフの争いが起きる意味も少し理解できた。互いに齟齬があるのだな」
「めっちゃ仲が悪そーな感じだったスが、そうでもないんスか?」
「緩やかな協力関係にあると考えていたんだがな」
「派手に戦ったりしてたみたいっスが?」
「先走った者がいたんだろう」
オフィオンはヴァースを見た。
もっとも先走りやすい古龍なのだ。
ヴァースは少しバツの悪そうな顔をした。
「お互いが協力して、各々の元の世界への帰還の研究をしていたのじゃよ」
「……でも、エルフが送ってきたのはチビっこっスよ?」
言われてルゥがムっとする。
確かに少年ではあるが、子ども扱いは反発したくなるお年頃なのだ。
「人選に問題があったのかは判らぬが、ちゃんとした見識を持った若い人材を送ってきていると思う」
「若い、だけじゃないのー?」
沙那がルゥを後ろからぎゅっと抱く。
ほとんどぬいぐるみか何かのような扱いだ。
それか子供好きなだけかもしれない。
「今までも派遣された者に間違いはなかった。現実に、帰還の目星が付き始めていたのだからな」
「へ?」
「この地に扉があるのだよ。それも特定の世界へではなく、ある程度のコントロールができる状態のな」
「えええ!?マジっスか!?」
「代々のエルフの使いは、それで元の世界へと旅立っていく実験に志願して、いなくなっただけなのだ」
「それじゃ……生贄としてドラゴンに食べられるというのは……」
ルゥだった。
覚悟してきたのだ。
「完全な誤解。あるいはデマじゃな」
オフィオンが笑った。
「そもそもドラゴンは人やエルフを食そうとは思わん。普段からエルフや人間の姿をとっているのだから、共食いのようになってしまって気が進まぬだろうよ」
「そんな重要なことを俺たち、第三者の人間たちに話しても良かったのか?」
シュラハトが目を細めた。
今一つ疑わしく思っているのだろう。
「エルフどもと一緒に来たのだから、協力関係にある特殊な事情を持った人間と認識していたのだが違うのかね?」
「いやまあ、そりゃ協力し合ってはいるっスな」
「それにだ。そこにいる連中の髪の毛を見ればな……」
「髪?」
沙那が桃色金髪のツインテールを掴んでみる。
もうすっかり、この色にも慣れてしまった感がある。
「金属光沢の色は世界の扉を潜った証拠なのだ。エルフどもがみな金属光沢の髪をしているのもそうだ。世界を超えるとそのような影響を受けるらしいのだ。それに、我らドラゴンも金属光沢の鱗を持つのはそのためなのだ」
「本気っスか!?」
「なるほど。それで合点がいったぞ。妾らが何故にエルフと呼ばれるのか。異世界召喚者はことごとく金属光沢の……つまり、エルフと同様の髪の色になるからなのじゃな?」
ヒンカが手を打った。
長年の謎が解けたのだ。
「なので、儂は、その人間たちもエルフどもと同じよう帰還するための協力者だと見ていたのだが……違うのか?」
オフィオンはギロリと人間たちを睨む。
「違うのなら……」
巨大な口から炎が見える。
「協力者なのは確かっスが……」
クローリーが両掌を振った。
「面白がって付いてきたというか……いや。元の世界へ帰還させたいというのは確かにあって……」
「さにゃちゃん。元の世界へ戻りたい?」
マリエッラが沙那に訊いた。
「え?」
「家族に会いたくはないのぉ?」
「んー……けっこー面白い夢の中から覚めるのはちょっと惜しいけどー。ベッドから落ちて目覚めるオチよりは面白そー」
沙那は未だにこれを夢の中の出来事としか認識していない。
そうでもなければ現代の平和な日本の中学生が銃をブッパなしたりなどできない。
禁忌に抵抗があるだろう。
夢の中だと思うからこそできたのだ。
彼女にとってゲームの中のゾンビを撃つような感覚だった。
リアルなVRのようなものと思っていたのかもしれない。
「次のぼーけん、というかー。そういう展開アリだしねー」
「さにゃ。……帰りたいんスか?」
「まーねー」
「そっスか……」
クローリーは少し寂しい気がした。
思い返せば沙那と出会ってからはなかなか楽しく劇的なことが起きていた。
もちろん……。
「ちと残念スが、おっぱいキャラはマリ姐さんと被るところもあるっスしな」
「それいうか!」
沙那が飛び蹴りを入れた。
ミニスカートで。
ぺんぎんたちも、手に持ったペンギンサーベル(という名のミスリルの棒)で、クローリーをド突き回した。
「いてっ。いてーっス」
「で、ある程度コントロールできる何某の扉っていうのはどこにあるのだ?」
ただ一人、常識人で冷静なルシエが訊いた。
彼女もまた元の世界への未練があるのかもしれない。
「この場にあるぞ」
オフィオンはあっさり答えた。
「だからこそ、ここに案内したのだ」
「え?」
「へ?」
オフィオンが手を翳す。
魔法で隠蔽されていたものが姿を見せる。
「高度な透明化っスな……」
それまでただの何もなかった空間に直径2mほどの円形のものが浮かんでいた。
支えるものは何もない。浮いているのだ。
それは丸い何かにしか見えなかった。
「舵輪のようだな。大きいが」
船乗りであるルシエはそう感じた。
「なんていうか馬車の車輪だな?」
これはシュラハトだ。
「占いカードの運命の輪って感じにも見えますネエ」
マーチスはこの世界のカード占いに例えた。
もっとも彼の世界にもタロットカードはある。
「どっちかっていうとー。ルーレットぽくなーいー?」
「ルーレット?」
「くるくる回してー玉入れてー数字化や色を当てるとお金が儲かるやつー」
「博打っスか……」
沙那にはむしろゲームではお馴染みのものだ。
彼女自身カジノでルーレットをプレイしたことはないが、ドラマや映画の知識としてはポピュラーだった。
「博打という意味ではそうかもしれんな。通ったエルフは何人もいるが、戻って来たという話は未だにない」
オフィオンはこともなげに言った。
「でも、色が赤黒じゃなくて虹色っていうのがーなんか不思議だねー」
「危険な香りがしまスナ」
「その輪は数代前のエルフが設置したものだ。空間魔法を制御するものだというがなかなか不安定に思う」
オフィオンの感想はそうだ。
「だが、先代のエルフは法則性に気付いたので自分で実験するといって、中に消えた」
「消えたのー!?」
「1年待ったがリアクションがなかったので、新しい使いをエルフに求めた。この魔法装置自体がエルフの魔術だからな」
ドラゴンにとって1年がどれほどの意味を持つのかは判らない。
人間にとっての5分か10分かもしれない。
そうだとしたら、実は気が短いのかもしれなかった。
「もしも、完全な確認が取れたら、儂らも続くつもりじゃ。この世界にいつまでも迷惑はかけられんからな。おそらくはエルフどももだろうな」
「すると……僕が挑戦するべきなんですね」
ルゥが息を呑んだ。
死ぬ覚悟で来ているのだから、問題はない。
そう自分に言い聞かせてるのだった。
「ちょっとまってー!」
沙那が一歩前に出た。
「ここは子供じゃなく、おねーさんが先に行くべきー!」
「おね……さにゃも子供みてーなものじゃないっスか」
「ていっ!」
回し蹴りだった。
この娘に恥じらいはないのだろうか。
「いてっ」
「夢の世界の主人公としては、最初に飛び込んでー……目を覚ますか、新しい冒険の始まりになるのかー……わくわくするねー!」
夢の中にいるつもりの沙那にとって怖いものはめったにない。
Gが苦手だが、この世界ではめったに見なかった。
気持ちは無敵だ。
「さにゃ……」
「で、これ、どう使うのー?回せば良いのー?」
「何代か前のエルフが説明書きを置いて行っているから、そちらを先に見たほうが良い」
オフィオンは少し頭が痛くなった。
この人間たちは危機感がないのだろうか。
特にこの娘は。
「む?なら、クロちゃん!お勉強はキミの仕事だー!さあ、その日記を開くがよい!」
沙那が王様口調で宣言した。
何かのゲームの影響なのだろう。
「面倒事はオレってことっスな……」
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