不死身の遺言書

未旅kay

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一章.

3話.廃墟

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 元廃墟ビルである、この建物はオフィス街から少し離れた位置で、時代に取り残されたように そびえ立っていた。私のように。
 その近辺にあるのが、 光世橋みつせばし女学院。私の膝で眠りこける少女の通う中高一貫の私立の高校だ。女学院だけあって、女子の花園である。男子生徒 もとい男は存在しない 空想ファンタジーの産物に近いだろう。

  数時間前までは、六十件にわたる私に送りつけてきた画像の説明に奮闘していたにも関わらず、終わるや否やピタリと寝むりに落ちた少女━━矢子 日和。私と彼女には血縁関係が無い。しかし、私のいつでも投げ出せ、失うことが出来ない命なんかよりも数十倍大事な存在だ。

  彼女との出会いは八年前。私が約二十七歳で、彼女が八歳の時だった。彼女の両親である 原田はらだ灯里あかり、旦那の名は……忘れた。思い出せない……どうでも良い。日和の、矢子という苗字は彼女の母親の旧姓である。面識を持ったキッカケは彼女の両親二人の葬式だった。黒い有象無象の礼服集団の中で、彼女一人がひたすらに声をあげて泣いていた。
 そんな彼女を見つめる親族の目がやけに冷たかったのを、私は今でもハッキリと覚えている。私の知っていた矢子家の親戚なのだろうかと、疑問を抱いたほどにだ。旦那の親族も似た感じであった。

  彼女の引き取り手の押し付け合いが起ころうとする真っ只中で、私は痺れを切らして線香臭いその群れの中へと飛び込んでいった。

 このまま、彼女が施設に預けられるくらいなら。ただ泣いている純粋無垢な少女が此処にいる腐った大人たちの元へ行くくらいであれば。
 私自身も施設に似た環境で若き日を過ごした経験が無かったわけではないが、目の前の少女が迎えられる環境が親戚であれ、施設であれ、彼女に対してい環境であるかどうかという確証は無い。
 
 だったら私が引き取ろうと思った。その目を、その声を、私は嫌になるくらいに、この身が覚えていたから。

 それから、巡り巡って九年の年月が経ってしまった。遂に日和が彼女の生みの親と一緒にいた時間よりも、長い歳月を共に暮らしたというわけだ。




 そして現在。私は約二十七歳。彼女は十七歳となったわけだが。この物語は、三十一枚ある遺書に同封してある、三十一個のUSBメモリーの中に記した物語の一断片である。

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